談笑
元の騎士団で借りてる簡素な服に着替え、部屋のソファでマリーとお茶をする。
「どちらのドレスもとても似合っていたわ。 やっぱり素材が良いと、選び甲斐がありますわ」
「素材が良いなど、、、奥方様の方がずっと魅力的です。 ドレスの見立ても素晴らしく、さすが、ルベウス騎士団長の奥様です」
カイルの奥さんと改めて口に出すと、胸の奥がモヤモヤした。
今まで一緒にいたのに、本当に何も知らなかったんだな、と気付かされる。
それと同時に、知らなかったことに傷ついている自分に驚いた。
私がドレスのセンスを褒めながら謙遜すると、マリーが目を見張った。
「あらあら、私がカイルの、、、ふふっ」
笑い始めたマリーにきょとんとしていると、『マリーでいいわ』と前置きしてから、
「私はカイルの母ですわ」
ニコニコととんでもない爆弾発言をされた。
「えっ!? お母さん?!」
どこからどう見ても同い年くらいにしか見えないマリーに、思わず素に戻って聞き返すと、
「若く見ていただけてたなんて、光栄だわ」
と、気分を害した風もなくニコニコしていた。
確かに顔立ちが似ているかも知れないけど、見た目が若すぎる。
「そんなことより、、、ユーリ、貴女はうちのカイルとルーファ君、どちらが好み? ルーファ君が良いなら無理にとは言わないけど、ユーリさえ良ければ、うちの子と添い遂げてはいかがかしら?」
私は出してもらったお茶を啜ろうとしていたところだったので、驚愕の質問に溢しそうになったカップを慌ててテーブルに戻した。
「なっ、どういうことですか?!」
「どちらもそれなりに顔は整っていると思うわ。 身分もそれなりだし、性格も良い子に育った筈よ」
それなりどころか、とびきりのイケメンだし、身分も性格も申し分ないに決まっている。
「それなのに、どちらも良い男なのに特定の相手を作らなくて困っていたのよ、、、ところが、遠征から帰ってきたら、なかなか家に帰らず、連絡もくれないし、、、」
そう言って悲しそうに伏せた瞳が美しさを際立たせていた。
美女は何をしても、どんな顔をしても絵になる。
「ところが、帰ってきた騎士達に話を聞けば、道中で保護した娘さんと息子が懇意にしているいるっていうじゃない」
道中で保護されたのは私だけなので、おそらく私の事だろうが、
「懇意、というほとではありません。 身寄りのない私を不憫に思われ、カイルには大変よくしていただしました」
助けてもらった恩があると、そう胸を張って答えると、道中での事を聞かれたので、出会ってからの話をしてあげた。
(やっぱりお母さんはどこの世界でも子供の事を気にしているんだな、、、)
真剣に耳を傾けるマリーの姿を微笑ましく思いながら思い出を語る。 それを最後まで聞くと、「やっぱり間違いないわ」と言いながら頷いていた。
「何が、ですか?」
「ユーリ、あの二人を驚かせたくない?」
フフッと微笑みながら、いたずらっ子の顔をするマリーは、さらに幼く見えた。
私に先程の謁見用のドレスを着せ、化粧や装飾品を身に付けさせると、満足げに頷き、
「うん、バッチリね。 それでは、行きましょうか」
優雅に立ち上がるマリーに戸惑っていると、私の手を引きながら微笑んだ。
「あの二人の驚く顔を見せてあげるわ」
××××××××××
カイルとルーファは庭に出て、執事の用意したお茶を飲んでいた。
二人の愛しい彼女はカイルの母と二人で部屋に籠ってしまったので、やることもなく、雑談をして過ごしていた。
「そういえば、彼女の風呂を覗いたとか、、、」
カイルが飲んでいたお茶を噴き出す。
「なっ、、、不可抗力だ!」
慌てる上司に少し冷たい目をする部下。
「そのような抜け駆けなど、少々ずるくないですか?」
「だから、、、! それより、いつも時間に厳しいお前が、来るのが遅れたのは何故だ?」
「だから、言ったじゃないですか。 『子猫と戯れていた』って、、、」
カイルから眼光鋭く睨まれても、ルーファはどこ吹く風だ。
「お前こそ、ユーリに手を、、、」
「手はそこまで出してませんよ。 少々口づけを、、、」
目を剥き険しい顔つきで立ち上がるカイル。
「ルーファ、、、!」
二人の間に流れる剣呑な雰囲気に水を差すように声をかけたのはカイルの母であるマリーだった。
「あらあら、二人とも何を喧嘩してるの? まったく、子供じゃないんだから、ちゃんと仲直りなさいな」
怒気を削ぐマリーの空気に、二人とも目を合わせ苦笑し、いつも通り仲直りの証として握手してみせた。
昔からマリーに喧嘩が見つかると握手をするまで許してもらえなかった。
「良い子ね。 そんな貴方達にご褒美をあげるわ、、、ユーリ、いらっしゃい」
二人の態度に満足げに頷いたマリーは、ゆっくり振り向き、庭の入り口に声をかけた。
カイル達はその声に入り口に視線をやると、赤いビロードを差し色に使った上品なドレスに身を包んだユーリが歩いてきた。
女性には珍しい少年のような髪型も細い首を強調し、思わず触れたくなるほどだ。
ほっそりとしたウエストも彼女の魅力を十分引き立たせていた。
二人して言葉もなく、ただただ食い入るように魅入っていると、ユーリがほんのり頬を染めながら居心地悪そうに俯く。
その姿がまたいじらしく、抱き締めて自分だけのものにしたい衝動に駈られた。
「カイルもルーファ君も、淑女を前にして無言で立ち尽くすなど、失礼ではなくて?」
マリーの柔らかな諫言にハッと我に帰った二人は、慌ててユーリの前に膝まずきそれぞれがユーリの手を取り、賛美の声をかけた。
「ユーリ、あまりにも美しすぎて見惚れてしまい、すぐに言葉が出ず、すみませんでした。 そのドレス、よく似合ってますよ。 まるで天上から舞い降りた女神のようです」
ルーファが褒めれば、カイルも負けじと褒める。
「ユーリ、ドレス姿を見せてくれて、ありがとう。 あまりの美しさに目が眩みそうだ、、、」
ユーリは二人の態度に頬を染めながら、「ありがとう」と返した。
そんな3人の姿に目を細めるマリーは、ユーリが娘にならないか思案するのだった。




