見えない"何か"
もうすぐ年末、、、暇が出来れば、更新します(汗)
あの後、とりあえず救出した彼女を連れ村まで戻ってくると、ライズの隣の部屋に運び込み、医者に手当てをしてもらった。
「左肩の刺し傷と袈裟がけに切られた傷が酷いが、命に別状はないだろう」
医者の見立てにホッとため息をつき、礼を言うと出ていった。
血の気の失せた白い顔を見ていると生きているのか不安になり、その頬に触れ、体温を感じて少し力を抜く。
ノックがして振り向くと、ルーファとシュヴァルツが入ってきた。
「どうですか?」
先程聞いた見立てを伝えると、二人とも安堵の表情になり、ユーリに触れるべくベッドの周りに集まった。
「傷が残りそうですね、、、」
曇った顔で憂うルーファに、シュヴァルツははっきり宣言する。
「これ以上、誰にも傷つけさせない」
その発言に驚くも、俺とルーファも同じ気持ちであることに間違いはない。
「ただし、あの"声"をなかったことにも出来ませんね」
ユーリの口から発せられた"声"は、ユーリではない別の者だった。
一体何者だったのか、あの惨劇の真相は、、、全てを知るかもしれない彼女は、今だ意識を取り戻さない。
「『今はまだ』ということは、まだ次があるということだろうな」
「起きて落ち着いたら聞いてみましょう」
ルーファの提案に無言で頷き、ただただ回復を願った。
××××××××××
長い眠りから目覚めると、落ち着きのある木の天井が見えた。
「、、、、、」
(ここは?、、、牢屋じゃ、ない?)
そこまで考えて、あの時の光景が蘇る。
自分の意思じゃ動かなくてまるでテレビでも見ているかのようだったが、あれは間違いなく私が人を殺した、、、恐ろしい記憶に身体を身動ぎすると、そこら中が痛み、うめき声が漏れた。
「うっ、、、つうっ」
すると今まで気付かなかったが、私の寝ている横にいたらしい人物が動く。
「ユーリ?」
「し、、、ぁる、つ?」
久しぶりに声を出すせいか、上手く喋れなかったが、相手はきちんと聞き取ってくれて、返事をしてくれた。
「そうだ。 目が覚めたか? 痛むところや苦しいところはあるか?」
シュヴァルツにしては珍しい、立て続けの質問に苦笑する。
「だい、じょぶ」
そう言って微笑めば、泣きそうな顔で笑い返してくれて、頭を撫でてあげたかったけど、腕が上がらなかったので断念した。
「団長達を呼んでくる。 少しだけ待ってろ」
そう言うとシュヴァルツは早足で出ていった。
私はゆっくり時間をかけながら、何とか上体を起こし、自分の身体を確認した。
(手は動く。 足も、、、感覚があるから動くだろう。 胸やお腹が痛いけど、やっぱり切られたせいかな? あれだけ血まみれだったのに、服はキレイ、、、)
自分の身体を一つ一つ確認してから、あの時を思い出し体が震え始める。
「っ、、、」
(今は自由に動くけど、やっぱり私が殺ったのかな?)
人殺し。
今まで散々訓練してきたけど、、、当たり前だが訓練と本番は全然違った。
普通に人を刺してた。 普通に人を真っ二つに斬ってた。
(キモチワルイ、、、)
受け止めきれない事実に、心が軋む音が聞こえた気がして、無理やり頭から追い出す。
(今は考えるな。 別のことを考えよう)
その次に思い出したのは、ライズさんのことだった。
咄嗟にベッドから降りようとして、不発に終わり下に落ち、激痛の走ったお腹と肩を押さえる。
「~っ」
その時ちょうどカイルさん達がやってきて、ベッドの下で踞る私を見て慌てたのは言うまでもない。
「もう大丈夫か?」
あれからみんなに助け起こされ、起きて早々にルーファさんのお説教を聞く羽目になった。
ショボンとしている私を見て、苦笑まじりにカイルさんが聞いてくる。
コクリと頷けば、目を細めて頭を撫でてくれた。
(落ち着く、、、)
「目覚めてくれて安心したが、起きてすぐに一人でベッドから出ようなんて、無茶し過ぎだ」
「ごめんなさい。 つい、、、」
そこまで言って、そもそもの理由を思い出す。
「そうだ!」
「どうした?」
「ライズさんとリーツさんは? 無事ですか?」
私の言葉に顔を曇らせるカイルさん。
それを見れば、あまり良くないのは分かる。
「、、、教えてください」
私が真剣な顔でお願いすると、しばらく悩んだ後に話し始めた。
「宿屋の娘は無事だ。 ライズは、、、隣の部屋にいる」
容態を言わないカイルさんに苛立ちを覚える。
ルーファさんもシュヴァルツも沈黙していた。
「それで、どうなんですか?」
「、、、もってあと数日だろう」
シュヴァルツの衝撃的な言葉に愕然とする。
「どうして、、、?」
(私のせいだ、、、)
疑問と共に罪悪感が押し寄せてくる。
あの時ちゃんと護衛を断っておけば、、、
あの時森に行かなければ、、、
私の胸には後悔しか浮かばなかった。
自分を責めている私を見て、カイルさんが辛そうな顔で語りかけてきた。
「負った傷自体は大したことない。 ただ、敵の攻撃に魔障を付与したものがあって、そのせいで魔障に侵されてしまったんだ。 たから、ユーリのせいじゃない」
優しく背中を擦りながら言われた言葉が引っ掛る。
「ましょう、、、?」
「そうだ。 魔障に侵されれば、何も手立てはない。 どうしようもないんだ、、、」
まるで自分に言い聞かせるように言う団長を見て、他の二人にも滲む悔しそうな辛そうな顔をしていた。
お互いに惹き合っているとでもいうのか、魔障とは本当に縁があるようだ。
アルマースは人間に知れてはいけないと言っていた。
だが、みんなの姿を見て揺らいでいた。
また笑って欲しい、悲しい顔をしないで欲しいと強く思った。
今までたくさん助けてもらって、手を差しのべてもらって、、、
(私は、私に出来ることをしよう。 その結果、周りからどう思われるか分からないけど、、、もっと危ない目に合うかもしれないけど、恩を仇で返すようなことはしたくない!)
「団長さん」
カイルさんではなく、団長さんと呼ばれたことに驚き顔を上げるカイルさん。
その目をまっすぐ見つめる。
「ライズさんを助けたいですか?」
「え?」
質問の意図が分からず困惑しているようだったが、構わず質問を重ねる。
「騎士団長さん、ライズさんを助けたいですか?」
「そんな、の、出来るなら助けたい! 代われるなら代わってやりたいくらいだっ、、、」
その声に私の覚悟は決まった。
「私を今すぐ、ライズさんの元へ連れていってください」
「ユーリ?」
「説明している暇はありません。 一か八か、やってみないと分からないけど、ライズさんを助けられるかもしれないんです! 時間がないんでしょう!?」
私の訴えに、少し迷ったがすぐに頷いて、隣の部屋に連れていってくれた。