暗闇の中に暗躍するもの
「どこかの小物が、アレに手を出したそうです」
無機質な石畳が広がる薄暗い部屋で黒いフードを目深に被った男が、漆黒の甲冑に身を包んだ、身分の高そうな男に声をかける。
男は漆黒の髪に深紅の瞳、その美しい顔立ちから感情は読み取ることは出来ない。
「コランダム王国騎士団が救出し、これから王都へ移送される予定とのことです」
「ほう、、、確か団長が妾の子だとかで騒がれていたな。 変わったところに拾われたものだな、アレは」
「しかし、この件で、少し力が顕現したのを確認し、しかも精霊に酷く気に入られている様子も、、、早めに手を打たれたてはどうでしょうか?」
恭しく頭を垂れる男に、ニヤリと背筋が凍るような笑顔を見せた。
「まだ、いい。 力に目覚め、絶望したときにアレの居場所はここしかない。 それからゆっくり調教しても、遅くはないだろう。 "仮の器"はどうだ?」
「やはり仮りそめゆえ、耐久性には欠けますが、今のところ順調に蓄えつつあります」
「そうか。 そのまま続けろ。 アレが私の元へ来るまで保てばいい」
「御心のままに、、、」
「あぁ、そうだ。 王都へ行く前に、アレを守っている騎士殿に餞をやろう。 王都への凱旋を盛大に祝ってやれ」
「お任せください」
そういうとフードの男はすっと床に溶けて消えた。
誰もいなくなった部屋にパタパタと走って近付く足音が聞こえた。
まもなく部屋の扉が控えめにノックされ、開いた扉から顔を出したのは、17、8くらいの黒髪に黒目、少し勝ち気そうな瞳の少女だった。
「オブシディアン様!」
少女が部屋の中に、漆黒の鎧の青年を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ここに来てはいけないと教えたはずだが?」
オブシディアンと呼ばれた青年の冷たい声にも、
「だって~、また1つ魔障を集めてきたんです! 辛かったけど頑張ったので、どうしてもオブシディアン様に伝えたくて、、、」
甘えた猫なで声で言いながら青年の腕に絡みつく。
それを少し顔をしかめながら見下ろし、部屋から出るように促す。
「それでは、向こうの部屋へ共に行こう」
「はいっ!」
青年が共に行ってくれることに喜びを顕に、青年の腕を引いて歩きながら、自分の功績を聞かせる。
(さぁ、早く私の元へと来るのだ、、、我が"伴侶"よ)
青年は窓の外、遥か遠くの国にいる女性を思い浮かべながら、そう思うのだった。
××××××××××
王都への出発を明日に控え、最後に出来ることはないか振り返る。
私は、カイル達と共にとりあえず王都へ行くことにした。
王都ならば、大きな図書館や多くの人が集まると言うし、もしかしたら魔障に関する情報があるかもしれないとの結論に至ったからだ。
昨夜、四人で話し合った事を思い出す。
私は世界を旅して魔障を探したい旨を伝えた。
するとカイルが、
『まさか、1人で行く気か?!』
『え? 当たり前じゃないですか。 他に誰がいるんですか?』
『当たり前って、、、自分の身一つ守れないし、野営すらろくにしたことのないユーリが、無闇に旅に出たところで、出発してすぐに魔獣にエサにされておしまいです。 許可できるわけがないでしょう』
『そんな、、、じゃあ、旅の仲間を見つければ、許してもらえるんですか?』
『ダメだ。 どこの馬の骨とも知らん輩と旅するなど、それこそ何があるか分からない』
間髪いれずに答えるシュヴァルツに、ふくれっ面になる。
『何でですか~? あれもダメ、これもダメって、じゃあ、どうすれば良いんですか?』
そう聞きながら、机に突っ伏してイジけ始めた私に、ルーファが優しく諭す。
『まだ完全に回復した訳でもないですし、とりあえず私達と王都へ帰りましょう。 あそこなら大抵の調べたいことは分かります。 何事も備えが必要でしょう。 無一文で旅ができるなど、ユーリだって思ってないでしょう?』
『確かに、、、冒険者として登録するにも、まずはギルドのある大きな街に行かないとだろうし』
『冒険者?! ユーリ、金が必要なら、俺が用立てる。 ユーリ1人養うくらい問題ない程度の蓄えもある。 だから、早まるな』
カイルに真剣に懇願され、ほとほと困り果てるが、さすがにいい歳した大人がおんぶにだっこでいる訳にはいくまい。
何より気持ち的に耐えられそうもない、、、ザ・日本人の精神を持つ私は丁重に断った。
『さすがに、何から何までお世話になり続けるわけにはいきません。 私もいい歳した大人ですから、しっかり働いて必要なお金は稼がないと』
『では、その辺りも含めて、とりあえず王都へ行って勉強しながら考えてはどうですか? ある程度、この世界の常識が理解できれば、ユーリも早まった判断をすることもなくなるでしょうし、ユーリに向いている仕事も自ずと見つかるというものです』
確かにここでいくら問答したところで答えは出そうにない。
むしろ、この過保護過ぎる保護者達を納得させられるものが提示出来ない時点で、自分の負けだ。
その案でみんなが承諾し、解散となった。
「まったく、、、"お兄ちゃん"達はどこまで過保護なんだか」
30過ぎて、ここまで心配され構われるのは少し照れるが、独りじゃないと思えるのは、すごく嬉しかった。
そんな事を考えながら、身支度を整えているとノックする音が聞こえ返事をする。
すると、シュヴァルツが渋い顔をしながら入ってきた。
「おはよう、シュヴァルツ。 、、、どうしたの?」
「おはよう。 今日の予定は空いているか?」
まだやることを決めてなかったので頷くと、「ついてこい」と言い出ていったので、慌てて追いかけた。
息を切らせながら追いかけると、それに気付いたシュヴァルツがスピードを緩める。
少しスピードが落ちたことにより、話せる余裕が出てきたので、聞いてみる。
「、、、どうしたんですか?」
「ユーリに来客だ」
「来客?」
この世界に私を訪ねてくるような知り合いはいないはず、、、しかし、直接ではなく、騎士団を通してということは、それなりに地位のある人の可能性が高い。
そして、シュヴァルツの態度から、あまり会わせたくなさそうだ。
ということは、自分達じゃ対処しきれないほど偉い人か、厄介な人か、、、引っ込み思案な性格故に、知らない人に会うことに抵抗はあるが、カイル達が会わせることを決めた判断を信じて、相手が誰にせよ、会ってみないとと思い直すことにした。




