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日影恵介の日常

俺の名前は日影恵介、十八歳だ。

趣味というほどではないが漫画やアニメなどの創作物はよく見る、というか見ていた。

一年前、学校で友人とおしゃべりをしていたら突然異世界転移していた。これだけ聞くとただの中二病みたいだな……。

でなんか女神様とお話ししたところ俺がこの世界に来たのはただの偶然で、特に何も使命だのなんだのはないらしい。

一応元に戻れるみたいだったが、残ることにした。

いや勘違いしないで欲しい!そりゃチートで無双だのハーレムだのに憧れがないわけじゃないが、それをやりたいがために残ったのかと言われればNOである。

元々俺は頭がいいわけじゃない、努力が足りないだけと言われればそれまでなのだが大して成績が良いわけでもなく、人望も薄く友達は二・三人程度、運動神経も並レベル。

俺より低いやつも沢山いるだろうから完全にただの自己中心的な行動でしかないが、将来典型的なブラック企業に就職することの可能性がかなり高いと感じた俺は人生をやり直す気分でこの世界に残ることを決めた。自分でもクズい行動だとは理解しているが、仕方ないじゃないか。考える時間が全然なくてさっさと決めなくちゃならなかったんだから。

とりあえずこの世界に来て一番感じたことは、日本の教育って優れていたんだなあ、ということである。

日本ですら運動神経が並レベルだった俺が冒険者業で当たり前のように大金を稼げている、都合が良すぎて自分でもドン引きである。

怠惰の権化みたいな感じでダラダラと怠け続けていた俺が異世界に来ただけで高水準の生活ができている、そりゃ嬉しいことには嬉しいが、罪悪感が半端なくふざけんなとしか言いようがない感じだ。

不便なことを挙げだしたらキリがないし元の生活よりも質は低いが安定している。命の危険はあるが、鑑定があれば結構危険か否かは分かるし科学知識があれば大抵何とかなっている。

漫画とか読んでたら身についた変な知識がこんな形で役立つとは思わなんだ、やはり漫画は偉大だ。

話が逸れたが要するに苦労らしい苦労をさっぱりしていないのだ。まあ他の人から見たら働き者に見えるのかもしれないけど……。

でもこれがチートかと言われるとなあ、何だかんだ毎日忙しいし日本での勉強の成果が出ているといっても過言では、あるか。


「あの、ご主人様。朝ごはんできました」

そろそろそんな下らないことを考えて現実逃避をするのはやめよう。

現在俺には途轍もなく重大な問題に直面している、女の子と同棲中ということだ。

いや本当に調子乗った、家事ができる奴隷を買って家政婦さんみたいになってもらおうかなって考えてたらまさか女の子しかいないとは。

待遇を良くすれば罪悪感もなくなるかなあとか思ってたんだけど、そういうレベルじゃなかった。まさか自分がここまで女子に耐性がないとはなあ……。

そう考えるとハーレム系の主人公ってすげえな、なんで元々陰キャなのにあんなにスラッスラ女子と喋れてんの?ハーレム系主人公って意外とコミュ力高かった事実に驚きである。

「と、とりあえずいただきます」

うん、うまい。ぱっと見栄養バランスもしっかりとれているし普通にセラ料理うめえ。

顔もいいし、もし奴隷じゃなかったらさぞモテていたことだろう。

漫画の主人公とかだとこういう風に虐げられている人がいたらぶちぎれたり奴隷を全部買うみたいなイケメンなことをするんだろうが、生憎俺はそこまで善人ではない。

残念ながら奴隷というのはここじゃ当たり前の文化だ、俺の勝手な偽善的な感情で他人に迷惑をかけるとか想像しただけでテンションが下がってきた。

この後は仕事に行かなければ、食費等諸々が二倍になったので老後の資金をもっと貯めておかないとな。

という訳で俺は逃げるように家から出ていきギルドに向かった。


そろそろ日が沈み若干街が橙色に染まり始めた頃ようやく仕事が終わり家の近くまで着いた。

これでもジャパニーズ社畜よりは全然ホワイトなんだよなあ、寧ろ走ったり力仕事も多少するせいで健康的になってきたような気もする。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

ああ、現実を見ていなかった。忘れていたかったが我が家にはあの子がいるんだった。

多くの男の子が憧れるセリフも今の俺には正直マジで勘弁して欲しい。昨日のあれだけで理性を保つのに精一杯だったってのにこのままだと冗談抜きで狼になるぞ、俺。

そんな感じで悶々としているとグゥ~~と大きな音がセラのお腹から響いた。顔を赤くしてそっぽを向くセラを見て俺は何となく察した。

「あの、セラさん?昼飯はどうしたの?」

「……食べていませんが」

「今すぐ何か食べて!」

どうやら奴隷が自分のために主人のものをとるのは御法度で、食べていいと許可されて初めて飯を食べれるらしい。想像以上に奴隷の世界はブラックだ。

一先ずこれからはお腹が空いたら気軽に料理を作ってもいいとは教え込んだが、これから後いくつ奴隷の世界の常識を教えられるのだろうか。さっきとは別の意味で胸がドキドキだ。


いやしかしどうしてこうなったのかな?

あの後風呂に入り、飯を食べてベッドの上にいる。昨日あれだけ言ったので流石に寝室に突ってくることはないとは思うが変に緊張して中々寝付けない。

異世界でこんなに物事がサクサク進んで、どこの主人公チート系のラノベだと叫びたくなることもそうなのだがやっぱりセラに関して悩みは尽きない。

たった五年かそこら、それだけで彼女に奴隷の生き方が染みついている。主人の害にならず主人に尽くす、そうすることで自分の価値を示し続け殺されないようにする。

よくある話なのにいざ自分の目でみるといやはや、なんとまあ不快だな。日本という甘ちゃんな国に生まれたせいもあるだろうが、やっぱり人が虐げられているのを見るとイライラする。

死にたくないと考えているのに自らの命を削る行為には躊躇がない。あのままじゃいつかぶっ壊れてしまう。

どうにかしたいとは思うが、その方法がさっぱり分からん。相手の心に寄り添ったりするようなのはぶっちゃけ俺には無理だ、そこまで察しも共感能力も高くない。

目を瞑って色々な方法を考えるがどれもピンと来ない。そもそも俺があの子と会ったのは昨日、何を求めていたり何が好きなのかとか何一つ知らない。

年齢は高校一年生の女子がどういうものが好きかなんて知ってるほどイケメンじゃないし、優しくしてあげるにもいらないもの、苦手なものを渡されても寧ろ喜べってプレッシャーを与えてるみたいになりそうだし……。

やっべえ、マジで何も思いつかねえ。そもそも目的からして曖昧なんだよ、あの子に染みついてる奴隷としての生き方をどうにかするって。

はあ、とりあえず自分を大切にできるように一個一個の命令を考えて、できるだけ甘やかしていくしかないか。

もう少し小さければ女子って認識しなくてすむからもうちょい思い切った手も使えたんだが、自分の女子への耐性の無さが実に恨めしい。

小学生の時に男子だけじゃなくて女子とも話ときゃよかったなあ。ああ、そもそも男子の友達も少なかったか。

そんな自虐をかましながら他にも色々と考えていると次第に眠気がやってくる。

もうさっさと寝よ、どうせ今何かを考えても上手くいくかなんて分かんないんだ。

明日の俺が緊張してやれることもできないなんて事態に陥らないことだけ祈っておこう。

そうして思考をやめると直ぐに意識は落ちていき、いつの間にか眠りに落ちていた。


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