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強敵との戦い

「小悪魔」

「かつて人類の愚かさに嘆き、人間を絶滅させようとした悪魔がいた。これはその分身体の一匹」

「本体が死んだことによって大きく力を失い、理性は既にない。今はただ、人間を殺すという意思にのみ突き動かされている」

「肉の体を持たず、その叡智が失われることはない。強大な魔法を操り、高い飛行能力を持つ」

小さい角にコウモリのような黒い羽を持ち、小さく丸っとした三頭身の体におもちゃのような杖。

見た目だけで言えば可愛らしく和むのだが……。

『キキッ、キキキッ』

頬が裂けるのではないかというほどに口を開き残酷に笑い、そこから漏れ出る不快な笑い声が全てを台無しにしている。

数百年前に本体である悪魔とほとんどの小悪魔が討伐されたので全滅させたと思われていたのだろう。

仮に偶然見つかったとしても勇者など人間の中でも特別な存在や、国の騎士団の団長など戦闘に特化した者などでないと単独で太刀打ちすることはできない。

人間を絶対に殺そうとする性質も相まって誰にもその存在を知られることがなかったんだな。死んだ証拠すら残らないほどに一瞬かつ超火力で殺すのもあるだろうな。

『クッソ!生命無き領域(ライフレスゾーン)!』

彼の得意魔法であるライフレスゾーンを使うも小悪魔に一切リアクションはなく、小さな杖を振るうと数十個もの光の玉が小悪魔の頭上に生み出され、彼に襲い掛かる。

彼の足が実力に反して遅すぎたために狙いが外れ運良く全弾避けられていたが、玉が当たった地面には深い穴が生まれ逃げ場は着々と無くなっていた。

運が良くても次の攻撃をしのぎ切れるかどうか、といったところか。

『ゲホッ、はあっはあっ。ああもう、肉の体を持たないってそういう事かよ!』

既に体力が少ないのか、息を荒くしながら彼は八つ当たり気に叫ぶ。

そう、小悪魔が日影青年と相性が悪い理由がそれだ。

肉の体を持たない、つまり悪魔は生物ではないのである。

その分繁殖などはできず、身体能力や魔力が成長することもないのだが生物特有の弱点は存在しない。

呼吸も食事も睡眠も必要なければ、腕が千切れようが半身が消し飛ぼうが、どんなに体が破壊されても死ななければいずれ再生する。

対して日影青年の魔法は今のところ対生物に特化した殺傷能力の高い魔法しかない。

こっちの世界の知識で覚えた魔法がないわけではないが、彼自身が創った魔法に比べれば性能はかなり落ちる。


肉の体を持たない相手を殺そうとしたら、頭を吹っ飛ばすか胸を吹っ飛ばすかの二択だ。

理由は単純、例外はもちろんあるが生物無生物問わずその個体の重要な部分は頭か胸だからだ。

四肢は頻繁に使用し消耗も激しいから論外、腹は体の真ん中かつ面積も大きいため外部からの攻撃に当たりやすい。

その点頭や胸は地面から遠いため、ふとしたことで傷つくことは少ないし、頻繁に酷使されることもない。脳も心臓も頭と胸にあるのはそれが一因だな。

しかし彼の魔法にそこまでの破壊力を持つものはない、できても時間はかかるし魔力は馬鹿みたいに使うし一撃で仕留められるかも怪しいレベルだ。

難易度としては一般人に空飛ぶ鳥を小石を投げて落とせって言ってるようなものかな。要するによほどの奇跡が起きないと無理ってことだ。

威力の弱い魔法でもチマチマ撃って少しずつ弱らせるっていう方法もあるんだが、その前に確実に彼が死ぬ。

数百年前に人間が悪魔を討伐できたのは勇者の圧倒的な力と、国や宗教など関係なく人類が一丸となって立ち向かったからだ。現在一人だけの彼じゃ明らかに勝ち目は薄い。

残された可能性としては偶然近くをとんでもない実力者が通って助けてくれるか、今この瞬間彼が破壊力抜群の新魔法を創り出す、といったところか……。


どんだけ都合が良すぎる展開だよ!今どき童話の英雄譚でもそこまでのご都合主義なストーリーにはならないよ!思春期真っ盛りの男子ぐらいしか喜ばんよそんなもん!

『フ、ふっふっふ。まさかこんな所で俺の新魔法をお披露目することになるとは!』

あまりにも彼が生き残る可能性が小さいため私が半分諦めていると、彼がひきつった顔でそんな事を零していた。

何言ってんだこいつ、と思いながら彼を見ていると『アイテムボックス』から鉄製の二又の槍と同じく鉄製の円錐を取り出した。更に円錐を槍の穂先に乗せ、小悪魔の方に向ける。

『レールガン』

彼がそう呟くと、轟音と共にとんでもない衝撃か発生した。

どうやら運命を管理する天使は思春期真っ盛りの男子と同じ思考回路で作られていたようだ。まさか本当に破壊力抜群の新魔法を創り出すとは……。

小悪魔の上半身を欠片一つ残さず消し飛ばし、一撃で殺すことに成功していた。

今のは槍に電流を流し、槍の穂先で円錐を経由し磁界が生まれたことで(エネルギー)が生まれ円錐を飛ばす、ざっくりとだがそういう理屈か。

あんな雑な回路じゃ効率が悪く、普通は大した(エネルギー))は生まれないはずなんだがとんでもないほどの高い電流でゴリ押して膨大なエネルギーを生んだようだ。

考えてみれば彼が二つ目に創った魔法は高圧電流の魔法だった。大量の魔力を使ったことも合わせて、相当高い電流を流せていたみたいだ。

いやしかし、あんな貫通力を高めた形状の鉄塊を音速を超えて飛ばすとは……。殺意が高すぎる、日本にはそんな兵器があるのか?日本は平和だと聞いていたが、よく分からなくなってきた。

確かに破壊力は凄まじかったが、流石に反動も大きかったようで日影青年は数回転した後五メートルは後方にぶっ飛んでいた。

ついでに槍は炭化しボロッボロになっていた、これでは一発撃ったらそれでおしまいで連射はできないな。弾も使い切りだしそもそもあれだけの電力など、魔力もなしにそう簡単に生み出すことはできない。

なるほど、よくよく見るとコストがかなり高い。もしかしたら理論だけで実用化してない兵器なのかもしれないな。というかそうであって欲しい。


翌日、彼は小悪魔の死体をギルドに出したが、金は貰えなかった。

理由は大きく分けて三つ、まず一つ目は死体が全く役に立たないということだ。

正確に言うと、小悪魔の体は魔力を圧縮してできているので魔道具の素材としては最高級のものなのだが、死ぬと数日で分解されるので全く意味がない。

明日明後日ぐらいには跡形もなくなっているだろう。

二つ目は誰もこの小悪魔が噂の正体だということを証明できないからだ。

そもそも正体が何なのかすら分かっていないのにいきなり『これが噂の正体で、俺が倒しました』と言われても、はいそうですか、と受け入れるわけにはいかない。

証拠もなければ方法も分からない。私は世界記憶を調べたので理解しているが、日影青年本人ですら確証がないのに他人が信じてくれる訳がない。

小悪魔が動いているのを見たのは彼だけなのでまずそんなに強かったか否かすら分からないのだ。

三つ目はこれが小悪魔だとすら分からないからだ。

なんせ小悪魔が最後に人の前に現れたのは数百年前、当時悪魔がかなりの被害をもたらしたのもあって資料がほとんど残っていない。

国の資料をあさったり、言い伝えなどを聞いて回ったら証拠が出てくるかもしれないが、死体がもうすぐ消えてなくなるのでそんなことができる時間がない。

彼はまだ冒険者になって一か月、言った事がすんなり受け入れてもらえるほどに信頼は築けていない。

残念ながら小悪魔を倒してもこれといって何かを得ることはできなかった。

とは言え本来の目的である鬼蝙蝠の牙はかなり高く売れたため、彼はそこまで落ち込んではおらず、今無事に生きていることを喜んでいた。

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