ひと息つけ、た?
俺は雑務が残っていたので、今日は詰所に泊まることにし(決してユーリと離れがたかったわけではない、、、)、体についた汚れを落とすために浴場へ向かった。
この時間は詰所に住まう者達もあらかた入り終わっており、ゆっくり入れるはずだ。
そう考えて、衣服を脱ぐ。
脱衣場にもう一組、騎士達が支給されている衣服があり、誰か入っている者がいるのだろうと考えながら開いた扉の向こうにいたのは、、、男のそれとは違い柔らかなシルエットが映った。
湯船に浸かってはいるが、しっとりと濡れた黒髪に薔薇色の頬、すらりとした細い首、華奢な肩と控えめながらも柔らかそうな双丘が少しだけ顔を覗かせ、、、そこまでまじまじと見つめてから、ハッとなって顔を背けようとしたときに、その相手が湯船に沈んだ。
「ユーリ!」
慌てて湯船から上げると、肢体が露になり頭がクラクラする。
己の忌々しい欲求を捩じ伏せ、脱衣場にあるタオルを体にかけ人を呼び、俺の声にやってきたシュヴァルツは驚いていたが、
「ラリマーを呼んでくる」
すぐに状況を把握して動き出してくれた。
待っている間に己の衣服を身につけ、彼女の呼吸を確認する。
規則正しい息づかいにホッとしたところにラリマーが走ってきた。
簡単に状況を説明すると、診察を開始し、すぐに笑顔になった。
「のぼせただけのようなので、涼しい格好で寝かせておけば、すぐに気がつくでしょう。 しかし、団長、、、」
俺が風呂場で鉢合わせたのを察したラリマーが、頬を弛めながら言葉を切った。
「まさかユーリが入っているなど、、、知らなかったんだ!」
慌てる俺にシュヴァルツも目を半分くらいにして見つめてくる。 あまりの部の悪さに、黙るしかなかった。
××××××××××
「んっ、、、」
目覚めるとそこは見慣れない部屋だった。
「目が覚めたか?」
控えめに声を掛けられそちらを見ると書き物用の椅子にカイルが座っていて、立ち上がると机の上にあった水を持ちながらベッドの脇まで来た。
「飲めるか?」
私はそっとグラスを受け取り水を飲む。
冷たい水が喉を通っていく感覚に体が渇いていたことを知り、そのままグラスの中身を飲み干した。
その姿に安堵の表情を浮かべたカイルが私の傍の床に膝をつき、頭を下げた。
「すまなかった。 入っていると知らなかったとはいえ、女性の入浴している場に入るなど、、、故意ではなかった」
先程の風呂場での鉢合わせを謝罪され、私は慌てて顔を上げるよう言った。
「こちらこそ、お風呂場で倒れるなんて、お手数おかけしました。 それに、裸を見たのはお互い様ですし、、、」
そこでお互いにその時のことを思い出して顔を赤らめる。
「そ、それじゃあ、、、俺は仕事に戻る。 何かあればいつでも呼ぶんだぞ」
「は、はい、、、ありがとうございます」
私に声をかけ出ていくカイルに、私は何とか答え、閉じた扉を暫く見つめると、深くため息をついた。
「はぁ、、、男の人の裸見て倒れるとか、お前幾つだよ~。 今さらウブでもないのに、恥ずかしい」
しばらくはカイルに会うたびに赤くなりそうな頬に手をあて、乱れた心臓の音を聞いていた。
翌朝、まだ日が昇る前に起きると、支給服に履き慣れたランニングシューズという格好に着替え外に出た。
朝霧に包まれた空気を胸いっぱいに吸い込み、準備体操をする。
(詰所の周囲をぐるっと囲ってる柵があって、それが大体5キロって言ってたな)
今朝のトレーニングメニューを脳内で組み立てて、「よしっ!」と気合いを入れ出発した。
柵に沿って3周走ってから、筋トレするのにちょうど良さげな芝生を見つけて筋トレを開始する。
その頃には朝日も昇り始め、周囲が見えるようになっていた。
腕立て伏せをやっていると、誰かがこちらへ近付き声をかけてきた。
「朝から何をやってるんだ?」
その声に息を切らせながら答える。
「筋トレ、、、59、60っと」
キリの良いところで止め、タオルで汗を拭いながら見上げれば、こちらも得物を片手に鍛練をしてきたのだろう、朝日に汗を煌めかせながら呆れた顔で見下ろしているシュヴァルツがいた。
「こんな朝早く起きてるのなんて、誰もいないぞ」
「貴方がいるでしょ?」
「俺は別だ、、、」
そう言って大剣を横に置きながら同じように芝生に腰を下ろした。
「以前、保護した直後にもしていたが、、、それはなんなんだ?」
「ん~、、、肉体の鍛練だよ。 変わった方法なのかも知れないけど、各部位を集中して鍛えるには一番効果的なんだよ」
「お前は女には珍しく、鍛練したりするのが好きなんだな」
感心したように言うシュヴァルツに苦笑する。
「好き、というよりは職業病みたいなものだよ。 どんな時でも、最期に頼れるのは自分の肉体だけだから、、、自分が守りたいものが危機に曝されたとき、己の無力さを呪ったところで後の祭でしょう? 本当に守りたいなら、その時に全力を尽くしてしっかり守れるように普段からしとかないと、ね」
私がしみじみ言うと、驚いてはいたがそれ以上何も聞いてこなかった。
少しして朝の鍛練に出てきた他の人達は汗だくで鍛練している私に驚いていたが、朝のノルマを終わらせ先に体の手入れをしに戻った。
それから数日は毎朝トレーニングメニューをこなし、昼間は騎士達の鍛練に混ざってみたり、たまにスイーツや料理を作ってはみんなで食べたりとのんびり過ごしていた。
、、、が、カイルの所に使者か来て、とうとう国王陛下に会うことになった。
私の部屋へ謁見の手筈を伝えに来たルーファにダメもとで尋ねる。
「本当に会わないと駄目かな?」
「ここにいる以上、無下にもできないですね」
ルーファの無情な返しに深々とため息をついた。
「偉い人に会うとか、、、苦手なんだけど? このせ、、、国の礼儀作法とか知らないから、礼を失した行動して処刑されちゃうかもだよ?」
言い募るがそっと肩に手を置かれ、諭される。
「ユーリ、諦めてください。 その代わり、きちんとドレスや作法は抜かりなくさせていただきますから」
「ひぅっ! ドレス?! まじで無理! それだけは絶対いや! 本当に似合わないからっ!」
泣きながら懇願するも、チラリとも見ずに却下される。
「とりあえずドレスの採寸などの為に、午後からあるところへ行ってもらいますから、そのつもりでお願いします」
その前に逃亡すれば、、、などと考えていると、それを見透かしたようにルーファが付け加えた。
「あぁ、、、ちなみにユーリが陛下に会っていただかないと、貴女の保護者として報告してあるカイルや私が討ち首になってしまいますね~。 まぁ、ユーリには関係ない話ですけど」
そう言ってニコリと微笑み「また後でお迎えに参ります、姫」と死刑宣告を残して出ていった。




