旅立ち
あれからアルマースも加わり、湖の水を大きくうねらせたり、凍らせてキラキラさせたり、みんなで歌を歌ったり(もちろん、私が教えた)、、、童心に帰ったように遊んだ。
「さすがに疲れた~、、、」
そう言って大の字に木の下に倒れると、アルマースが横に座りながら赤い木の実を差し出してきたので、お礼を言って受け取った。
「あれだけはしゃいで、人間なら疲れない方がおかしいですよ」
「確かに、歳甲斐もなく、、、」
さっきまでの自分のはしゃぎっぷりに少し恥ずかしくなりうつ伏せになってると、
「起きろ」
さっきまでと比べて、少し硬い声に顔を上げると、真面目な顔をしたアルマースがいた。
慌てて立ち上り、体に付いた草を払う。
すると、左手を取られ手首に、淡い水色の石が嵌め込まれた意匠の施された腕輪を填められた。
「これは、、、?」
その腕輪の真意を計りかねて尋ねると、
「その石には私の力が込めてある。 1つはそれをはめている限り、腕や胸の魔障を隠すことが出来るよう呪を施した。 治すことは出来ないが、見えなくする程度なら、な。 通常であれば、魔障にかかれば必ず死ぬし、死ぬまでにはとてつもない痛苦が苛み続けるが、それがない人間がいると知れれば、ただではすまないだろう。」
私は顔を強張らせながらこくりと頷いた。
そして、袖を捲ってみるとそこには黒い岩のような腕ではなく、今まで見慣れていた普通の肌色に戻っていた。
それに安堵しつつ胸に手をやると、硬い石の感触があり固まった。
私のその姿を見ていたアルマースは、申し訳なさそうに
「さすがに石までは隠すことが出来ないようだ」
「ん、ダイジョーブ。 だって、あんな腕を元に戻してくれただけで十分だよ」
そう言って笑いかけ、続きを促した。
「1つ目ってことはまだあるの?」
「あぁ、、、精霊は全ての精霊と繋がっている。 此度、お前が私の魔障を打ち消し、その呪いから解放してくれたことは、他の地に住まう精霊達も周知の事となった。 もちろん精霊がこれを他の種族に言いふらすことはないので安心しろ。 そして、精霊という種は、誰かが受けた恩は皆の受けたものとし、誰かが受けた仇は皆の受けたものとなる」
「、、、」
イマイチ何が言いたいのか分からず黙っていると、アルマースはそのまま続けた。
「此度、お前が私の魔障を打ち消し、その呪いから解放してくれた大恩は、お前がこの世界にいて困難に直面した時に、全ての精霊達がお前を助けても余りあるものだ。 私はまだ回復しきれていないが、回復した暁には、お前が望むなら、世界の果てでも馳せ参じよう。 私の力を望むときは、その腕輪に呼び掛けろ。 すぐに行く。 私が回復するまで、そして、それ以降も他の精霊達もお前のためなら喜んで力を貸すそうだ。 この程度しか出来ないが、、、少しはお前の恩に報いることができるだろうか?」
少し申し訳なさそうに聞いてくるアルマースに、私は慌てて首を横に振った。
「いや! 全然、足りてるよ! むしろ、たまたま出来ただけかもなのに、恩に感じてもらうなんて、、、困ったときはお互い様なのに、申し訳なさすぎるよ」
「死ぬこともできず、ひたすら魔力を吸われ苦しめられてきた永い時から解放してくれた、、、それは、私の命を救い、蘇らせたも同然。 これくらい当然だ。 だが、悠利が気にすると言うのならば、お前の歌を対価に力を貸すということでどうだ?」
「歌? そんなのが対価になるの?」
「お前の歌には魔力がある。 そして、その魔力は精霊達にはとても甘美なものだった。 力を貸す対価にその魔力をもらえるのなら、皆がこぞってやってくると思うぞ」
魔法など皆無だった世界からやってきた私としては、歌に魔力が、などと予想外の事実だったけど、アルマースが私の(日本人特有の)遠慮の精神を気遣って譲歩してくれたのも分かったので、それで了承することにした。
そして通常であれば、その都度祝詞と供物を捧げ時間と手間をかけて精霊達に力を貸してもらうらしいが、私は歌を歌いながら心の中で願えばその代わりになるよう誓約も交わし、いよいよ森を出て旅に出る時がきた。
「短い間だったけど、色々教えてくれたりして、助かりました。
ありがとう」
あの後、結界のそばまでアルマースが見送ってくれることになり、そこまでやってきた私が手土産に貰った果物とペットボトルに汲んだ湖の水をウェストポーチに詰めたりしながらアルマースにお礼を言った。
「いや、本当なら森の入り口まで送りたいが、まだ回復しきれてないので湖を離れることが出来ず、すまない」
「他の精霊達が道を教えてくれるって言ってるし、大丈夫だよ」
アルマースの申し訳なさそうな顔に、出会った頃の冷たさはなく、その人間味溢れる姿に微笑ましさを覚えた。
「森を出たら、沈む日とは反対方向にしばらく歩けば、人の住む村に着く。 そこからは何もしてやれないが、何かあればいつでも呼べ」
まるで遠出する子供を心配する親のような発言に苦笑しつつ、私は元気よく返事をした。
「いってきます!」