回想、その2
翌朝早く起きて身支度を済ませて部屋を出ると、カイルが立っていて、思わずぶつかりそうになった。
『うわっ、ごめんなさい!』
『あっ、いや、こちらこそ、、、出掛けるのか?』
私の姿を見て聞いてきた。 ただでさえ最近忙しそうにしている、お世話になっているカイル達に、これ以上、心配や迷惑をかけないようにとの思いから、冒険者登録や今後の話などはまだしてなかった。 隠し事をしていることに、少し後ろめたさを感じながらも、仕事でまともに休めていないであろう、あまり顔色の良くない彼に話すのは得策ではないと判断し、曖昧に返事をする。
『ちょっと、街で気になってたお店があって、、、どうしても行ってみたかったので、これから行こうかと』
『そうか、、、』
感情の読めない顔で同意され、どうしたものかと思案する。
(部屋の前にいたってことは、私に用があったってことかな?)
『何か、ありましたか、、、?』
そっと窺うが、頭を振って『気を付けてな』とだけ告げて行ってしまった。 暫しぼうっとするが、あまり待ち合わせまでに時間がないことを思い出して、慌てて出掛けた。 ギルドの前では既にアゲートさんが待ってて、私に気付くと手を振ってくれた。
『お待たせしてしまって、すみません』
『いや、今来たところだ』
なんだか付き合いたてのデートで定番なやり取りをした事に気付き、少し顔を赤らめると、アゲートさんが首を傾げる。 適当に話を誤魔化して中に入ると、注目が集まる。
(アゲートさんって、本当にすごい人なんだな~)
アゲートさんが選んだ依頼をカウンターへ持っていくと、お姉さんや他の受付の人達も集まってきた。
『まさか、ギルド長と行くの?!』
『はい、、、ダメ、ですか?』
『ギルド長も冒険者ですので、ダメでは無いですが、、、異例中の異例ですね』
みんなの反応に、普通じゃないことを悟る。
『ギルド長もそうだけど、、、昨日から、貴女の噂で持ちきりよ?』
"噂"という単語にドキッとする。
(精霊や魔障の件はバレてないはず、、、)
『ぽっと出の非常識新人が、実はめちゃくちゃ強いんじゃないか?とか、知識が乏しいのは、実はどこかの国のお姫様だったからじゃないか?とか、、、』
『そんな、、、』
見当外れもいいとこな噂に呆れてると、受付の人達も笑いながら、
『貴女の物腰の丁寧さとかも珍しいからそんな尾ヒレが付いちゃったんでしょうけど、まぁ、要は滅多に見ることの出来ないギルド長と仲良くて、みんな羨ましいのよ』
複雑な心境ながらも頷くと、冒険者証と依頼票を渡され、『いってらっしゃい』と見送られた。
『長かったな』
待ちくたびれたアゲートさんの声に、
『、、、羨ましがられちゃいました』
『?』
説明をして欲しそうな顔をするアゲートさんを残して、鍛冶屋への道を歩き始めた。
鍛冶屋へ入り、依頼を受けたお陰で顔見知りになった親父さんの元へと歩いていく。
『おはようございます、親父さん。 どうですか?』
『おう、、、出来てるぞ』
差し出された包みを緊張しながら受け取ると、そっと開けると、、、そこには美しい漆黒のライフルがあった。 元の世界で見慣れたそれと酷似した姿に感嘆の息を漏らす。
『初めて見る武器図案に戸惑ったが、、、気に入ったみたいで何よりだ』
『十分過ぎるくらい、完璧です』
私の大絶賛に、親父さんも満足そうな笑みを見せた。
『それと、これが細工済みの中剣と、弾丸って言ってたやつだ』
そちらも手に取り眺める。
『さすがです。 ありがとうございました』
『また、調整が必要な時は言いな。 最優先でやってやる』
親父さんの言葉に礼を言い、鍛冶屋を後にする。
『ずいぶん仲良さそうだったが、昔からの知り合いか?』
『いえ、以前親父さんの娘さんが病気にかかって薬草が必要になったということで出した採集依頼を受けた縁で、親父さん家族と仲良くなりまして、、、』
『なるほど、命の恩人という訳か。 それで、そいつは、、、なんなんだ?』
『これが、私の選んだ武器です』
馴染んだ感触、元の世界の物より軽量な小銃を肩に掛け、中剣を特注のベルトで足に固定し、装備を確認する。
『性能については、試し撃ちしてから説明します』
そう言い、馬を借りて王都から出て暫く行くと、森が見えてきた。 王都の周辺では、一番魔獣が出て、様々な種類の素材が取れる事から、度々足を向けていた。 慣れた森を暫く歩き、周りになんの気配も感じなくなる所まで来ると、おもむろに背中の銃を取り弾をこめる。 30メートルくらい先に、持ってきていた木桶を置き元の位置まで戻ると、アゲートさんが物珍しそうに眺めているのを横目に、銃を構える。
『私より後ろに下がってください。 それから、耳を塞いでおいてください』
私の言葉に、アゲートさんは少し後ろに下がり、耳を両手で塞いだ。 私は、目を閉じゆっくり深呼吸をする。 それからゆっくり目を開け、狙いを桶の中心に定める。 呼吸を止めて、一拍、引き金を引いた。
ー ガウゥゥゥンッ、、! ー
暫しの静寂の後、アゲートさんは見開いた目をそのままに、
『なんだ! 今のは?!』
私は穴の開いた桶を拾って戻ると、アゲートさんに説明した。
『これが、小銃ってやつです。 このように、この武器に弾をこめ、ここの部分を引くと、こめた弾がすごい速さで飛び出していくんです。 そしてそれが当たれば、、、』
桶をしげしげと眺めるアゲートさんに、穴の反対覗きこみ視線を合わせてから続きを言う。
『弓矢より強い殺傷能力が見込める、という訳です』
『、、、恐ろしい武器だな』
『まぁ、初めて目にすれば、それが正しい反応ですね』
『どこでそれを?』
苦笑しながら答える。
『言えません、、、でも、これを持っているのは世界中で私だけですし、精霊にお願いしてロックをかけてもらったので、これを使えるのも私だけです。 ただし、模造品を造られたら分からないですが、少なくとも親父さんから漏れる事はないです』
暫し思案の後、アゲートさんはため息を付きながら笑った。
『お嬢は、本当に規格外だな、、、』
『誉め言葉として受け取っておきます』
『んじゃあ、そいつを使いこなせるように、実践練習といきますか』
アゲートさんの声に頷きながら、銃の先端に中剣を取り付ける。 これが昔からの自衛隊の武器だ。 少し形の変わった槍のような姿に、アゲートさんは目を見開いた後に、苦笑しながら、『どんどん奇抜なことをしやがるな、、、』と呟いていた。




