真摯な想いに応えて
「貴女の力を、我が国を、、、この街を守るためにお使い頂くことはできないでしょうか?」
突然の懇願に、戸惑っていると、どこからともなく現れたアルマースが間に入ってきた。
「ユーリに精霊の力を借りさせ、この現状を一人で打開しろと言いたいのだろう? やはりお前達もユーリを利用しようとする者の一部に過ぎないのか」
アルマースの顔に浮かぶのは、侮蔑の色。
だが、精霊の不躾な物言いにも気分を害した風もなく受け答えるジェード王子。
「増援が到着してもなお、なんとか街に踏み入らせないでいるのが精一杯の現状。 情けないが、もう後は消耗戦で勝てるかどうか、、、利用していると言われれば、その通りだが、我々を助けるかどうかは、ユーリさんにお任せします。 ユーリさんが否と答えれば、それを受け入れます」
苦渋の決断で神頼みに近い懇願をしているジェード王子の姿に、カイルも悔しそうに唇を噛み締めていた。
「ユーリが否と言うと? そんなわけないと分かっているから持ち掛けたのだろう? ただでさえ消耗しているユーリの体力をさらに使わせて、お前らからの対価の提示もないなど、ずる賢いにも程があると思うが?」
「酷いことを言っているのは百も承知ですが、だからと言って、国民の命が掛かっているならば、私は最善の策を考え、それを実行するまで」
「ユーリを使い捨てようなど、、、我が許すとでも?」
アルマースの怒りが大きくなり、周囲の空気が痛いくらいに冷たくなってきた。
それでもジェード王子は怯むことなく、正面から向かい合う。
「対価についてはユーリさんの望むものを何でも用意する。 富も地位も国に出来ることはなんでもしましょう」
「、、、何でも、ですか?」
ジェード王子はそれまで黙っていた私が、自分の言葉に反応したので、今がチャンスとばかりに、私に言葉を掛けてきた。
「えぇ、何でもです。 どうでしょうか?」
「少しだけ、アルマースと話をさせてください」
そう言ってアルマースと少し離れた所に移動する。
「アルマース、力を貸してくれるかな?」
「王子の態度には腹が立つが、、、ユーリ、お前が望むなら、私は私の全てを持って応えよう。 しかし、今のお前を突き動かしているものはなんだ?」
アルマースの質問に、言葉に詰まる。
「富や名声に目が眩んだとは思えない。 だとすると、、、"魔獣襲撃"への贖罪のつもりか?」
「、、、、、」
黙りこむ私に、アルマースは深々とため息をついた。
「まだお前が原因と断定できた訳ではない。 何故にそこまで思い詰める?」
「、、、たまたま、なのかもしれない。 偶然なのかもしれない。 でも、1%でも私の可能性があって、そのせいで誰かが苦しんでいるのなら、私はブレてしまうから。 罪の意識に囚われ続けてしまう。 これから先も、アルマースやカイル、ルーファにシュヴァルツ、、、大切な人達の前で堂々と胸を張って生きていきたい。 みんなの横を歩くためには、1%の贖罪も必要だと思ってる」
私の瞳を真っ直ぐに受け止め、アルマースは黙って頷いた。
みんなの元へ戻り、了承を示すと、カイル以外のみんなは安堵の声を漏らした。
カイルだけが辛そうにこちらを見ていた。
外壁の上に立ち、よく見渡せる位置から見ていると、やはり騎士団、冒険者の人達はだんだん圧されているようだった。
「どうする?」
「前線の人達を撤退させます。 それが完了した時点で、アルマースの力を借りて駆逐しましょう」
カイルと作戦、、、といっても至極簡単なものだが、を立てると、それぞれが任務遂行に散らばっていった。
「、、、済まない。 俺達が不甲斐ないばかりに、、、ユーリにばかり負担を「大丈夫です」」
カイルの言葉を最後まで待たずに遮る。
甘やかし上手の彼の言葉を聞いていたら、泣いてすがってしまいそうになるから。
本当は足が震えるほど怖い。
いくらアルマースがいるとはいえ、死ぬかもしれないという考えが頭をよぎり、目眩がする。
ここから先は、私の精神力=魔力に左右される。
誰の助けも借りられないのだ。
自分を奮い立たせて、気を強く持たねば、、、
「大丈夫ですから、カイルは天幕へ戻っていてください」
私は自分に出来る、一番の笑顔でカイルを安心させようと言葉を紡ぐ。
すると、、、次の瞬間、私の視界は何かに塞がれ真っ暗になった。
「無理に笑うな」
思った以上に近いところから聞こえるカイルの声に、自分がカイルに抱き締められているのだと気付く。
その力にはいつものような気遣うものはなく、ただ苦しさを与えてきた。
しかし、今はそれがとてつもない安心を感じさせた。
「カイル、、、」
「怖いなら怖いと言えばいい。 嫌なら嫌と言えばいい。 お前が全てを背負う必要はないんだ! どんなにキツくても、笑顔で受け止めて、自分を殺して、、、そんな姿をこれ以上見たくなくて、傍にいることを誓ったのに、ユーリが無理して笑う度に、己の無力さを痛感する。 だからせめて、俺の前では嘘をつかないで、無理して笑って誤魔化さないでくれっ」
力いっぱい抱き締められて息苦しいが、それ以上にここまで想ってくれていることに、幸せを感じる。
「カイル、大丈夫ですよ?」
伝われ、私の心。
伝われ、私の想い。
「大丈夫。 私は負けません。 私は、私を大切に思ってくれるカイル達のために頑張るんです。 これ以上の力強い味方はいないじゃないですか」
カイルが腕の力を緩め、私達は目を合わせる。
「さっきまでは、確かに一人で何とかしなきゃって思ってた。 だけど、カイルが教えてくれたから。 私は独りじゃないんだって教えてくれたから、もう大丈夫!」
そう言って笑えば、カイルも笑い返してくれた。
「お前は強いな、、、そんな姿が、どうしようもなく惹かれるのだろうな」
「? 何か言いました?」
カイルの言葉は風に煽られたせいで聞き取れず、聞き返すがカイルは苦笑するだけだった。
「今はまだいい、、、いつか、嫌というほど感じて、気付かせてやるから」
ますます訳がわからず首を傾げていると、ルーファがそろそろ魔獣の波が途切れるので頃合だと伝えてきた。
私は頷き、ルーファに答える。
「前線の人達か撤退を始めたら、魔術と弓矢で絶えず攻撃し、戻ってくる者の安全を確保してください」
「任せてください。 全員を無事に戻らせてみせます。 、、、貴女こそ無理をしないように」
ルーファはそっと私の髪を撫でながら、そう言うとすぐに走って行ってしまった。
ここにも一人、私を心配してくれる人がいた。
その事に、また力をもらったような気がする。




