日がな一日、、、
久しぶりの投稿です。
楽しんでいただけたら、幸いです。
あれからというもの、家庭教師の後にカルセドニーに会いに中庭へ行くと、決まってアウイン国王が待っていた。 特に談笑するわけでもなく、ただ黙って私の歌を聴いていく、、、たまに『この間の歌が聴きたい』などとリクエストをしてくる。 最初は緊張したが、慣れとは怖いもので今では視線も何も気にならなくなっていた。
「そういえば、礼は決まったか?」
私が歌を歌い終えると、少しの間を置いてアウイン国王が話し掛けてきた。
「礼、、、ですか?」
国王の発言の意味が分からず首をかしげると、国王は呆れたようにため息をつきながら説明してくれた。
「以前の魔獣殲滅の件と、此度の禁術撃破の件。 2件の多大なる功績には、相応の礼を尽くさせてもらうぞ」
私は彼の言葉にしばし逡巡する。
「では、、、2つほど、お願いがあります。 一つは、カルセドニーを解放していただきたい。 偶然とはいえ、この城の結界に閉じ込められてしまった彼女を自由にさせてあげてほしいです」
一つ目の私の願いにカルセドニーが目を見開く。
「しばしの間、城の結界を解けと?」
国王の言葉に頷く。 難しい事を言ってるのは分かっている。 国の中枢を守護している盾を、僅かの間だけとはいえ捨てろと言っているのだ。 その間に攻め込まれたりしたら、それこそ国を揺るがす大事だ、、、それでもそれを要求する私に、国王は顔色一つ変えずに頷いた。
「ジュストに伝えておこう」
ジュスト、、、あまり第一印象の良くない宰相に任せるのに少し不安を覚えた。 私の顔に出ていたのか、国王は少し笑うと、
「安心しろ。 やつは国を大切にしているだけで、悪気はない。 魔術に関しては右に出る者はいないくらい優秀だから、この件に関しても万事つつがなくやってくれるだろう」
「よろしくお願いいたします」
私が頭を下げると、カルセドニーが複雑な表情でこちらを見つめていた。
「なんで、、、?」
「私はのびのびとしているカルセドニーが見てみたい。 それから、兄妹からの恩をこうやって還元するのもありかな、と」
そんな私をカルセドニーはギュッと抱き締め、少しだけ震えた声で、『ありがとう』とお礼を言ってきた。
「それで、、、あと一つはなんだ?」
私はカルセドニーの腕から解放されて、国王と改めて向き合う。
(ここからが勝負、、、)
私は腹に力を込め背筋を正すと、国王を相手に交渉に開始した。
××××××××××
禁術を打ち破ってから1ヶ月、、、ユーリが王都へ来てから2ヶ月が経とうとしていた。
(彼女と出会ってから、本当に色々なことがあったな、、、)
とりとめもなく過去を振り返りながら、俺は詰め所の前に集まった二人を見やる。 皆、シャツにズボン、腰に剣だけというラフな格好だが、目的は重大だ。 何故なら、、、ここ数日、ユーリの様子がおかしい。 ルーファとシュヴァルツに尋ねても首をかしげていて、原因が全く分からなかった。 城へ一人で行ったり、どうやら街へも一人で出向いているようだった。 禁術撃破後はだいぶ自分のやりたいことなどをするようになり、元々武術の心得があったのもあり、護衛なしで出歩くようになっていっていた。 しかし、ここ数日はバタバタと朝から夕方、たまに夜まで帰ってこないことも度々あり、街へ行った後は何やら荷物を抱えて帰ってきているようだし、たまに傷がある時も、、、聞いても何も答えてくれず、『ごめんなさい』と繰り返すばかり。 大人とはいえ、流石に心配になってきた俺たちは、昨日からこっそり後をつけて探ることにした。
「昨日はどうだった?」
昨日は王城へ赴いたそうで、シュヴァルツが追跡していた。
「ジェード王子の元へ向かい、しばらくしてから出てきて中庭へ、、、いつも通り歌い、談笑してから帰途へついた」
「怪しい所は何もない、ですか、、、」
シュヴァルツの報告に、ルーファが溜め息をつく。
「まぁ、今日は街へ行くようだし、危ない目に合ってないか、よく確認しよう」
今日の彼女の出で立ちは、いつもの騎士の貸与服ではなく、うす水色のシャツに黒いズボンという、シンプルだが彼女の凛とした姿によく似合う服装をしていた。 女性がズボンを愛用することはほぼほぼ無いが、彼女は好んで男性用の物を着ていた。
「いつもの騎士服ではないですね、、、」
「あぁ、麗しい」
俺の返答にシュヴァルツは頷き、ルーファは呆れた顔をした。
「麗しいのは当然ですが、いつもと違う服装で街に行くということは、もしかしたら逢瀬かもしれない、ということですよ」
ルーファの言葉に目を剥き、思わず腰の剣に手をかける。
「私に怒らないでください。 可能性の話をしたまでですから、、、でも、より慎重に偵察しないとですね」
そう言うと、俺たち3人はユーリ後をそっとつけて行った。




