回想
私は、家庭教師と平行して、王立図書館や王城にある蔵書の数々を閲覧させてもらい、魔王や魔障について調べていた。 各地にある魔障や魔王についての伝承や文献があることを知り、アルマースに相談した結果、それを調べながら各地を旅するのが一番効率的だという結論に至った。
しかし、私1人で世界を旅するなど未知の領域な上に、この世界の常識として、国を渡るためには許可証が必要で、それを持つにはどこかの国に属さないといけないらしい。 しかし、冒険者という職業だけは、冒険者ギルドに登録して、冒険者証を発行してもらえば、世界共通で旅できるらしい、、、ということで、アウイン国王に紹介状を書いてもらって、冒険者登録を済ませ、受付のお姉さんにあれこれ指南してもらった。
『まずメイン武器の登録をお願いします』
『、、、武器? 素手か、剣を少ししかやったことないです』
『、、、、、』
あの時は、お姉さんがげんなりしてたな~、、、
武器を見繕ってもらい、依頼をこなしてランクも最下位のFからDまで上げて、この間アゲートさんがお祝いにわざわざ王都まで来てくれた。 ちなみに、Dランクというのは、冒険者としては一人前。 強さとしては、Dランクが10人いればケツァルを一体倒せるそうだ。 イマイチ分からない?、、、ん~、今まで出会った人達がどうやら規格外らしいが、少なくともライズよりは強い。 近衛騎士団の人達やジェード王子とどっこいと言ったところか。 なかなかに強くなったものだ、、、と、話が逸れたが、その時に発覚したのだが、彼は実はめちゃくちゃ偉くて、強い人だったということだ。 魔獣討伐も少しずつ様になってきた頃、ホーンキャット(頭に角の生えた、猫、、、ライオンのようなやつ)を討伐して帰ると、ギルドが騒がしかった。 何やら偉い人が訪ねてきたとかで、みんながバタバタしてる横をすり抜け、受付へ依頼完了の報告に行くと、
『いたっ!』
そう言って、受付のお姉さんが私の腕を掴み、そのまま2階へと連れていかれた。 状況が飲み込めないまま通された部屋にいたのは、この町の支部長とアゲートさんが向かい合うように座っていた。
『アゲートさん!』
私の声に満面の笑みで振り返ると、『でっかくなったな!』と訳の分からないことを言いながら抱き上げて、いつもの定位置(肩の上)に乗せられた。
『でっかくって、、、もう成長期をとうの昔に過ぎた私に言うって事は、太ったって言ってるも同然なんですが』
私がジト目で見下ろせば、悪気のない顔で『すまん、すまん』と流した。
『お嬢が冒険者になったと聞いてな、、、お祝いでもと思って来たんだが、、、このあとは暇か?』
『ん~、、、少し用があるんで、それさえ終われば大丈夫です』
それを聞いて満足げに頷くと、アゲートさんは支部長に別れの挨拶を告げ、私を抱えたまま出ていった。 一階に降りたときに初めて、慣れてしまって忘れていたが、アゲートさんの肩に担がれている事を思い出し、慌てて下ろしてもらうようお願いした。
『あ、アゲートさんっ、下ろしてください! みんなが見てますよ~』
『んあ? お嬢の歩幅に合わせて歩くのが難儀なんだが、仕方ないか、、、』
ゆっくり下ろしてもらいホッとするが、他の冒険者達からの好奇の目に耐え兼ね、アゲートさんの腕を引っ張りながら、外へと急いだ。
『あ! ユーリさん! 依頼完了の報告まだですよ~』
受付のお姉さんに呼び止められ、慌ててアゲートさんを入り口に残してカウンターへ行った。 手続きをしながら、お姉さんは意外そうに話しかけてきた。
『ユーリさん、ギルド長とお知り合いだったんですね』
『ギルド長、、、アゲートさんとは、たまたま王都へ来る前に助けられて。 そういえば、さっきみんなが騒いでいた偉い人って、、、』
『? ギルド長を置いて他にいないでしょう?』
手続きの手を止めて首を傾げるお姉さん、可愛い、、、じゃなくて!
『えっ? アゲートさんって、偉い人なんですか?!』
『偉いもなにも、、、世界中にある冒険者ギルドのトップですが、、、まさか知らなかったんですか?!』
緩く首を振る私に呆れた目で見た後に、冒険者証と報酬を渡してきた。
『ユーリさんは旅に出る前に、もう少し常識を知った方がいいと思いますよ』
お姉さんの助言?苦言に礼を返してからアゲートさんの元へ戻り、街へと出た。
先程のお姉さんとのやり取りを話すと、笑いながら、
『確かに、お嬢は常識に欠けるな』
アゲートさんにまで言われ、さすがに少し不貞腐れながら道具屋へ入り、先程もらった報酬の半分で庶民には少し高い焼き菓子を購入する。
目的地である孤児院へ着き、子供達にお菓子を私ながら談笑していると、
『お嬢は聖人君子か?』
驚いているアゲートさんに私は苦笑しながら答える。
『違いますよ。 この間、依頼でお世話になったお礼にお菓子を持っていったら、子供達がとても喜んでくれたので、こうしてたまに来てるだけです』
責任者のおばあさんが笑顔でアゲートさんを恋人呼ばわりして狼狽えたりもあったけど、そのまま夕方まで楽しく過ごし、夜に酒場でアゲートさんと飲みに行った。 ビールを飲みながら話すのはもっぱら冒険者になってからの話で、的確なアゲートさんの助言にとても勉強になった。
『結局、何を武器に選んだんだ?』
私はギルドから様々な武器を借りて、実際に使ってみてしっくり来るものを探していた。
『まだ少し迷ってるんですが、、、今、鍛冶屋にお願いして作っている物が明日完成予定なので、"それ"と中剣(長さ4、50センチくらいの剣)を組み合わせていこうかと、、、』
『ほう、、、では、明日はそれを持って森へ入るんだな?』
私がつまみに豆と肉の煮込みをつつきながら頷くと、アゲートさんはニヤリと笑いながら、
『じゃあ、明日は8時にギルド前集合な』
予想外のアゲートさんの誘いに驚きながらも、自分より遥かに格上の人と共に闘える機会に、私も笑顔で応じた。




