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立場と役割

予定通り日暮れ前にアレル村に到着し、用意してあった宿屋の部一室へ行くと、お医者さんが待っており診てもらうこととなった。

あの後、みんながひどく険しい表情をしていて、何か悪いことをしたのか不安になり聞いてみたが、みんな「大丈夫だ」というだけで何も教えてはくれず、、、その後乗った馬上でも無言で厳しい視線を前に向けたままだった。

精霊達にお礼が言えて嬉しかった気持ちも、みんなの固い表情に一気にしぼみ、今では不安しかない。


(私、何かしたかな? やはり、みんなの行動の邪魔になった上に待たせ過ぎたから、、、)


そう考えながら処置を受け、お医者さんが出ていくと、代わって団長さんが入ってきた。

今は鎧を外し、腰に剣だけ帯びたラフな恰好だった。

ベッドから起き上がり団長さんと向き合うも、表情は厳しいままだったがこちらを気遣う様子はいつもと同じだった。


「どうだ? 少しは楽になったか?」


「大丈夫です。 お医者さんも1週間くらいで普段通り動けるようになるだろうって言ってました」


私の言葉に安堵の表情を浮かべ、「そうか」と言うと、またすぐに先程と同じ厳しい表情に戻った。

今まであまり見なかった表情だけに、不安もかなり膨れ上がり、私は耐えきれず謝った。


「昼間はすみませんでした。 部隊の皆さんのことも考えず勝手な行動をした挙げ句、余計な時間を割かせてしまい、部隊行動に大きな支障を、、、」


部隊行動を乱すと言うことは、その部隊を命の危険にさらすということ。

職業柄、団体行動と時間については嫌と言うほど叩き込まれたというのに、完全にこちらの落ち度だ。

新天地で不慣れだったなど、言い訳にもならない。

私が深く頭を下げていると、頭上から戸惑った声が降ってきた。


「ユーリ、昼間のことは気にしなくていい。 むしろ、俺が許可を出したんだ。 もしその事で何かあるなら、その責は全て指揮官である俺にある」


そう言われゆっくり顔を上げると、私の不安を汲み取ったのか、いつもの笑顔を見せながら傍まで寄ってきて、そっと優しく抱きしめられた。

不意の行動にドキドキと胸が高鳴る。


「そんな顔をしないでくれ、、、」


私の身長は団長さんのみぞおち辺りまでしかなく、それでも少し体を屈めながら壊れものを扱うように包み込んでくれた。

鍛え抜かれた固い筋肉も、団長さんの体温と優しい声のお陰で少しも痛みを感じさせなかった。

少し辛そうに声を出す団長さんの温もりを感じながら、その温かさに不思議と安心感を覚えた。

そして、思っていた不安を口に出した。


「でも、、、休憩以降、団長さん、ルーファさん、シュヴァルツ、皆さんの顔や表情が厳しいままでした。 ここについてからもすぐに三人で会議をするって部屋に籠られ、余程のことがあったとしか思えませんでした。 それも、私のせいで、、、」


そこまで言い胸が苦しくなり、団長さんの体温が離れていかないでほしくて、私は思わず団長さんのわき腹辺りの服をギュッと掴んでしまった。

すると、私をより一層の力を込めて抱きしめた後、そっと体を離し、私の目を見て話し始めた。

少し苦笑の混じった声は、団長さんの素の声に聞こえてホッとした。


「本当に聡い人だ。 今日は慣れない移動に疲れているだろうからと思い、本当は明日話すつもりだったんだが、、、今から聞くか?」


自分の関わっている事を疲れたと後回しに出来るほど愚鈍ではない。


「団長さんさえ良ければ、ぜひ、お願いします」


まっすぐに目を見て答えると、「分かった」と答えてから抱きしめていた手を離す。

少し名残惜しく感じながら私も服を握っていた手を離す。

そんなやり取りから、私がいかに団長さんの存在に助けられているのか気付く。

化け物から救ってくれて、環境の変化に震えた夜は共に過ごしてくれた。

この村に来るまでも色々気遣ってくれて、話しかけてくれて、、、短い間だったけど、たくさんのものを貰ってた。

その事に感謝の思いが込み上げてきたので、お礼を言った。


「団長さん、ありがとうございます」


そんな私の気持ちを汲み取ってか、頭をくしゃりと撫でられた。 そして、少し不満げにこぼした。


「どうして俺だけ『団長さん』なんだ?」


他の二人は名前で呼ばれているのに、、、と少し拗ねた雰囲気に、可愛くて思わず噴き出してしまった。


「年甲斐もなく恥ずかしい事を言っているのは分かっているから、あまり笑わないでくれ」


少し顔を赤らめて俯く姿が、大きいくせに子犬のような雰囲気を漂わせ、少しだけ意地悪をしたくなる。


「でも、やっぱり年上の男の人を名前で呼ぶなんて、、、」


無理そうな気配を漂わせて言えば、しょんぼりとして「無理言ってすまない」と言いながら、先程の説明に必要な人を呼びに行くため、部屋を出ようとした。


「カイルさん」


「ん? 、、、えっ?!」


名前を呼ばれたことに、一拍遅れて気付き、耳まで赤らめて固まってしまった。


「嫌でしたか?」


「そ、、、んなことない!」


少し上目遣いに尋ねれば、大きく首を振りはにかみながら「呼んでくる」と言って出ていった。 名前を呼ぶだけで喜んでくれるなんて驚きだけど、少しは恩返しになるかな?と考えてた私であった。




××××××××××




部屋の扉を閉め、そこに背を預けながら両手で、全く締まりのない緩みきった顔を隠す。


(彼女の声で名前を呼ばれただけで、こんなに胸が躍るとは、、、それにあの上目遣いは殺される)


ユーリに一度は厳しい反応をされただけに、その喜びはひとしおだ。

そして、成り行きとはいえその華奢な体を抱きしめていた時を思い返す。

不安げに揺れるその瞳を見たら居てもたってもいられず、どうにかしてその不安を取り除いてやりたいと思ったら、無意識に体が動いていた。

程よく絞まった四肢はすらりとしていて、小柄ながら鍛えているのが分かった。

しかし女性特有の柔らかさも兼ね備えており、抱き心地は堪らなく魅了された。


(あれ以上抱いてたら、色々まずかったな、、、)


などと不埒な事を考えながら、ルーファを探しに宿屋を出た。

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