初めての邂逅
森の奥、一際大きな木の前の少し開けたところに、普段の森には決してない『異物』が転がっていた。
ーなに、あれ?ー
ーなぁに、あれ~?ー
その『異物』の周りを少し遠巻きに光の粒たちが飛び回っていた。
ーにんげん?ー
ーにんげん! いきてる?ー
ー、、、しんでる?ー
声の主はどうやら光の粒たちのようだ。
しかし、『にんげん』を恐れて近付こうとはしなかった。
すると、、、
「うっ、、、」
その『にんげん』こと、悠俐がうめき声をあげながら、体を起こした。
「なに? どこ??」
自分が草の上に寝ていた事に気付いた悠利はギシギシと痛む体をなんとか起こして、辺りを見回した。
視界に入ったのは、草と木と木と木と、、、いわゆる森の少し開けたところにいるようだ。
「どうなったの? 普通に走ってたハズ、、、あっ」
そこで、黒い靄にのまれた事、変なとこを漂って、初めて聞く声に誘われた事を思い出し、その結果、森の中に独りぼっちなのだと思い至る。
「まぢか~、、、てか、ここドコだよ~、、、普通じゃないよ~」
一人でいる寂しさや不安をまぎらわすためにわざとひとり言を言いながら、自分の荷物(といっても、小さなウエストポーチ1つ)を漁ってスマホで時間を確認すると、午前10時を表示していた。
そして案の定、圏外、、、
「ひとりぼっちさんやないですか~、、、笑えんわ~」
ーひとりぼっちなの?ー
「そーなんです、ぼっちさんなんです。 ヤバいな~」
ーやばいの?ー
「そりゃヤバいでしょ? こんな森の中に一人で、圏外の使えないスマホとペットボトルが1つに、カ○リーメイト1つって、、、死ねる自信あるわ」
ーしぬの?ー
「んなの、食料もない、居場所も分からない状態で、、、いくら訓練してるとは言っても、流石に生き抜くのは無理やろ?!」
と、ここまでツッこんで、はたと気付く。
(私、誰と話してたと、、、?)
慌てて周りを見渡しても、木と木と木と、、、さっきと変わらない景色、、、だったが、よくよく目を凝らしてみると、光の粒が漂っているように見えた。
「っ!(オーブ?!おばけ?!)」
ーしぬの?ー
ーしんじゃうの?ー
光の粒たちから声が聞こえていることを認識すると、幽霊などが苦手な私は腰が抜けて、何とか這いずりながら近くの木の根元にうずくまった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい! 私が悪かったです! だから殺さないでっ」
ーころす?ー
ーごめんなさい?ー
私がパニックになりながら謝りたおし、終いには神様へのお祈りを捧げ始めると、
ーころさないよ?ー
「へぅ?」
ーぼくたちは、にんげんをころさないよ?ー
ーにんげんがぼくたちにいやなことをしなければ、なにもしないよー
「そ、うなの?」
ホッとして、ため息とともに頭を抱え込む。
それから少しして、気持ちが落ち着いてきたのを確認すると、改めて、自分の状況を振り返るため、光の粒たちとポツポツ話始めた。
そして話して分かったことは、、、
①ここが日本ではない。というか、地球ですらない。
②目の前の光の粒たちは『精霊』とよばれる存在で、本人達曰く、とても崇高な存在らしい。
③ここは霊守の森の奥で、通常は結界があり人間や魔獣が入り込むことができないハズの場所だけど、突然強い力の干渉があったと思ったら、私が倒れていたらしい。(要は、誰かが連れてきた訳ではなさそうだ)
「はぁ、、、結局、私の死亡フラグは立ったままって事か」
もう自棄になってきて、草っぱらの上にごろんと寝そべり、空を仰ぐと、綺麗な青空に白い雲、穏やかに風が吹き抜けていた。
ーしんじゃうの?ー
ーしんじゃうの~?ー
「死にたくはないけど、そこそこの体力と使えないスマホ(どうぐ)片手に、知識もない、特別な力もないタダの人間が生きてるいけるほど優しい世界じゃないでしょ?」
ーまじゅうにたべられる!ー
ーうえじにする!ー
私の投げやりな質問に笑いながら酷いことを言ってのける精霊達にコノヤロウと思いつつ、"まじゅう"という不穏な単語は聞かなかったことにする。
(だてに30年生きてませんよ。 ちょっとやそっとじゃビビったり気持ち折れたりするかい)
先程、光の粒を見てギャアギャア騒いでたのは棚上げして、気持ちを切り替えるために、綺麗な空に向かって腕を伸ばしてみる。 すると、上着の袖がずり落ち、自分の腕が見えた、、、ハズだった。
「、、、ナニコレ!?」
勢いよく起きあがり、袖を捲り直すと、私の手首から捲って見えた腕にかけてが、どす黒く変色し、皮膚もゴツゴツトゲトゲした岩のようになっていた。
あまりの醜悪さに悪寒と眩暈を覚えたが、不安になって上着を脱いでみると、肩まで、、、いや、胸の辺りまで同じようになっていた。そして、胸の中心(心臓の上あたり)に見たこともない、黒い宝石の様なものが埋め込まれていた。
触ってみるが、特に痛みはなく、生まれたときからそこにあったかのように鎮座しており、爪を立てても痛いだけで、取れる気配がなかった。
ーましょう?ー
精霊の声に、光の粒たちを仰ぎ見ると、さっきより少し怯えたように漂っていた。
「ましょう、ってなに?」
ーましょうはこわいものー
ーましょうはきけんなものー
ーぼくたちのおさもくるしんでるのー
精霊たちが怖くて危険だというのに、少し怯えながらも、最後の言葉が気になり尋ねた。
「おさも苦しんでるって、私以外にもこんなんになってる人がいるの?」
すると、1つの光が私の前へ来て、付いてくるように言った。