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国王と私

あれから、家庭教師の度に足しげく中庭へと通い、カルセドニーの為に歌を歌っていた。 カルセドニーの話はカイルとルーファにもして、許可をもらった。

「カルセドニー、お待たせ」

あれから何度目かの逢瀬に今日はカイルが付いてきてくれた。

「あらあら、今日はまた初めて見る顔ね。 いつもの無表情くんはどうしたの?」

シュヴァルツを無表情呼ばわり出来るのは、彼女くらいだろう。

「今日は訓練があるって言ってたよ。 代わりに、もっと偉い人、、、騎士団長さんが来てくれたんだよ」

私がカイルを紹介すると、しげしげと眺めた後に、こっそり耳打ちしてきた。

「、、、で、ユーリはどっちが良いの?」

「どっち?」

「伴侶として、よ」

「はん!?」

思わず出た大きい声を慌てて呑み込むと、カイルは怪訝そうな顔でこちらを見ていたが、張り付けた笑みでかわすとカルセドニーに小声で抗議した。

「カルセドニー、前も言ったけど、カイルもシュヴァルツもルーファも、そういう相手じゃないから! そんな話の種にするなんて、むしろみんなに失礼だよ?」

「ルーファ? まだ、こんなのがいるの?」

私はカルセドニーの言葉に頷く。

「みんな、身寄りのない、頼るつてもない私を不憫に思って良くしてくれてる、優しい人達だよ」

私がそう説明すると、なんともいえない表情で私を見た後に、空を仰ぎながら、「同情しかしないわ、、、」と呟いてため息をついた。 意味が分からず問いただそうとしたところに珍客がやって来た。

「最近、中庭から不思議な歌声が聞こえるとの報告があったが、、、精霊術士殿か?」

まさかの声の主に驚きに目を見開く。

「陛下、、、」

少し離れた所にいたカイルが私とアウイン国王の間に庇うように立つ。 カイルの行動に少し顔をしかめるが、何も言わず先程の質問の返事を待っているようだったので、慌てて答える。

「王宮内で勝手な事をして、すみません。 ちょっと、、、諸事情によりこの場で歌わせていただいていました」

「なるほど、、、しかし精霊術士殿の唄は少し変わっているな。 吟遊詩人などとは違い、想いを曲に乗せていて、こう、心に響かせるものがある」

まさかのアウイン国王からの賛辞に驚きすぎて言葉が出てこなかった。

(もっと、冷たい人だと思ってたけど、、、違うのかな?)

しかし私の疑問が解消される前に、それは唐突に始まった。 アウイン国王がこちらに近付こうと一歩前へ踏み出した時、突如、あたり一面を覆う目映い光が地面より湧き出した。

「! 発動した!?」

カルセドニーの声にハッとして彼女を見ると、険しい顔をしながら、光る地面を指差した。

「あそこよ! あそこに例の物が、、、そうか、国王が"鍵"だったのね!」

その言葉にアウイン国王を見やると、驚愕の顔で下を見ている。 目線を追うと、光の中からゆらりと人の姿を型どった"何か"が現れた。

「"影移し"の禁術だわ!」

「影移し?」

「狙った者の影を使い、攻撃スタイルや癖などを完璧に写した影で暗殺する。 自分の行動を読まれてるから、やりづらいことこの上ないわよね。 さらに相手の強さに比例して影も強くなる。 そして、暗殺したら、文字どおり跡形もなく影に戻るから、暗殺する側のリスクも軽減されて、一石二鳥よ」

カルセドニーの解説に愕然として影を見る。 ゆらゆらしているが、どことなくアウイン国王に似ているかもしれない。

「陛下!」

カイルが駆け寄るよりほんの少し早く、私が国王と影の間に体を滑り込ませ、国王を突飛ばし影からの攻撃を何とか避ける。 ゆらゆらする黒い影が近付き、私は国王を背に庇いながらジリジリと後ずさる。

「ユーリ!」

尚も近付く影に、カイルが剣を抜き切り払いながら私達と影の間に立ち塞がる。 切られた筈の影はユラユラと佇み、効いてなさそうだった。

「そいつに武器で攻撃しても効かないわ」

影を挟んでカルセドニーに忠告する。

「ならば、魔術か?!」

カイルが風の魔術で切り裂くが、また元に戻ってしまった。 その間も影は体の一部を尖らせ攻撃してくる。 それをカイルが剣で弾く。

「カイル、、、このままじゃジリ貧だよ! カルセドニー、何か無いの?!」

「こいつの弱点は光よ! その属性の魔術が使えれば、、、」

カイルを見るが、悔しそうに首を横に振る。

「光は元々、癒しの術。 そして、術者の絶対数が少ないのも特徴的だ。 それを攻撃に使える者など、この国に一人しか居らん」

重苦しい事実が後ろから告げられた。

「誰ですか?!」

アウイン国王はゆっくりと私の後ろから前へ進み出る。

「陛下!?」

攻撃を防ぎながら戦っていたカイルが前に出てくる国王に驚く。

「カイル、下がれ」

「しかし!」

「たまには父に任せてみろ」

「!」

まさかの発言に皆が動きを止めると、影の前に一歩足を踏み出した。

「久し振りの実戦だが、、、コランダム王国の英雄王の異名に恥じぬものを見せてやろう!」

言葉が終わると同時に国王の姿は消え、影の後ろにあった。 何か呪文を唱えながら剣を構え、刀身が光輝くと同時に振り抜く。 すると、影が苦しそう蠢き、切られた所は元に戻らなかった。

「スゴイ! さっきの唯一の使い手って、国王のことだったんですね!」

私が興奮ぎみに言うと、カイルも驚いたように見つめながら声を返した。

「あの人が戦っている姿を初めて見るが、、、凄まじいな」

怒り狂ったように暴れまわる影を軽やかにかわしながら、次々と斬撃を繰り出す姿は圧巻だった。 もう切られ過ぎて原型がなくなったころ、仕留めようと剣をかざした時だ。 影の悲鳴ともつかない絶叫に呼応するようにまた地面が光り、その光に包まれた影は、さらに大きくなって復活した。

「なに?」

「まずいわ! やつは呪いの溜め込んだ力を使ってどんどん強くなるみたい!」

「そんな!? どうすれば、、、!」

復活した影の繰り出す攻撃をかわしながらアウイン国王はまた光の魔術で攻撃するが、先程より効いてなさそうだった。

「威力が足らんか、、、!」

アウイン国王も少し苦しそうだ。 そんなとき、騒ぎを聞き付けた衛兵達がやってくると、影は突然そちらに攻撃をした。 なんとか守るが、体勢を崩されたアウイン国王は次の攻撃を防げず、防御も取れなかった。

「陛下! ユーリ?!」

私は迷いなく国王と影の間に立ち、その身をもって攻撃から国王を守ろうとした。

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