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誰かを助けるということ

翌日、朝食の場で、魔障を取り除く段取りを決めていると、団員が慌てて入室してきた。


「街の取締役より連絡がありました! ここより西方50キロメートルの位置に、魔獣にの群れが現れたそうです。 こちらへ接近している模様です」


「至急、陣営を外壁の中へ移動する準備を! ルーファ、街の中の陣地設営場所を取締役と調整してこい。 シュヴァルツは移動の準備を指揮しろ」


それぞれ頷くと天幕を飛び出していった。

それを見送り、私に向き、先程までの厳しい声とは違い、いつもの優しい声で話しかけてきた。


「落ち着ける場所を用意するから、全てが終わるまでそこにいなさい」


悔しいが、私に出来ることは何もない。

守られてばかりで情けなくなるが、素直に指示に従うのが一番だと判断し頷くと、柔らかく笑ってくれた。


「ありがとう。 ユーリの事は絶対に守る。 傷ひとつつけさせないから」


そう言いながらそっと抱き締められ、不謹慎にも胸が高鳴る。

うるさいくらいの鼓動が聞こえてしまいそうで恥ずかしくなるが、同時に先程まで感じていた不安が溶けるように消えていった。

ゆっくりと離された体温を名残惜しく思いながらも、みんなの手伝いをすべく、私も天幕を出て、慌ただしく作業をしているみんなの間を走り回った。




ルーファが場所確保して帰ってきたため、みんなで荷物を持って街に入る。

すでに街には魔獣の知らせが入っているのだろう。

街の人達も迎え撃つための準備を始めていた。

陣地設営場所は市場ということで昨日はひしめき合っていた市場も今は片付けられて、さら地のようになっていた。

素早く天幕を張り、それぞれの部隊が、どこから攻められても良いように、街の各方面に散らばり、外壁の修復や迎撃の準備を開始する。

ラリマーさんのお手伝いをしながら、怪我をして帰ってくるであろう人達のための手当てする道具を分けていく。

みんなが血塗れになる姿を想像して手が震える。

怪我をしないで、なんてことが無理なのは、子供じゃないので理解している。


「待つのって、辛いですよね」


ラリマーさんの言葉にハッとして振り向くと、切なげな顔をしたラリマーさんと目があった。


「この歳になって、自分より若い未来のある団員が死地に赴くのを見送ることしか出来ないことに、歯痒さしか感じないです」


ラリマーさんは決して弱いわけではない。

むしろ騎士団の中ではシュヴァルツに次ぐ実力の持ち主らしい。

しかし、癒しの力である光の魔術が誰よりも秀でていたため、志願していた前線ではなく、衛生兵となったそうだ。

当時は納得できずに腐った時期もあったらしいが、カイルが団長に就任した時に、『(ぜんせん)の背中を任せられるのは、貴方のような武も秀で、皆の傷を癒せる騎士だけだ』と言われ、団長に絶対の忠誠を誓うことに決めたそうだ。


(私よりずっと、もどかしく思っている人がいる)


私は出来ることが限られているのだから、せめて、みんなの帰ってくる場所を維持し続けることに集中することにした。




しばらくして、準備に走り回っていたみんなが交代で休憩しに来たので、食事と労いの言葉をかけて回る。

一段落したときに、後ろから声をかけられた。


「お嬢」


振り向くと冒険者ギルドのアゲートさんがいた。


「アゲートさん! 忙しそうですね」


「お互い様だな、、、今回ばかりは普段仲の悪い騎士団と冒険者も手を組むことになったしな」


仲の悪いと公言するギルド長に苦笑する。


「俺も、こんなんじゃなければ前線に出れたんだがな」


そう悔しそうに見えない眼を触るアゲートに、複雑な気持ちになる。

私の表情を同情と受け取ったのか、「そんな顔するな」と言いながら頭をくしゃっと、少し乱暴に撫でられた。

そこにちょうどカイルがやって来て、仲良さげに話す私達に怪訝そうな顔をした。


「カイル、昨日助けてもらったアゲートさんです」


その説明に、私の肩を引き寄せ横に連れてくると、カイルはにこやかに挨拶した。


「そうでしたか、、、ギルド長自らうちのユーリを助けて頂いてたとは知らず、ありがとうございました」


すると今度はアゲートさんが私をサラッと抱き寄せニヤリと笑いながら答えた。


「いやいや、俺はお嬢と親しくなれたから何の問題もない。 むしろ出会えた幸運に感謝したいくらいだ」


突如として氷つき始めた場の空気に、理解が追い付かない。


(なんで、こんなに険悪な空気なの?!)


またもやカイルが抱き寄せながら話をする。


「お嬢、、、申し訳ないですが、ユーリはあまり人に慣れておりませんので、あまり気安く触られては疲れが出てしまいます。 ましてや、レディーに安易に触るなど、誤解を生みかねませんよ?」


「俺は誤解されても大いに結構だが」


堂々と言ってのけるアゲートさんに呆れながら、小競り合いを繰り広げている二人に声をかける。


「何をワケわかんないこと言いながら遊んでるんですか。 ケンカは駄目ですよ? ちゃっちゃと仲直りしてください」


私の発言に眼を見張り、お互いの顔を見合う。


「苦労してんだな」


「えぇ、まぁ、、、」


二人は短い会話で何かを分かり合った様で、その後からは先程までのトゲトゲした空気が無くなっていた。


(男の人はすぐに仲良くなれるから、いいな~)


そんなことを考えながら、とりあえず仲直りをしたらしい二人の間で落ちいていると、二人は現在の状況について報告し合った。


「奴らはあと1日もすれば見えてくる距離まで進んできてるようだ。 そっちはどうだ?」


「こちらの準備は整った。 あとは5キロメートルまで近付いたら迎撃を開始する。 そちらは?」


「残念ながら魔道士系があんまりいなくてな、、、接近戦特化が殆どだ。 うちの魔道士はそちらに任せていいか?」


「分かった。 ありがたく預からせてもらう。 こちらの遠距離担当はミルニカ副団長、接近戦はイェーガー第1遊撃隊長に委任してある。 自分は王都からの増援が到着次第、そちらと合流して戦わせてもらう」


「こちらは作戦らしい作戦はねぇな。 来たやつらをぶっ潰すだけだ」


ちなみに、敵を迎え撃つのにここの街で籠城するのは、敵の数があまりにも多いから。

なんの守るものも無い中に突っ込んでいけば、死ぬのが目に見えているから、この街を砦として使いながら数を削っていく作戦らしい。

子供や戦えない者はすでに街の奥、取締役の屋敷に避難しており、今、この辺りにいるのは、戦う者や、それをサポートする者だけだ。

最初、カイルは取締役の屋敷に行くように言ってきたが、私だってこの世界では弱くとも自衛官である。

国や人を守るための訓練をしてきた中で、少しは出来ることもあるだろうとの思いから、カイルに頼み込んで、ラリマーさんの手伝いをさせてもらえることになった。


「カイル、、、(アゲートさんが、例の魔障の相手です)」


情報交換も終わって、カイルが去ろうとしていたので、慌てて呼び止め、小声で耳打ちする。 カイルは眼を見開き「間違いないか?」と確認してきたので、頷いて肯定する。

複雑そうな顔になったのは、やはり騎士団と冒険者が仲悪いからだろうか、、、やっぱり駄目と言われるんじゃないかと不安になっていると、カイルがアゲートさんに話し掛けた。


「大変失礼な事をお尋ねするが、、、アゲート殿は魔障に侵されているのか?」


カイルの言葉に表情を固くしながら、軽口を叩く。


「まったく、、、どいつもこいつも他人の事をペラペラと喋りやがる。 騎士団長殿が気にすることではないのでは?」


先程までの打ち解けた空気がまた冷たさを帯びる。


「折り入って話がしたい」


「唐突になんだ?」


「人のいない所でお願いしたい」


「、、、ついてこい」


アゲートが短く言い、ギルドへ入っていく。

カイルと私は後を追って中へ入っていった。

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