第1話【龍人降る】
さらさらと綺麗な短い髪をどこか楽しげに揺らしながら1人の男は宗教都市、ポセドアを歩いていた
「やーっとついた!」
長い船旅を終えたその男は港につくと空へと手を伸ばして伸びをした
彼の名前はエリック・ブレア、ポセドアに生まれた大天才な医者、だ。
もちろん自他共に認める。
さて、今回帰って来たのは帰省の為ではない
彼の仕事である医者としてこの土地に来たのだ
どこかに怪我人、病人は居ないだろうかと降り立ったばかりの故郷を歩き始める。
~
運河沿いを歩きながら坂を登り始める、間口の狭い住宅街に懐かしいなと感じながら。
「おい、危ないぞ」
突如頭上からあまり危機感の無いような低い声がした
あまりにものんびりとした口調になんだろうと顔を上げてみれば
辺りは真っ黒になって
押しつぶされた
〜
これは折れた。
いやもしかしたら死んでるかもしれない
こんな事もあろうかと緊急で発動する回復魔法があって本当に良かった
俺じゃなかったら死んでた
あまりの痛さに逆に冷静になる俺の思考はそんなことを考えていた
あと重い、さらに折れる
ゆったりとした動作で俺の上に落ちたやつは起き上がった
「危ないって言ったろ」
悪気なんてなさそうに、というかむしろ俺が悪いみたいな言い方で
さすがの俺も怒るよ!?
「あれじゃどうにも出来ないよ!」
顔上げた時にはもう視界真っ暗だったよ!
そんなふうに怒りながらも彼を見る
少しキツそうな黒い執事服、漆黒の感情の薄そうな鋭い目、そして綺麗な金色の髪と褐色の肌
少し、見覚えのある容姿だ。
…いやでも…コイツじゃない
「お前が鈍臭いんだろ」
むっかー!!!!
「なんだよこの睡眠不足!!」
「あ?」
目元とか見れば一目瞭然、全然寝てないだろこいつは!医者として?いやそんなの関係ないって絶対みんなわかるから!
そんなことを誰かに抗議しながらも訴えると考えるような素振りをされた
しばしの沈黙、俺は不思議に思いながらもそいつが口を開くのを待った
「お前、俺のところに来ないか」
「…はぁ?」
あんな喧嘩をしたあとで今度はナンパ、こいつは一体どうなってんだ
だけどこの服装から考えてもこいつは誰かに仕える執事なのはわかる
もしかして俺の天才すぎるのが露呈しちゃってた?天才オーラみえちゃった?
じゃしょうがないか〜〜!!!!
あからさまに嫌な顔をしたあとで黒髪の男はにんまりと笑顔を見せて
「いいよ!」
なんて答えると無を貫いた龍人が「来い」と…特に突っ込むことも無く歩き始めた