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足跡と契約

時を同じく、森の結界の外側では、わいわい騒いでいる男達が、、、コランダム王国近衛騎士団団長、カイル・ フォン・ルベウス、副団長ルーファ・ミルニカ、No.3のシュヴァルツ・イェーガーである。

森の中は部隊行動に向いていないので、騎士団のトップ3が討伐に向かうことになったのは良かったのだが、捜索して早々に件の魔獣を発見し殲滅しようと戦闘中、突如雄叫びを上げながら森の奥へと消えてしまい、やむなく再捜索を余儀なくされていた。


「先ほどシュヴァルツに邪魔されなければ、今ごろは森の入り口まで戻れていたんだけどな」


「お前の魔術が余計だった」


「いや、あそこは魔術で足を潰すのが先決でしょう」


「その前に仕留めれば良いだけの話だ」


お互いにダメ出しし合いながらも、周囲を確認しつつ進んでいく二人。

ありがたいことに、ある程度大物の個体であったため、ケツァルの通った後は、枝が折れていたり、草花が潰れていたりしているため、それを辿っていく形となった。


「団長、何かあった?」


ルーファの呼び掛けに周囲を見渡していたカイルはゆっくり前方に視線をやりながら答える。


「いや、、、さっきの戦闘中、どこからか歌が聞こえてこなかったか?」


その問いかけに二人とも首を横に振る。


「やはり、気のせいか? しかし、歌が聞こえたと思ったら、突然あいつが雄叫びを上げ、異様な速さで走り去ったように感じたんだが、、、」


「団長が聞いたなら間違いないでしょう。 しかし、、、それなら、その歌い手が危険かもしれないね」


日頃からカイルの職務に対しての実直さを知っている部下達は、団長の気のせいを信じ、その仮説を元に作戦を練り直していた。

ルーファの発言に、シュヴァルツも


「急いだ方が良さそうだな」


普段から職務を程よく手抜きしたり、戦闘に関しては異様な執着を見せるなどそれぞれ困った部下達だが、こういう時に多くを語らずとも理解してくれて、信頼してくれるのがありがたいなと、改めて実感するカイルだった。




しばらく進むと、結界のある辺りで、異様な光景を目の当たりにした。

おそらく結界があるであろう空間のすぐ前で5メートル級のワイルドボアが事切れていたのである。

ワイルドボアとは、特大の猪のような姿に、背中には金属をも弾く無数の針のような体毛が生えており、先ほどまで彼らが戦闘していたケツァルと同等か、それ以上の強さを誇る。

しかし、その体の真ん中は何かが突き抜けたようにぽっかりと穴を開け、結界の向こう側が見えていた。


「誰が、こんな、、、」


「このサイズのワイルドボアがこんな無惨な、、、この森にそれより強い魔獣が住み着いたとの報告は上がってなかったはずだが」


副団長の驚きとシュヴァルツの分析を聞きながら、導き出される予想を口にする。


「報告に上がってない新種、もしくは進化種が存在してたか、それとも、、、辿ってきた血の跡がここで途絶えていることから、件のケツァルがたまたま戦闘になったか?」


「それならば手負いのケツァルの方が劣勢のはず。 格上と分かっていて戦いを挑むほどのバカはいない」


シュヴァルツの反論に、カイルがこれまで考えていたことを伝える。


「そもそも、最初から違和感があったんだ」


「違和感?」


カイルの言葉にルーファが返す。


「あぁ、そもそも、本当に仕留め損なっていたのか」


二人は驚きに目を見張った。


「二人が仕留め、それを俺は横で見ていた。 その後に団員が死体をまとめて持っていき、1ヶ所にまとめて置いた」


「逃げようと思えばいつでも逃げれたし、私達から離れてあえて死んだふりをする必要もないのに、、、動かなかった?」


ルーファの疑問に、シュヴァルツも気になっていた事を口に出した。


「先ほどの森での戦闘のとき、最初に戦った時とヤツの気配が違っていた。 まるで別の魔獣(もの)であるかのように、、、」


それを受けてカイルは、根拠はないが何故か強く思う仮説を伝えた。


「ケツァルはあの時確かに死んでいた。 しかし、あの地揺れのあと別の『何か』に体を乗っ取られたのかもしれない。 そして、何か目的を持って森へと消えた、、、もしかして、さっきルーファが言っていた『歌い手』が関係しているんじゃ、、、」


そこまで言ってカイルはさすがに早計だったかと焦った。しかし、


「だから、団長がさっき聞こえたと言っていた『歌』に反応したと」


カイルの根拠も裏付もない、周りに他に人がいたらただのこじつけだと言われてもおかしくない話を、やはり二人は信じてくれた。


「ワイルドボアをここまで蹂躙したケツァルもどきの力、相当ヤバイことになってそうだな、、、今度こそ俺が叩き潰してやる」


ルーファの付け足しに、シュヴァルツもヤル気をみなぎらせ、なんとも頼もしい仲間達にカイルは二人のような部下を持てたことを心から誇りに思った。


「人間がこの森に何用だ?」


話が纏まり、これからの方向性を話そうとていた時に、突然投げ掛けられた問いに、3人ともそれぞれ剣を抜きながら周囲に目をやる。

すると、ワイルドボアの死体から少し離れた結界のすぐそばに、見たこともないほど美しい、中性的な顔立ちの人が立っていた。

3人の鋭い視線を受けても涼しい顔で、しかし、どこか厳かな雰囲気を持つ相手はもう一度聞いてきた。


「人間が、何の用あってこの結界のそばまでやってきた?」


呼び掛けられるまで誰も気配を察知できなかったことから、ただ者ではないと判断し自分を庇うように武器を構えていた部下達。

カイルはその前に進み出て答えた。


「我々はコランダム王国近衛騎士団に所属する者です。私は団長のカイル・フォン・ルベウス。 こちらの二人は私の部下です」


カイルの声に相手は値踏みするように目線を動かした後、黙って続きを促した。


「この度、霊守の森周辺に住み着いたと思われる魔獣による村や街道への被害が多数出た為、討伐に赴いたのですが、生憎一体に逃げられてしまい、追ってきたところこのような場所まで出てきてしまいました。 この森を治める長殿への失礼、不要の争いを持ち込んだ無礼、、、早急に逃げたケツァルを仕留め、これ以上の被害を出さぬ事を誓いとしまして、お(ゆる)しいただくことはできませんでしょうか?」


片膝をつき、深々とお辞儀をしながら口上を述べる姿は、通常、騎士団長は国王と王族にしかやらないが、相手を『この森を治める長殿』と呼んだことから、目の前にいるのが精霊だと理解し後ろの二人も慌てて同じように頭を垂れた。

それを見て、『この森を治める長殿』改めアルマースは鷹揚に頷き、小さく呟いた。


「ふむ、、、お前達程の手練れなら託せるかもな」


「?」


アルマースの言った事の意味が分からず、頭を下げつつ探っていると、


「この森に侵入した卑しき魔獣が、我が森を蹂躙しながら迷い人を追いかけ食らおうとしている」


アルマースの言葉に、カイル達ははっとして顔を上げた。 己の仮説を裏付ける証拠、先ほど話していた『歌い手』がいるのかと思い、アルマースを見上げると、厳しい声音で命じられた。


「その迷い人を無事救い、卑しき魔獣を殲滅したらば、お前達の(とが)は無かったことにしてやろう。 ただし、迷い人に片腕たりとも失わせるような事があったときは、カイル・フォン・ルベウス、お前の魂を我らに捧げよ」


魂、という対価にシュヴァルツが物申そうと出かけたが、カイルが片手を上げ抑え、アルマースの契約を受諾した。

精霊と人間が交わり方は2通りある。

1つは精霊に対価を払い力を借りる誓約。 もう1つは何かしら精霊の不興を買い、それによる災禍を退けるために、精霊の出した条件をこなし赦してもらう契約。

誓約は良ければ力が借りられる幸運程度の感覚だが、契約は、過去に条件をこなせずに大地ごと消され国もあるほど、人間からしたら理不尽極まりない、厄介で恐ろしいものである。

それが、カイル一人の命で良いと言われれば、ルーファ達は納得しないだろうが、頷かないわけにはいかないだろう。


「必ずや、、、」


そう言って契約を交わしたカイル達に、アルマースは道案内の精霊を貸し、急ぐよう言った。

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