波乱の予感、、、
重厚な門と外壁を越え街中に入ると、街の活気に驚かされた。
私が知っているのは、築地や御徒町のような喧騒だったが、それを遥かに越える人と物と建物に圧倒された。
騎士達の凱旋に街の人達も手を止めて声援を送っている。
みんなは背筋を正し、正面を見据えて堂々と進む。
本当は街の景色を堪能したかったが、私もそれに倣って前だけを見続けた。
しばらく進むと高級住宅街が広がり、そこを抜けると、とりわけ大きな城門が建っていた。
門が厳かに開き中へと入ると、丘の上から見た白亜の宮殿がそびえ立っていた。
団長と副団長は王様への報告を先に済ませるといって別れ、私達は右手の道を進み、騎士団詰所へやってきた。
私はみんなが積み荷を解くのを手伝い、天幕や調理器具などを言われた場所へ運んでいく。
私が一見重そうなものを持っていても、もう何も言われなくなった。
これも、獣人を抱き上げて運んだり、道中でも寸胴鍋に水を汲んで抱えてきたりした賜物だ。
調理場に余った野菜の木箱を持っていくと、武骨な職人さんのような人が片付けの指示をしていた。
「すみません、遠征で余った野菜を持ってきたんですが、どこに置けば良いですか?」
私が自分の体重くらいありそうな木箱を抱えている姿にギョッとして、慌てて部下に持たせる。
「お嬢さんが、こんなところで、、、重たいもの運んでるなんて、うちの騎士どもは何をしてる」
「すみません、私がどうしてもとお願いしてお手伝いさせていただいてます。 ルベウス騎士団長の許可はいただいてますので、遠慮なく使ってください」
私がぺこりと頭を下げると、
「私は、この調理場を任されているハックマンです。 よろしく」
笑顔ではないものの、嫌煙されてはいないようなので安心し、再び手伝いに戻った。
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「今、なんと、、、?」
謁見の間。 王の御前で失礼は承知の上で、カイルは聞き返した。
それに答えるのは、我が国の内政官のトップである宰相のユークレース・ジュストだ。
「だから、件の精霊術士を王位継承者たる王子達のいづれかと婚儀を結ばせる。 これで我が国の繁栄も約束されたようなものだ。 なるべく早期に連れてこい」
彼女の事を考えもしない、あまりに自分勝手な物言いに、カイルは怒りを抑えるために拳を握り締め、ジュストの方に向き合う。
「彼女はこの国の民ではありません。 そのように婚儀まで強要するなど、些か不躾ではありませんか?」
「だからこそ、だ。 呑気にしているうちに、他国に取られたらどうするつもりだ? その損失は計り知れんぞ」
まるで物のように扱う彼の言葉に、切り捨てたくなるが、そんなことをしても何もならないので、静かに深呼吸をして納める。
「それは、陛下も同意なのでしょうか?」
ゆっくり王座に座る国王を見る。
「精霊術士殿については、国賓として扱う予定だ。 そうなれば、ゆくゆくは息子達の幸せを、と願うのは当然だろう。 まぁ、まだ旅の疲れもあるだろう。 急かしはしないが、悪い虫が付かぬよう、しっかり目を配るように」
頭を垂れると、国王が言葉を続けた。
「お前も仮にも王族の端くれ。 彼女の重要性は深く理解しているな? 間違った気など起こすなよ」
それだけ言うと下がるよう命ぜられ、部屋を退室する。
しばらくはルーファと無言で歩いたが、王宮を出た辺りでルーファが声をかけてきた。
「どうするつもりですか?」
「、、、国王の命には逆らえない」
「では! ユーリを彼らに、政の道具にしか考えてない者達の元へ行かせるのですか?!」
先程のやり取りがさすがに腹に据えかねたようで、いつも冷静なルーファが珍しく怒気を露にしている。
「落ち着け。 ユーリ自身が望まぬ限り、ユーリを獣どもにくれてやるつもりなど毛頭ない。 ただ、連れてこいという命には逆らえないのも事実だ。 とりあえず、『仮にも王族の端くれ』という身分を活用させてもらって、しばらくはユーリの傍について守る。 あとは、ジュスト宰相がどこまでやるかだな、、、」
カイルは国王の言葉を使って皮肉を言う。
『王族の端くれ』、、、そう、彼は本来ならば王位継承者のうちの一人、年齢順に言えば第1王子に当たるが、母親が給仕の身分だったこともあり、貴族ですらない出自に内政官達が難色を示した為、王位継承権を持たない王族という扱いになった。
面倒な関わりを必要としない立場に、本人は今まで気にした事はなかったが、今回はユーリを守りきれない中途半端な立場に、やりきれない思いを感じていた。
「、、、すみません、頭に血が昇っていました」
ルーファの謝罪に笑って許し、二人は騎士団詰所までの道程をユーリへの対策会議に充てた。
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日が落ちてから帰ってきたカイルやルーファと相談した結果、私は暫く、詰所の離れを仮住まいとすることとなった。
最初は自宅を持つカイルかルーファの家にお世話になるかと話したが、王都だからと言って狙われないとは限らないということで、騎士達が常駐する詰所が一番安全だという話に至った。
詰所は若い騎士達の宿舎も兼ねており、シュヴァルツもいるため、彼の部屋に一番近い離れを使うことになったのだ。
通常は来賓が泊まるように出来ているため、部屋は宿舎の部屋より広く、ベッドに応接用のソファとテーブル、書き物用の机と椅子が置いてあった。
私は片付けのあと、ご飯を若い騎士達に混ざって食べ、みんなが入り終わった後にお風呂を使わせてもらえることになったので、支度をして浴場へ行く。
みんなが使うという事もあり、銭湯のように広かった。
体を洗ってお湯に浸かる。
「うはぁ、、、生き返る~、、、」
この世界に飛ばされてきてから、初めてのお風呂に手足を伸ばしながら息をついた。
野営中はもちろん無いので、近くの川などで水を浴びたり汲んだ水で体を拭ったりだったし、村の宿屋にもお風呂の設備は無かったので井戸の水を汲み上げて使ったし、街では魔獣騒ぎでそれどころでは無かったので入れなかった。
この世界にお風呂の文化があるのか不安になったりもしたが、大きな街であればあるそうなのでひと安心だ。
「やっぱり、これがなくちゃやってられないよ~」
お風呂に入ることで至福を得られる辺り、やはり日本人だなと思いつつ、何だかんだこっちに来てからついた傷だらけの体を眺め、痕が残りそうな場所を撫でる。
肩と腹にはそれぞれ誘拐?された時の痕がくっきりと刻まれていて、思い出して身震いする。
そろそろ上がろうかなと思ったその時、突然誰かが浴場のドアを開けて入ってきた。
「えっ?」
「え?」
私は湯に浸かりながら、入ってきた人物は腰に布を巻いて洗い場に向かう途中で、お互いに見つめ合う形になった。
長身に無駄なく引き締まった身体、傷は幾つかあるが、それが余計に逞しさを強調し、全てが相まって大人の色気を醸し出していた。
「「、、、、、」」
職業柄、男の人の裸、、、さすがに全裸ではないが、上半身くらいなら何度も目撃したこともあるし、男性経験もそれなりにあるので今更恥じらうことはないハズだが、入ってきたイケメン、、、カイルの裸体を存分に堪能した私はそのまま湯船に沈んだ。
遠くで私を呼ぶ全裸のイケメンの声を聞きながら、、、




