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自分という存在

しばらくして、カイルさんがルーファさんとシュヴァルツを連れ立って戻ってきた。

ルーファさんが持ってきたお茶と軽食を広げながら、テーブルに座るよう促したので、入り口に一番近いところにシュヴァルツ、そこから時計回りにルーファ、私、カイルさんと丸テーブルをぐるっと囲んだ。


「少し長くなると思ったので、夕飯の代わりになればと思い、持ってきました」


そういうルーファさんの気遣いが嬉しい。


「ユーリは精霊術士をご存じですか?」


ルーファさんがお茶の入ったカップを渡しながら聞いてきた。

私は素直に首を横に振った。


「はっきり言って、あまり知識や経験が乏しいようなので、まずこの辺りの地理や国政について、かいつまんで説明させていただきます」


正にその通りなので、無知を認めてお願いする。


「今は私達がいるコランダム王国は世界の中でも三本の指に入る大きさを誇る大国です。 全部で10の領地に分かれ、それぞれにある程度の自治権はありますが、全て国王の承認無しでは立ち行かないようになっています」


馴染みのない王政に頷きながら続きを促す。


「周囲は北の山脈の向こうに三大国の一つ、モガン帝国が、東にはへリオ大河を挟んで三大国の最後の一つ、クリソタイル王国があります。 南は海に面しており、シャトヤンシー群島が広がり、獣人達が住んでいますが、それぞれの種族の個体数は少ないながらも、その身体能力の高さから冒険者や用心棒として働いている事が多い」


獣人、、、アルマースから名前だけは聞いていたが、意外と会うこともありそうだな。


「西は霊守の森が広がり、その向こうは言わずもがなの昔、魔王が住みついていた常闇の大地が広がっている」


『魔王』という単語にドキリとする。

私の胸の石、そしてアルマースも苦しめた魔障に密接な関係があるという、、、


(無関係、という訳はないよね)


自分の体と魔障の謎を追うためには、いずれは訪れないといけないであろう大地を思い浮かべ身震いする。

それを、魔王という未曾有の災害のような存在に対する恐怖と受け止めたのか、ルーファさんが優しく声をかけてくれた。


「魔王はもういないので、今は不毛の大地が広がり、魔獣が多少蔓延っているだけですから」


私はお茶を少し含み、心を落ち着けてから


「続きをお願いします」


「東に広がるクリソタイル王国の向こうに、ある小国が存在しています。 そこは女王制で代々"ある力"を受け継いだ者が治めることになっています。 その力のお陰で、クリソタイルとモガンに接していながらも侵略されずに済んでいる、、、」


「ある力?」


「、、、精霊術」


シュヴァルツが固い表情で言った。


「精霊術?」


「精霊と誓約を交わすことによって、力を借りて土地を潤わせ、国を繁栄させ、時として精霊の力で侵略者を退ける。 味方ならばこれほど心強いものはないでしょうね」


「そして、精霊と言葉を交わし力を借りる事ができる者の事を"精霊術士"と呼ぶ。 今、世界で確認されているのは、その女王だけだ」


ルーファさんの言葉をカイルさんが複雑な表情で続けた。

そこまで話した所で、みんなが私を見つめる。


「今一度、問う。 君は精霊術士なのか? そして、その身は、、、」


カイルさんの質問の意図を理解し、私は慌てて否定した。


「違います! 私はその国の関係者でも、精霊術士ってやつでもないです!」


私の否定に皆が黙考し、少ししてルーファさんが声を上げた。


「あの国の関係者ではなく、それでも、あそこまで精霊と意志疎通を交わすことが出来るとなると、、、」


「皆が黙ってはいないだろうな」


シュヴァルツが剣呑に言葉を発する。

何に対してなのかは分からないが、不快に思っていることは確かだ。

いつぞやにアルマースが教えてくれた事を思い出す。


(魔法を使えば、国を一つ潰すくらい訳ないと言っていた。 話が出来て、困ったら助けてくれると言っていたが、それを悪用しようと思えばいくらでも出来るだろうし、そんな力を持っているかもしれない私の存在を、権力者達は喉から手が出るほど欲しがるだろう。 三人が険しい表情をしていたのは、その事に思い至ったからだ、、、)


三人が私の事をそこまで気遣ってくれている事に、申し訳なさと同時に嬉しさを感じた。


「私という存在は、どこまで知られているのでしょうか?」


私が尋ねると、ルーファさんが答えてくれた。


「あの場にいたのは、私達と騎士団の団員達です。 しかし、街道沿いだったこともあり、街道を通りすぎる者まではさすがに、、、」


「そして、団員達も派閥があるからな。 第2王子や王妃の息の者がいたならば、今頃は早文(はやぶみ)が出ているだろう」


シュヴァルツの言葉に、疑問を投げ掛ける。


「国内にも派閥がある、と?」


それに答えたのはカイルさんだった。


「現王と王妃の間にできた子は、第1王女と第3王子だ。 第1王子は二人目の側室と、第2王子は一人目の側室との子で、王位継承権は、今のところ皆同じになっている。 それで、誰を次の王にするかで、派閥が出来上がっているというわけだ」


「そんな泥沼な事が現実にあるんですね」


「今のところ、第1王子が文武両道で最も王位に近いとされています。 血筋を考えたら第3王子ですが、あまり体が強くない事もあり、、、側室順位の高い第2王子も武には富むが、あまり(まつりごと)の駆け引きが得意ではないというのもあり、難しい問題となっているのが現状ですね」


ルーファさんの解説に納得する。

それらも含めての、皆さんの懸案事項だった訳だ。

たまたま保護してくれたのが、この人達だったから良かったものの、、、他の派閥や国の人だったらと思うと、ゾッとした。

顔色の悪くなった私を見て、


「まぁ、とりあえずここまでの移動などで疲れているでしょうし、今日はここまでにしておきましょう」


ルーファさんの提案に、皆も同意して、解散することとなった。

みんなは村の外にある本陣に戻るらしいが、私はそのまま宿屋の部屋を使わせてもらえることになった。


それぞれ退出の礼をして出ていく三人を見送り、部屋に1人、、、事の大きさに足下から震えが来るが、「大丈夫」と自分に言い聞かせ、無理やり布団を被った。

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