108話目 マーライオン
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「……なるほど……風を浴びながら進むと言うのは、気持ちが良いものだな」
そう言いながら風によって乱された髪を簡単に整えながら、
気持ちよさそうに風が吹く方向へと身体を向けているオリヴィア。
授与式を終えた俺達は、城塞都市ノースベルトを目指して、
現在帆船で川をのぼっていた。
「しかし、魔道具の使い方として、このような使い方をするとは
思ってもいなかったぞ。面白い使い方だ」
帆船であるため風を受けて走る。
当然、逆風の時もあるし、川を遡上することもある。
川の流れにのるだけだと何もしなければ下ることしかできないが、
風を発生させる魔道具を使って帆に風を当てて逆走させている。
船員にオールを漕がせるガレー船もあるけど、
ガレー船では荷物の運搬量が少なくなってしまうから普段使いはせず、
帆船にてノースベルトとアズーリ、そして王都に物資を運搬している。
ちなみにガレー船自体は何隻かはアズーリ領にはある。
戦船仕様にしているため使わないことを願ってはいるけど……
感心しながら帆に風を当てているのを見ていたかと思ったら、
また正面を向いて船首に仁王立ちするオリヴィア。
もちろん鎖で繋がれた俺も一緒に船首にいるのだが……
「船か……これから先は、この船を使って荷物を運搬する時代が来るのだろうな」
「まあ、川沿いや海沿いなんかでは。
ただ、内陸部では船も入ることもできないから
今まで通り馬車で運ぶところもあるけどね」
「まあ、そうだな。
ただ、その船を持っているのが、マコトしかいないとなると……
アズーリ商会の栄華がこれから始まるのだろう」
……こうやって褒められると警戒してしまうのは、もう仕方がないだろう。
素直にその言葉を受け止めることが出来ず、
思わず次の言葉に警戒して身構えていると、
そんな俺の姿を見て苦笑しながら、
「素直に言っているだけなのだがな……」
そんなことをつぶやきながら風に気持ちよさそうになびかれるオリヴィア。
長い金髪を風になびかせ、それをかき上げながら朗らかな顔をする。
そのままの朗らかな顔をしたままで、ゆっくりとこちらに顔を向けてきて、
「どうした?」
そんな俺の質問を聞いた瞬間ニコリとほほ笑んだと思ったら……
「ゲロゲロゲロ」
マーライオンみたいにゲロを口から吐くのである!!
鎖のためすぐ傍に位置取っており、一瞬のことで避けることもできずに
ゲロを真正面から受けることに……
唖然とする中、マーライオンとなったオリヴィアは、
しばらく吐いて、やっと止まったかと思ったら、
「おぇ!!ゲロゲロゲロ」
不動の仁王立ちで、口からゲロを吐くオリヴィア!
その姿が立派! なわけあるか!!
「ちょっと待て!?
何でこっちに向かって吐いているんだよ!?
吐くなら海に向かって吐けよ!!」
そんな俺の言葉なんてスルーされて、そのまま勢いよく吐き続けたオリヴィア。
この身体のどこにこんなにも入っていたのか、疑問に思うくらい大量に吐いてくれた。
その後船員たちやオリヴィア付きの使用人たちの手によって、
船首の甲板はきれいに掃除されて、俺の方はと言えば……
「……減るものじゃないんだから一緒に入ればいいだろう?」
カーテン越しにそんなことを言ってくるオリヴィアに、
「今すぐ海の藻屑にしてあげましょうか?」
冷え冷えとした声でオリヴィアに声をかけるローズの声が聞こえて来た。
あの太々しい態度であるとは言え、オリヴィアはお嬢様だ。
服を着替えるのにも使用人がいるためローズが手伝っているのだが……
「ああぁん? 貴様ごときに出来ると思うのか?
逆に貴様を海の底に沈めてやるが?」
……カーテン越しでも伝わってくる二人の殺気だった睨みあい。
俺は思わずため息をつきながら、二人を止めなくてはいけないのか…
とため息をつきつつ、カーテンを開けるのだが、
「乳牛……今すぐ牧場に送り返してあげますわ」
「貴様ぁ~……今すぐその枝のような身体を折って、薪にしてくれるわ」
まさに一発触発の状況になっているし……
っていうか、俺がカーテンを開けたことにすら気づかない状況で
2人は睨みあっていた。
「……とりあえず二人とも落ち着い……」
そこまで言いかけたところで、二人がこちらに視線をギョロリと向けてきて、
「落ち着いていますけど……なにか?」
……うんうん、落ち着いてない人が言うセリフだね……
「ああぁん!? マコト、私が冷静でないと言っているのか? はぁ~!?」
……ホント、輩としか思えない発言だし、絶対に冷静じゃない人の発言だから……
なぜかとばっちりのように二人から詰め寄られる俺。
そんな時に幸運?にもプルメリア(プルメリア的には不幸)が現れて、
「アズーリ男爵様、そろそろアズーリ領に到着し……ま……すが……」
ローズとオリヴィアがお怒りになられていることを察して、
言葉をうまく言い切れずとなり、そしてなにかを悟って
そのまま回れ右をして部屋から出て行こうとした。
俺は慌ててプルメリアの腕を掴み、二人にも
「どうやら着くみたいだから、下船の準備をしようか」
そう言いながら、
『ちょっと逃げるなよ!』
『誰だってこの状況だと逃げるに決まっているじゃないですか!!』
確かに……俺が同じ立場だったら逃げるだろう。
だけど、今の立場は違うのでプルメリアの腕を掴んだまま逃がさない。
何とか逃げようとするのだが、俺の手を振り払うことなどできずにいると……
『……プルメリア、俺との関係は……寄り親と寄子だよね』
そんな俺の言葉にプルメリアの方は、
『こ、こんな時に権力を使ってくるなんて!?
なんてひどい寄り親……逆らおうにも……』
遠い目をしながら自分の立場を噛みしめて、
そして顔を下に落としたかと思ったら深い溜息をつく。
『……逆らえない自分が情けない……』
そういうと覚悟を決めた表情をして顔を上げて、
今にも殺し合いが始まりそうなオリヴィアとローズに対して、
「お、お二人ともそろそろ下船の準備をしてください。
オリヴィア様、お時間もないと聞いておりますので……」
そこまで言ったところでローズの険しい視線がプルメリアへと向く。
ついでにオリヴィアの野生の野獣のような視線がプルメリアへと向く。
プルメリアは今まさに狩られようとしていた……
ごめんね……
っと心の中で謝りながら、プルメリアを盾にして
この修羅場を鎮静化することに成功したのであった。
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