未知との遭遇
3人から遡ること少し前、、、
悠利は結界を出て、案内してくれる精霊達とのんびり話をしながら歩いていると、突然後ろの方で何か大きな物がぶつかるような重い大きな音が響いた。
「っ?! 何?」
とっさに振り向いたが何も見えず、不安から立ち止まっていると、案内をしていた精霊達が慌てたように急き立て始めた。
ーいそいで!ー
ーはしって!ー
精霊達の強張った声に、何か良くないことが起こっていると直感し、先ほど別れたアルマースの顔が頭を過った。
「アルマースは?! 大丈夫なの??」
ーだいじょうぶー
ーおさは、けっかいのなかにいるから、ぶじー
精霊達の声にホッとして、未知の恐怖から震え出した手足に力を込めながら、精霊達に声をかける。
「良かった、、、でも、危険だから急いで逃げろって事だよね。 行こう!」
走り始めてすぐに、後ろの方からまた木を薙ぎ倒すような音が聞こえた。
怖くて足がもつれそうになるけど、私の周りにいる精霊達が瞬きながら声をかけてくれるから、それを支えになんとか走り続ける。
見えない恐怖に追いかけられ、あまり速くない足を必死に動かすが、体力の限界が近づいてきて、だんだん走るペースが遅くなってくる。
ーがんばって!ー
ーおいつかれちゃう、いそいで!ー
精霊達の声に答える気力もなく、ぜぃぜぃと肩で息をしながら、全力疾走して力の入らない足をかろうじて前に出し続けるが、、、
ドゴォーン!!
地面を何かが打ち付けるような音が鳴り響き、気が付くと視界がグルグル回転しながら、自分が宙を舞っていた。
次に気付いた時には、草と、木々の向こうから現れた、全身血塗れの大きなダチョウのような化け物を見た。
見たこともない化け物に、明らかにイッちゃってる目で見下ろされ、恐怖に逃げようとするが、全身に激痛が走り、起こそうとした体か再び地面に倒れた。
「うっ、、、(体がっ、、、動かない?)」
ーだいじょうぶ?ー
ーからだじゅう、けがしてるー
精霊達の言葉に、先程、自分が何故、宙を舞っていたのか思い至る。
(そうか、私、あいつにやられたのか、、、?)
自分から5メートルほど離れた所には、見たこともない化け物。
動かない身体。
心配している精霊達、、、
なすべもなく一方的に蹂躙される恐怖に一度は心が折れかけたが、精霊達の声が、精霊達の存在が、彼らを助けなきゃ、守らなきゃという強い意志に変わり、私に力をくれた。
ヨロヨロしながも立ち上り、精霊達に声をかける。
「ここは私がなんとかするから、皆は逃げて。 少しでも遠くへ、、、!」
ーにげる?ー
ーぼくたちが、ゆうりをおいて?ー
「大丈夫! こっちの世界で独りぼっちだった私と仲良くしてくれた精霊達を守りたい。 そのためなら、何でもできる!、、、自衛官は守るものがある時の方が強くなれる! 専守防衛の底力を舐めるなよっ!」
そう言って、近くに落ちてた少し太めの木の棒を持ち、にわか仕込みの剣道の構えを取る。
(あまり上手くはないけど、威嚇くらいにはなってほしいな、、、)
そして、木の棒片手に一歩前へ出ようとした私の前へ、無数の光の粒達が現れた。
ーぼくたちとあそんでくれたー
ーわたしたちをともだちといってくれたー
ーおさをたすけてくれた、たいせつなゆうりー
「みんな、、、」
ーうたってー
ーまりょくをくれたら、ゆうりをまもれる!ー
その言葉にはっとした。
本当に魔力とかよく分からないけど、でも、今は彼らの言うことを信じて戦うのがベストだと確信できた。
「♪~」
私が、かつての世界で好きだった歌を歌い始めると、それに呼応するように粒達の光が強くなり始めた。
ーねがって、きみをまもることをー
私は祈るように、心の中で叫んだ。
(負けないで、負けないで!)
その様子を見ていた化け物は、「ゲギャァー!!!」と気色悪い声で鳴き、こちらに突進してきたが、精霊達がそれぞれに風の魔法で切り裂いたり、土の魔法で足止めしてくれたりしたお陰で、私のところまでたどり着けずにもがいていた。
それでもやはり力の差から、光の粒が、一つまた一つと消されていった。
(みんなっ、、、! 死なないで!)
消えてゆく光達に悲しさと苦しさに歌が途切れそうになるも、残りの子達が歌う事を求めていたので、歌い続けた。
精霊達が半分くらいの数まで減ってきて、何度か攻撃を防ぎきれず、私の頬や腕なども裂傷が目立つようになってきた。
すると、化け物が少し距離を置きこちらを見据えると、口を大きく開いた。
何事かと警戒しながら構えてると、口の辺りに光が集まりだし、それがレーザービームのように放たれた。
「っ!」
咄嗟に左へ避けるも光球が足を掠める。 激痛に足を見ると、右足のふくらはぎの辺りが火傷のようになっていた。
ーだいじょうぶ?ー
気遣う精霊達に、何とか笑顔を作り「大丈夫」と答えるが、次は避けれないだろう。
しかし、無情にも第2段を発射しようと、また化け物が口を開ける。
足に力を入れて立ち上がろうとするが、満身創痍の身体は限界を迎え、立つことも出来なかった。
私はせめてもの抵抗に、片膝を着いたまま相手を睨み続けた。
(武士は背中には傷を作らないって、何かで読んだし、、、せめて最期は堂々と!)
より一層、瞳に力を込め、腹を括った、、、




