かりそめの平穏の下で、、、
それから数日は何事もなく過ぎていった。
護衛というからてっきり騎士団の人達がつくと思ってたら、騎士団は騎士団でも、上3人が日替わりで付き、夜は流石に部下の人達が不寝番についてくれてた。
私はのんびり釣りをしたり、もらった果物でお菓子を作ってみんなに振る舞ったり、自由に動かせてもらった。
お菓子はこの世界では焼き菓子が主流らしく、昔から甘いものが好きで、食べたいものを自分で作ってたおかけで覚えていた色々なレシピの中から、カスタードクリームを使ったフルーツタルトを作ったら、みんなに大好評だった。
「生のフルーツをそのまま並べるなんて(宿屋の親父さん談)」とか「焼き菓子にクリーム、、、(シュヴァルツ談)」とか、最初は抵抗のあった男性陣も食べさせてみれば、フルーツの甘酸っぱさでほどよく甘味が抑えられるタルトにハマっていた。
そんなこんなで穏やかな日々を過ごす時もあと2日で終わりとなる。
なぜなら、騎士団の皆さんが王都に帰還するのが2日後に決まったから。
そして私も自分の身の振り方を考え、それを伝えるべく、カイルさんの元へとやって来たが、、、
「すみません、団長は今、用談中でして、、、」
若い溌剌とした印象の団員さんが対応してくれた。
確か最年少での遠征抜擢に先輩達からからかわれていた、ライズさん、だったハズ。
「そうですか」
待とうかどうしようか悩むが、この後、宿屋の娘のリーツさんと今しか採れない果物を一緒に採りに行く約束をしているので、あまり待たせられない。
なので言伝を頼むことにした。
「えっと、ライズさんでしたよね?」
「はい! 名前を覚えていただけてたんですか?!」
嬉しそうにはにかむ姿はまだ幼く、子供を見る目をしてしまう。
「みんなに可愛がられていたので、覚えてますよ」
そういうと、ちょっと複雑そうな表情になるが、すぐにいつもの元気を取り戻す。
「もし良ければ、団長の手が空いたら呼びに伺いましょうか?」
「私の今後についての相談なので、そんな手間をかけさせるわけにはいきません。 この後、宿屋の娘さんと森へ果物を採りに行く約束をしているので、、、その後に伺う旨を伝えてもらっていいですか?」
「あれ? でも今日は護衛がつかないはずじゃ、、、」
明後日に出立ということと、昨日近くに現れたら魔獣討伐で人手が足りないため、今日は護衛がつかないことになっていた。
「森と行っても、すぐそこですし、普段村人もよく出入りしているところなので、大丈夫だと思いますよ。 女の子1人守るくらいは出来ます!」
私が自信満々に言うと、
「貴女も女の子の1人じゃないですか。 それなら自分はちょうどこれから休みなのでついていきますよ!」
という意外な言葉が返ってきて、ライズさんからしたらオバサンの私を『女の子』と呼んでくれることに感動しながら、安心させようと笑顔で言葉を返した。
「ほんの少しですが武道もかじってますし、昼には帰ってくる予定ですから、そんな休みの人にまで迷惑かける訳にはいきませんよ」
「だったら尚更です! 団長や副団長、第1遊撃隊長であるシュヴァルツ様があれだけ大切にされてるユーリ様に何かあったら、そのまま行かせた自分が殺されてしまいます。 それに、休みですから、何処で何をしようが自由ですよね? だったら自分は勝手にユーリ様についていきますから!」
シュヴァルツが隊長という偉い人だったことにも驚きだが、皆に大切にされてるとまで言われるほど、甘やかされていたことに、今更ながら恥ずかしかった。
「、、、分かりました。 その代わり、様付けで呼ぶのは止めてください」
「はい! ありがとうございます!」
何に対する謝礼かは分からないが大きな声で返事をすると、同僚に私からの言伝を頼むと、鎧を脱ぎ、剣と軽い胸当てや籠手という軽装でやって来た。
「お待たせしました!」
「よろしくお願いします」
簡単に挨拶を済ませ、すぐに宿屋へ向かうと、リーツに「遅~い!」と怒られてしまったが、またスイーツを作る約束で許してもらった。
何事もなく森へと到着し、手分けして栗を拾い始める。
この世界ではご飯に使われる事が多いらしく、これで、スイーツを作れると言ったらとても驚いていた。
持ってきたかご一杯に栗が拾えたので、皆と合流すべく歩いていると、森の奥から怪しいフードを被った人が1人と、ゴロツキのようなのが7、8人出てきた。
「ユーリだな? 私と共に来てもらおうか」
「、、、嫌だ、と言ったら?」
「分かるだろう? 力づくでも来てもらう。 それとも、この森に共に来た者達がどうなっても良いのなら、抵抗しても構わないが、、、」
そう言って手下に指示を出すと、すぐに後ろから男が現れた。
その腕の中には、、、
「リーツさん!」
「! ユーリさん、、、!」
「どうする?」
フードの男の声に、迷うことなく答えた。
「愚問ね。 今すぐに彼女を解放しなさい」
(いざ本当に誘拐されそうになると、やっぱり少し怖いんだな、、、)
少し震える手を力強く握りしめ前に進み出ると、ゴロツキの1人が私の腕を掴んだ。
それを合図にリーツさんを離す。
「ユーリさん!」
今にも泣きそうな彼女が、こちらに駆け寄って来ようとするが、私は厳しい口調で制止する。
「来るな!」
それから、優しく諭すように声をかける。
「大丈夫だから。 ライズさんと家へ帰りなさい」
そこに遅れてライズさんがやって来る。
しかし、ゴロツキ達に囲まれている私を見つけて、悲壮な顔になる。
「ユーリさん!」
何とかならないか、彼なりに考えたようだが、経験も技術も、まだこの人数と闘いながら、私を救い出す事は難しいだろう。
「その方を返せ!」
それでも剣を抜きながらライズさんが叫ぶが、フードの男は気にした風もなくゴロツキに目配せすると、ジリジリとゴロツキ達が間合いを詰める。
「少し痛め付けてやれ」
その指示に一斉にゴロツキ達がライズさんに斬りかかる。
なんとか避けながら返り討ちにしているが、やはり多勢に無勢で半分ほど減ったところでライズさんが左肩を短剣で刺され、その場に崩れ落ちる。
「! ライズさん!」
呼んでも動かないライズさんに駆け寄りたいが、ゴロツキが掴んでいる腕が邪魔して辿り着けない。
「始末するか、、、」
物騒な事を呟くフードの男に、私は咄嗟に叫んだ。
「やめて! 、、、連れて行くなら早い方が良いんじゃない? 昼には騎士団長と会う約束をしていたので、そろそろ迎えが来る手筈になっているから、モタモタしてると捕まってしまうわよ?」
私がその場しのぎでついた嘘を信じたのか、「まぁ、いい、、、行くぞ」と言いながら、フードの男を先頭に森の奥へと連れていかれた。
後ろから、泣きながら私の名を呼ぶリーツさんの声をいつまでも聞いていた。