救出作戦
ちょっとグロめかと思われます。 苦手な方はご注意ください。
自分の天幕まで戻ると人払いをさせ、ルーファとシュヴァルツの3人で情報交換をする。
「宿屋の娘を人質についてくるよう迫ったそうです。 去り際にライズが追いつくも10人程に囲まれ、やられたようです。 最後に突き立てられた短剣から黒い光が発したと言っていたので、、、」
「障封石を悪用したか、、、」
障封石とは、文字通り魔障を封印した石のこと。
光の魔道士のみ、魔獣を倒した時や無機物についた魔障を封印することができる。
通常、それを解くことは出来ないし、しないが、闇の魔道士が光の封印を打ち破ることで、それを悪用したりすることもできるのだ。
「ライズが最後に、魔道士が身に付けていた物に家紋を見つけたと言っていた。 しかもそれは、ガルバディ公爵家のものだったと、、、」
「ガルバディ公爵家、、、国内屈指の名家が絡んでいると?」
「ライズが嘘をつくとは考えられない。 公爵自らとは考えづからいが、関係者なのは確かだろう、、、シュヴァルツ、心当たりはないか?」
ルーファとのやり取りを黙って聞いていた部下に話を振る。
「ガルバディ公爵家の親戚方が何やら不穏な動きを見せているとの話がある」
「ルーファ」
「騎士団長名で、ガルバディ公爵へ書簡を送ります」
「お前が直接、持っていってくれ」
コクリと頷きルーファが出ていく。
「シュヴァルツ」
「監禁できそうな場所を捜索する」
こちらの返事を待たず、くるりと踵を返して出ていく。
どんな時でも頼もしい二人に、心の中で感謝しつつ、いまだ行方の分からない彼女を思う。
どこかで泣いているかもしれない。
どこかで助けを求めているかもしれない。
そう思って、苦しくなる胸に手をやりながら、そっと祈った。
(間に合ってくれ、、、)
××××××××××
連れられてからこれまでは特に何もされなかった。
地下なので外の景色も分からず、昼夜の感覚も曖昧になるが、見張り同士の交代時の挨拶から、食事が運ばれて来るのが朝と夕方、その回数からおよそ2日ほど経っているはず。
動きがあるならそろそろか、、、この数日観察していたが、見張りにつくのは拐いに来たゴロツキだけ。
そして、1日に一回フードの男がやってきて、何やら呪文を唱えては去っていった。
(今日で3日目、、、体に異変は、ある)
昨日、呪文を聞いたあとから、胸にある石からザワザワと何かが這い出してくるような感覚があった。
身体中を虫が這いずり回るような気持ち悪い感覚に、吐き気を覚えた。
(今日も来るだろうな、、、)
その先に待ち受けるものが分からない恐怖を、何とか理性で抑え込み、自分を叱咤する。
(今、恐怖に呑まれたらおしまいだ。 気をしっかり持て、悠利)
そして、昨日と同じようにフードの男がやってきたが、今日は今までと違って、屈強そうな男を二人連れて牢の中に入ってきた。 私を舐めるように凝視し、
「ふむ、、、まだまだ効果が出ていないようだな」
「?」
私の疑問に気付いたのか、男は下品な笑いを顔に張りつけながら、丁寧に昨日まで私にしていたことを教えてくれた。
曰く、闇の魔術で私の心を封じ込め、感情も記憶も封じる術をかけていたらしい。
しかし、それが効きにくいのか、あまり効果の出ない私の様子に、今日はもう少し強く術をかけにきたらしい。
「強すぎると、意識不明になる者もいるが、これまでの様子なら大丈夫だろう」
訳の分からない根拠に心の中で舌打ちしつつ、どうにか逃げれないか模索する。
(ふざけた事ばかり勝手に言いやがって、、、)
相手を詰りたい思いをグッと堪え、近づくフードの男を睨み付けると、
「生意気な、、、やれ」
私の態度が気に食わなかったのか、フードの男が両隣の男達に命令する。
すると、男達が腰の剣を抜き近づいてきた。
「っ!」
後退りするも、すぐに冷たい石壁にぶつかり退路を絶たれた。
そのまま左の男の剣が壁に私の肩を縫い付ける。
「あぐぅ、、、!」
左肩に走った熱さの後に、歯を食いしばっても漏れる悲鳴。
生まれて初めての刺された激痛に、目の前がチカチカする。
(刺さった剣、長いな、、、)
気を紛らわすために、どうでも良いことを考えて、飛びそうになる意識を保つ。
「ほう、まだ意識があるか、、、女のくせに。 身体に苦痛を与えれば、より効果が期待できる。 もう少しやれ」
そう言いながらフードの男が手を上げると、今度は右にいた男が剣を振り下ろした。
右肩から左の脇腹にかけてを斜めに切りつけられ、鮮血が飛び散る。
今度は我慢出来ずに、声が漏れる。
「あぁっ! つぅ、、、っ」
かろうじて胸の石は隠れているが、もう、意識を保つことも難しかった。
(ダメだ、、、ここで気を失ったら、)
沈んでいく意識の中で、私は悲しくなるほどに冷たい声を聞いた。
ー我を起こすは、誰ぞー
××××××××××
「意外としぶとかったな、、、」
フードの男が言いながら、魔術に必要な詠唱を始める。
すると、目の前で肩に剣の突き立った女から声がした。
【我を起こすは、誰ぞ、、、】
地を這うような恐ろしさを持った声が聞こえ、その場にいた男達は硬直する。
フードの男も咄嗟に辺りを見回すが、自分達以外、誰もいない。
【不快なり、、、】
その声は壁に縫い付けられてぐったりしている女の方から聞こえたように感じて、本能的に後退る。
すると、ゆっくり女の顔が持ち上がり、先程までの怯えながらも挑んでくる眼差しと打って変わって、全てを凍てつかせるような酷薄な気配を漂わせていた。
「だ、誰だ!?」
自分でも滑稽だが、目の前にいる"女"が先程とは明らかに違うことを感じて、思わず叫んでいた。
その問に愚かな者を見下すような表情で、
【人間が口を利いて良い存在ではないわ】
というと、肩に刺さっていた剣を抜き、それを片手に近づいてきた。
右にいた男が「粋がるな!」と叫びながら斬りかかった。
"女"は、ゆっくりと手を上げ、振り下ろされた剣を見えない"何か"で受け止め、反対の手に持っていた剣で男の胸を突き刺した。
声もなく倒れた仲間を見て、もう1人の男が恐怖から逃げ出そうと走り出す。
【我に手を出して、生きていられると思うてか? 愚かな、、、】
言うが早いか、逃げ出した男が、くぐもった声を上げながら倒れこんだ。
その腹にはつい先程まで"女"が持っていた剣が深々と突き刺さっていた。
「そんな、、、」
雇った中でも腕の立つ者を連れてきていただけに、立て続け殺され愕然とする。
【残るは、お前だけだ】
そう言いながら嗤う顔は、とても同じ人間には見えなかった。
「ば、化け物っ、、、!」
恐怖に引きつった男の叫びに、少しだけ愉快そうな顔をしてゆっくり顔を近付け、耳元で何かを囁く。
それを聞き男の顔が驚愕に染まるのを見ると、いつの間にか手にしていた剣で、頭から真っ二つに斬り捨てた。
××××××××××
斬りかかってくる男達を斬り捨て、目的地を探す。
「まだか!?」
剣についた血を払いながら共に走る部下を見る。
シュヴァルツも返り血を浴びながら「もう少しだ」と返す。
入り口では、この騒動を引き起こした女がルーファ達に捕らえられ全てを白状している頃だろう。
やはり、精霊術士の噂を聞きつけた貴族の女が、意中の男に振り向いてもらうためにしでかしたらしかった。
ガルバディ公爵は無論、何も知らず事実を伝えるとすぐに協力してくれ、ここを突き止める事が出来た。
「この階段だ!」
シュヴァルツと共に駆け降りる。
そこにも敵が潜んでいるだろうと思っていた二人の視界に映ったのは、背中に剣が突き刺さって絶命している男の姿だった。
「誰が、、、」
その惨状に目を見張るが、その先にいるであろう彼女を探し、一番奥の牢まで来ると、そこは文字通り血の海と化していた。
そして、そこに倒れる男が二人と、剣を片手に佇む彼女、、、
二人の理解が追い付かず戸惑っていると、後から追いついて来たルーファが「どうしたんですか?」と声をかけてきた。
恐らく俺達が殺ったと思ったのだろうが、すぐにその違和感に気付く。
そんな3人に向けて、ただならぬ気配を纏った彼女は、いつもの凛とした声とは違う声をその口から紡いだ。
【今はここまでにしておいてやろう、、、】
聞き返す間も無く、糸の切れた人形の如く崩れ落ちた彼女に慌てて駆け寄り、抱き締めた彼女を確認する。
全身、血で染まっているが、とりあえず息はしている。
その温もりに安堵しつつ、先程聞いた声が耳を離れず、3人の間に重苦しい空気が流れた。