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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

そういう生き物

作者: 京本葉一

 前を歩くふたりは、ともに女子高の制服を着ていた。強い風が吹いてスカートがめくれると、小さな悲鳴がきこえて、きれいな脚線に、白と水色がみえた。とくに模様のないシンプルなデザイン。布地は高級そうだ。


 後ろ姿と声色と、下着で判断するかぎり、十六、七歳の娘らしい、可愛いらしい女の子におもえた。実際はどうだろう? 女生徒たちが振り返る。どちらも整った顔をしていた。


 雑誌の表紙を飾れるような美少女たちが、後ろを歩いていた男の存在に気づいて、立ちどまり、ちらちらと盗み見ている。ひそひそと秘密の相談をはじめる少女たちの表情は、淡い羞恥に染まっていた。遊び慣れた雰囲気はない。


 何事もなかったように、彼女たちを抜き去る。

 しばらくすると、背後から二人分の足音が近づいてきた。



 あの日も風が強かった。新築であろう家の玄関口、懸命にあつめたゴミとホコリがあっさりと吹きとばされて、幼い女の子が泣いていた。

 母親らしき女性がなぐさめている。幼い子どもと視線を合わせるため、しゃがみこんでいた。二十代の後半だろうか? 豊かな胸がシャツを押し上げていた。

 ごく自然にふたりに近づいて、二言三言、言葉を交わす。幼い女の子に、知らない大人に対する恐れはない。母親のほうにも、見知らぬ男に対する警戒心はない。

 幼い女の子と手をつなぎ、家のなかにあげてもらった。



 不可抗力であっても罪は罪。

 下着を盗み見た悪い男には、厳しい罰が必要であるらしい。


 お嬢さま学校に通うふたりの女子高生のうち、ひとりは高級マンションで孤独な生活をおくっていた。両親は仕事で忙しく、親友と男を連れ込んでも、一人娘を責めるものはいない。


 有罪と断じた男をまえにして、十六歳の親友とひそひそと相談をはじめた。ベッドに寝かせて縛りつけて、男の自由を奪う。それからゆっくりと自分たちのペースで、処女を散らす計画のようだ。





 妻の不貞に気づいたのは、近所に暮らしている婆さんだった。


 通勤前、わざわざ私を呼びとめて告げ口をした。あんたの奥さんが若い男を連れ込んでいると。適当に受け流したが、婆さんはニヤニヤと馬鹿にしながら、私と妻を侮辱する発言をくり返した。法的に訴えると宣告すると、私が弁護士であることを思い出したらしい。ようやく黙った。


 侮辱罪で訴える。その準備を整える一方、妻の不貞、その真偽を確かめる必要も感じた。何もなければ問題はない。問題などあるはずがない。そう信じていたからこそ、浮気調査を数多くこなす知り合いの男に連絡をとった。


 二週間後、自称名探偵の報告をきいた。


 妻はたしかに若い男を家に連れ込んでいる。娘を幼稚園におくったあと、同じ男とホテルに入っている。証拠の映像も確認した。男と腕をくんで歩いている妻は、女の顔をしていた。


 報告には続きがあった。盗撮映像には、同じ男と連れだって歩く若い女が映っていた。よく知っている女だった。大学院に通っている妻の妹。私のものになるはずだった女。最後に映し出されたのは、この若い男が、妻と義妹、ふたりの女に招かれて、私の家に入っていく場面だ。


「奥さんと義妹さん、同時に楽しんでますね、この若いの」


 妻と義妹を汚された。自分の計画を奪われた。最悪の気分だった。目の前にいる自称名探偵にすら殺意をおぼえた。婆さんも、私を裏切った妻と義妹も、当然、この若い男も、殺してやりたい。


「男の住所、つかんでますよ」


 しっかりと追加料金を請求された。さらに料金を追加して、暴力に慣れた男たちを雇うようにいった。





 若い女との性行為。それだけで生きられる。僕はそういう生き物だった。


 女を欲情させる術は自然に備わっていた。それは任意的であり、無差別的に発動して誰かれかまわず欲情させたりはしない。きちんと選別をする。若い女であれば問題はないはずだが、僕にだって好みはある。どんなに綺麗な女であっても、電車のなかで爪切りをぱちぱちやるような女とは一緒にいたくない。


 警戒されたり怖がられたりする外見ではなく、なんとなく安心感をもたらす雰囲気もあるらしい。それもあって、狙った女から逃げられたことは一度もない。


 女は性的に満足するだけで、とくに変化は見られない。艶気が出たり綺麗になったりするだけだ。懐妊もしない。ただ、なぜか彼女たちは若くして死ぬ。行為をした回数が多いほど早死する。おそらく僕は、彼女たちから何かを奪っているのだ。だから僕は、若い女性のことを餌と表現している。


 僕は餌には困らない。困るとすれば、大切なものを奪われた男たちの暴力性だ。僕は若い女を満たすしか能のない生き物。不死ではない。殺し合いになったら、きっと簡単に死んでしまうだろう。

 生き残るには協力者が必要だった。

 たとえば、男の欲望を満たすモノ。

 僕が拠点としている家には、そういう生き物が棲んでいる。来客をつげるベルが鳴ると、まずはアレが出迎えるようになっている。



 くぐもった悲鳴と、荒々しい罵声が聞こえた。部屋の中の様子をうかがう。何人もの男がアレに群がっていた。何も知らない人間がみたら、荒っぽい男たちが、ひとりの女をかわるがわる襲っているよう見えるだろう。輪姦現場そのものだ。実態はその逆で、彼らのほうが喰われている。彼らはもう逃げられない。


 アレは僕とちがってわかりやすい。男は見るからに生気を失ってゆく。簡単に死ぬ。五人? 六人か。盛り上がっているようだから、たぶん、三日間ぐらいは続いて、全員死ぬ。飲まず食わずでつづければ、普通に死ぬだろう。アレの好みの男がいれば、しばらくは飼われるかもしれないけれど。


 アレは男を誘惑するだけでなく、堕ちた男を洗脳する術ももっている。死ぬまで行為は止められないし、役立たずといえば勝手に自害する。僕はせいぜい誘導するだけだから、アレは僕の上位互換のような生き物だ。アレが僕と同居しているのは、僕を狙ってきた男を餌にできるから。アレは重度の引きこもりでもある。


 僕が考えるべきは、遺体の始末と、依頼主の正体だろう。


 いまの餌は七人。そのうち女子高生が五人と、若い母親、その妹である大学院生。過去に縁のあった関係者の可能性もある。ようするに、さっぱりわからない。情報端末を持っているだろうか? もうしばらく時間をまって、アレに頼み、男たちから情報を聞きだしてもらうほうが早いかもしれない。





 雇ったチンピラたちから連絡がこない。若い男を拉致して痛めつける。それを映像におさめる。依頼主が納得するまで監禁をつづける。簡単な仕事だ。連中にとっては遊びの延長でしかない。少額とはいえ前金も払った。文句のひとつもいいたくなる。


 こちらから連絡をしてもつながらない。端末情報によると、男のいる家には出向いたようだ。そこから先の動向が不明。トラブルがあった? 可能性はどうあれ調べないといけない。こっちはすでに多額の前金をいただいている。これ以上の出費を抑えるためにも、自分の足で動く必要がある。


 問題の家の前にはワゴン車が止まっていた。雇った連中の車だろう。まだ中にいるのか? 忍びこんで調べるしかない。周囲に人の気配はない。ドアに近づいて鍵を確認する。これくらいの鍵なら簡単に開けられる。仕事がないときはSNSを漁って情報を探り、家族旅行中の邸宅から恵んでもらっている。そっちのほうが実入りがいいくらいだ。


 静かに侵入をはたす。声がする。あいつらの、呻き声? なにをやっていやがる?

「っつ?」

 首筋にチクリと痛みが走った。小さい針で刺されたような痛み。

 玄関に人はいない。前にも後にもいない。いるのは……。

「……虫?」

 壁にくっついている、コガネムシのような小型の青い甲虫をみつけた。コガネムシに人を刺すような針はないはずだ。これは関係ないはず……。壁を伝って視線をあげる。天井を見あげた。青い甲虫の群れが、一面に蠢いている。


 出るはずの悲鳴が出せなかった。声が出ない。足も動かない。頭がふらつく。身体もだ。ひざをつく。目の前を、大きい蚊のような虫が飛んでいた。動けない。思考がまとまらない。廊下にたおれる。

 例の男が見おろしているのを、ぼやけた視界でとらえた。





 ムシを山へ迎えにいった。蚊っぽいそれは、人間なんか簡単に麻痺させる。好物のビールを提供する僕とは友好な関係を結んでいて、さっそく侵入者を撃退してくれた。いろいろと聞きたいこともあるので、産卵はあとにしてもらった。


 そこまではよかったが、頼んでもいないのに青のあいつらまでついてきた。ちゃんと山まで死体を運ぶつもりだったのに、なぜか家の中でスタンバイをしている。こんな群れが、いったいどうやってここまで来たのだろう? いまだに生態がわからない。僕が知っているのは、死んだ人間の体液を吸いつくす習性があるということだけだ。ミイラになったほうが運ぶのは楽でいいので、まあよしとする。残りかすは、山にいるケモノが食い尽くしてくれる。



 依頼主である旦那をムシに気絶させて拉致した。好みでないと渋るアレに、誘惑、洗脳させて記憶を消去させたあと、自宅前まで送りとどけた。車中では、きちんとムシに産卵してもらった。


 旦那は僕の存在を忘れ去った。妻の不貞について考えることもない。ほかの女への興味もない。どこかにいると感じている、妖しい女のことしか考えられない。もういらないといっていたので、もう二度とアレには出会えない。しばらくすると幼虫が脳に巣食い、考えることもできなくなる。自分で勝手に山へと向かい、そこで果てるだろう。


 洗脳してもらったのは、僕の安全が最優先事項だが、他にも目的がある。旦那本人、そして母親とその妹に、生命保険をかけてもらう。旦那は死んで骨まで消える。行方不明になる。姉妹も若くして死ぬだろう。残された娘が金銭面で困らないようにしておきたい。


 とりあえず片付いたが、これですべて解決とはならない。僕には餌が必要で、その餌には、家族や友人や恋人がいる。いろんな男が僕の存在をかぎつけて襲いかかってくる。いまもまた、尾行されている気配がある。


 男の生命エネルギーを糧とするモノ。

 人間を捕え、卵を産みつけるモノ。

 恐怖を糧とするモノ。

 やすらぎを与えて、生きた人間を喰らうモノ


 襲いかかる男をそれらのもとに誘導するのが、生き残るコツとなっている。

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