コンビニで君と
私は佐藤 日菜。しがないコンビニのアルバイト。
なんとなく入った大学も正直1ミリも興味が持てることもなく辞めた。
「ヒナー。私の変わりにゴミ出し行ってきて~」
先輩バイトの土屋さんが面倒な仕事を押し付けようとしてくる。
「土屋さん、冗談は勤務態度だけにしてください。」
彼女は大学生でありながらバイトをいくつも掛け持ちしており抜けるとこでは抜くからこのバイトは抜くと面で言われた。
「冗談だって~それより土屋さんじゃなくてショーコさんって呼んでって言ってるでしょ!」
「あ、レジにお客さんだー」
「もー!」
めんどくなりそうなのでレジに戻る。
「あ、マイちゃんマイちゃん!ここのカスクート美味しいんだよ!」
「え、ヒメ。か、カスクーなに?」
二人の高校生が目に入る。
仲良さそうだな~腕組んでるよ。
それより、まだ昼なのに今日はもう学校終わりなのか。
てことはそろそろ…
私の悩みは3つある。
1つ目はこの先の見えない将来。
2つ目はやる気のない同僚。
3つ目は…
「佐藤さーん!!これくださいなー!」
「お弁当は温めますか?」
「私の佐藤さんへの気持ちはすでにアツアツですよ☆」
「…温めますね」
3つ目はこの近所の高校に通う鹿野 縁だ。
何故か少し前から気に入られてしまった。
「お弁当を温めるということはその温めてる時間で私とお話をしたいってことですね!!もう~それならそうと言ってくれればいいのに~」
「横にズレてお待ち下さい。次の方どうぞ~」
「これお願いします。…あれ?ユカリちゃんだ~」
「あ、ヒメ!佐藤さんに夢中で気づかなかったわ!」
「佐藤さん?ああ、この人が噂の!」
「ヒメは例の先輩とデート?」
「デートなんてそんな…そんな!!うへへ」
二人は知り合いだったのか。
仲の良いカップルは会計を済ませ店を出ていく。
すると後方の電子レンジから音がなる。
やっとか。
「お待たせしました~」
「あー全然佐藤さんと話せなかったわ。佐藤さんそろそろ、私とデートに行く気になりませんか?」
「残念ながらお金がないしバイトで時間がない。」
「そうですか…それじゃあまた来ますね。」
「ありがとうございました~。」
「なんでそんな頑なに遠ざけてるの?」
「土屋さん…」
ゴミ捨て行ってから30分くらいたってようやく帰って来て今まで何してたんすかって聞こうかと思ったけど長くなりそうだけど辞めた。
「なんだ?ゴミ捨て30分もかけて何してたんだ?みたいな顔しやがって~。サボってた訳じゃないぞ?休憩してたんだ。」
全部バレてるよ…
「それをサボりって言うんすよ。」
「で?一回くらいデートしてあげればいいじゃん」
「うーん…色々と理由があるんですが…」
「そもそもあの子とはどこで出会ったの?」
「そうですね、まずはそこから話さないとっすね~」
あれは約8ヶ月前の桜が咲き乱れる4月のこと…
鹿野さんが通う高校の前には湖があり、そこを囲うように桜の木が並んでおりそれは綺麗な景色だった。屋台も出ており花見に訪れる人は多かった。
その日はバイト先に少し早くに着いてしまったため少し足を伸ばし桜を見に来た。
大判焼きの屋台が目に入ったので食べながら回ろうかと思ったら
「あれ?あれ?財布…財布が…」
そこで私は鹿野さんと出会った。
「お姉さん、この子の分と私は…クリーム1つはください。」
「え?あの…その、ありがとう…ございます!」
「財布忘れちゃったの?可愛い女の子に奢れるなら私も本望だから気にしないで」
「あの、奢ってもらっといてなんなんですがよろしければ一緒に食べませんか?」
「ん?いいよ。あの辺に座って食べようか。」
それが鹿野さんとの出会いだった。
「もぐもぐ、お姉さんは…モグモグ…大学生…むしゃむしゃ、ですか?」
ものっそい、勢いで大判焼きを平らげて私の大判焼きを眺めてくる。
「んー、大学は今年やめたんだ。今はただバイトをしてる。」
まだ口をつけてない大判焼きを半分にして鹿野さんに差し出すと嬉しそうな顔をして受けとる。
「夢を追いかけて大学をやめたってやつですね!!凄いカッコいいです!私は特にやりたいこともないので夢を追いかけてるお姉さんが羨ましいです!!」
「え?いや…そういえば訳じゃ…」
「あ、すみません。そろそろ高校に行かなくちゃ!大判焼きご馳走さまできた。またお会いしたらお話し聞かせてください。」
そういって走り去ってしまった。
「あ、ちょっ…」
「ありがとうございました~」
カスクートよく売れるな~
てかあの人綺麗な銀髪だったな。
「で、その後は?」
「その後、このコンビニで再会してぐいぐい来られるようになったわけです。」
「え?つまり勘違いされて惚れられて、訂正する間もなくズルズルここまで来たってわけ?」
「…まあ、そうっすね。」
「見栄っ張りね~」
「コンビニのお姉さんである限り、夢を追いかけてるお姉さんになれるからこのままでいいんです…」
「そっか…あ、そろそろ上がりの時間ね。」
「あ、もうこんな時間ですか。」
『このままで』『このままじゃ』そんな想いを繰り返している。
たまにはがむしゃらでもいいんじゃない?
そんな風に土屋さんは顔で言っていた気がする。
「さってと、退勤したし帰りますか~」
「あ、私夕御飯買ってくのでここで。」
「たまには自炊しなよ~お疲れ~」
土屋さんにペコリと頭を下げて店でお弁当を買い店を出る。
「あ!お疲れ様です。」
「あれ?鹿野さん、どうしたの?」
「ちょっと、友達のヒメがカスクート美味しいって言うから気になって買いに来たんです。」
「そっか…」
「「あの」」
鹿野さんと同時に声を発してどうぞどうぞというジェスチャーをされる。
「あ、あのさ…今度一緒にどこか出掛けない?」
「え!?いいんですか!!嬉しい!!嬉しいです!!」
「喜んで貰えて嬉しいよ。じゃあ今度連絡するね。」
「はい!」
連絡先を交換してその日は別れた。
店員という仮面を脱ぐのはとても怖い。
きっと私はそんなたいした人間ではないという事が知られてしまうだろう。
でも私は…
彼女と向き合いたい。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
地上の百合をモニタリングしているとたまに美味しそうな食べ物が目に入る。
そういう時は人間に扮して時々下界に降りる。
「…お、あったあったこれか~」
最近イチオシのマイヒメを見てたらコンビニで買ってたカスクートが機になり買いに来た。
「一点350円でございます。」
ん?この佐藤という店員、百合の匂いがするな。
今後観測対象だな。
こういった出会いがあるから下界はたまらない~
天界に戻りカスクートを食す。
「うん、美味しい!」
「また下界に行かれてたんですね?」
「お?理さんじゃないか。可愛い女の子の姿になってお姉さん嬉しいよ。」
「ティアナさん、下界に干渉するのはいろいろと問題があるんですって」
「んー、まあ問題が起きたら私が対応するから。」
「はーまったく、あなたって人は…」
「それよりみてみて、あの二人いい百合の気配がしないかい?」
世界の理を丸め込み今日も今日とて百合を観測する。
お読み頂きありがとうございます。
キャラの名前は自分にセンスがないので、その時その時ハマってるコンテンツのキャラやら声優やらから持ってきてます。
あとカスクートはある漫画の好きなキャラの食べ物でした…