自分に出来ること
私達は、昨日私が訪れた執務室はへとやってきた。
「で? この忙しい時に時間を割かせるんだ。 御大層な理由があるんだろうな?」
アゲートさんが目を眇めながら尋ねてきた。
あまりの眼光の鋭さに、思わずたじろいでしまうが、カイルがそっと視線から隠すようにアゲートさんとの間に立ち、話を切り出した。
「信じがたいとは思いますが、、、魔障を治せるとしたら、貴方はどうしますか?」
「はぁ? こんな時にどんな重大事項を話すのかと思いきや、、、くだらねぇ。 冒険者をバカにしてぇなら好きにしろ。 ただし、時間も人手も足りねぇ時に、うちらの邪魔をするな」
あまりに突飛な質問に、魔障に侵されて戦えない自分をバカにされたと思ったアゲートさんは、露骨に不快感を露にした。
しかし、ここで引き下がっては、せっかくカイルが設けてくれたチャンスを無駄にすることになる。
私は意を決して、カイルの後ろからアゲートさんの前へ進み出た。
アゲートさんから出される負の感情をひしひしと感じて、手が震えるがギュッと拳を握り、アゲートさんに伝わるようにゆっくりと話し掛けた。
「信じられないのは百も承知です。 でも、私なら、アゲートさんから魔障を取り除くことが出来るかも知れない。 試す価値は十分あると思いますが、、、前線に出たいんですよね?」
私の問いかけにアゲートさんの肩が微かに震える。
反応を示したことに手応えを感じ、畳み掛けるように言葉を重ねる。
「こんな緊急事態に、王国騎士団長のカイルが時間を無駄にする程、愚かだと本気で思っていますか? その辺りの事は、私に言われなくとも、分かりますよね。 今は少しでも戦力が欲しい、、、ましてや、貴方の武勇は多国に渡るほどのものだと、他の冒険者の方達から伺いました。 貴方がいれば、冒険者100人にも匹敵すると、、、どうか、私にチャンスをいただけませんか?」
私の懇願にしばらくして、アゲートさんは口を開いた。
「お嬢を信じられない訳じゃねぇが、魔障が治るだなんてこれまで嘘でも聞いたことが無い、、、本当に治るのか?」
「正直、やってみないと分かりません。 ただ、王国騎士団の団員やその他でも、魔障に侵されていた人達から取り除くことが出来ました。 なので、可能性は高いかと」
私は正直に答える。 期待させておいて駄目かもしれない可能性もある、と。
「、、、分かった。 また前線に戻れるなら、お嬢の可能性とやらにかけてやる」
「! ありがとうございますっ」
私ももちろん、ここまで成り行きを見守ってくれていたカイルも安堵の表情になる。
「で? どうすればいいんだ?」
「アゲートさんはゆっくりと椅子に腰かけていてください。 、、、傷に触らせてもらっても?」
アゲートさんは応接用のソファーにどっかりと腰を下ろし、「好きにしろ」とだけ答えて目を閉じた。
私は震える手でそっとアゲートさんの傷ついた目に触れた。
すると、やはり触れた指先から何かが体の中を這うような感覚を感じ、気持ち悪さと痛みから悲鳴をあげそうになるが、歯を食い縛り耐える。
「っ!、、、あぁあっ」
ライズの時より少し時間は掛かりながらもなんとか吸い取りきると、途端に胸の石がある辺りを激痛が襲い、私は悲鳴を上げて意識を手放した。
××××××××××
真っ暗な視界の中でいつもズクズクと痛んでいた何かが、冷たいものが触れてからまるで吸い出されるように消えていった。
「あぁあっ」
悲鳴が聞こえ、慌てて目を開ければ、真っ青な顔で崩折れるお嬢が見えた。
咄嗟に抱き抱えるも、息も絶え絶えといった様子で瞼を閉じる彼女は、意識を失っている様だった。
自分がそれまで座っていたソファーにそっと寝かせた所で、違和感を感じ、そしてすぐに異変に気付いた。
「目が、、、」
魔獣にやられてから、決して開くことのなかった光を失っていた目が、再び力を取り戻していたのだ。
向かい側に座っていた騎士団長も倒れたお嬢の元に駆け寄ってきたが、俺の呟きにこちらを見て驚いているようだった。
「まさか、目まで見えるようになるとは、、、まさに奇跡、ですね」
騎士団長の言った奇跡という言葉を口の中で噛み締め、常に苛み続けていた痛みも、異物感も綺麗さっぱり無くなっていることに、改めて実感をする。
「本当に治るなんて、、、どうなってやがるんだ?」
俺の疑問に、騎士団長も「正直、分からない」と苦笑する。
「ただ彼女は、これまでの歴史や、パワーバランスを根底から覆す力を持っているという事と、それを悪用しようとする輩に狙われているという事、彼女には悪用の意志はなく、身に余る力に出会ってからずっと苦しみ続けているという事だけは、確かかな?」
初めて出会った時から、落ち着いた物腰とどこか悟ったような雰囲気を感じてはいたが、こんな重たい宿命を背負っていたなんて、思いもしなかった。
そして、この力を行使するとその負荷からしばらく眠り続けるなど、本人には良いことなしじゃないか。
「どうやってこんな恩、返したら良いのやら、、、」
「まぁ、しばらくはこのまま眠り続けるでしょうから、、、俺達に出来るのは、彼女が目覚めた時に悲しむような結果を残さないことではないでしょうか? 彼女の事は、保護者に任せましょう」
「保護者?」
「彼女は最強の保護者に守られているんですよ」
そう言って笑いながら騎士団長が誰もいない所に向かって声をかけると、ゆらりと景色が歪んだと思ったら、目の前に渋い顔をした水色の髪の青年が立っていた。
突然現れたことにも驚いたが、それが高位の精霊だと聞いたときには、あまりの想定外の出来事に眩暈を覚えた。
「いったい、このちっこいお嬢さんはどんだけ規格外なんだよ、、、」




