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出立

指揮所から出る頃にはお昼も近くなっており、先程言っていた通り、もう出発するらしく、みんなが忙しなく天幕を畳んだり荷造りをしていた。

一緒に出てきた団長さんに団員の一人が声をかける。


「まもなく出立できます。 目的地はアレル村でよろしいでしょうか?」


「あぁ。 怪我人がいるので、着いたらすぐに手当てしてもらえるよう、医者の手配を頼む」


団長さんの指示に「早馬を用意します」と敬礼し走り去っていった。

それを見送ってから、団長さんが今後の行動について説明してくれた。


「我々の本陣が、ここから半日ほど行った所にあるアレル村の側にある。 我々はこれからそこに合流し、1週間ほど村の周囲で討伐の影響が出ていないか確認した後、王都へと帰ることになる。 とりあえず村までは乗れる馬車が無いので、俺の馬に乗ってもらうことになるが、大丈夫か?」


初めての乗馬にワクワクしながら了解の意を示した。




馬の上では団長さんの腕の中に収まるように座らされ、最初は少し緊張したが、すぐにその目線の高さに心踊らせ、上機嫌に辺りを見回していた。

思いの外快適な移動が続き、草原を吹く爽やかな風に目を細める。

無意識に鼻歌を歌ってたらしく、団長さんに「綺麗な音色だな。 ユーリの故郷のものか?」と問われ、いつの間にか気を弛ませまくっていた自分に少し赤面しながら頷いた。

暫く進み、少し休憩を取ることになった。

目的地までの所要時間を近くにいた団員さんに尋ねると、今がちょうど中間地点らしく、休憩後に出発しても日がくれる前には着くそうだ。

野営地から、霊守の森をグルッと迂回するように南へ進んでいるので、常に右手にはあの精霊達と出会ったもりが鎮座している。

私は伸びをしながらアルマース達を思い出し、森へと近付く。


「気になるか?」


いつの間にか横に来ていた団長さんに尋ねられ、私は素直に頷いた。


「助けてくれた精霊達にお礼をしてなかったな、と思いまして」


「精霊に礼、、、そうか。 やはり変わっているな」


「そんなに変ですか? 何かしてもらったら、お礼を言う。 その相手が人間だろうがなかろうが、そんなの関係ないと思います。 恩義は忘れるな、です!」


私が力強く宣言すると、団長は目を細めながら、私の頭をくしゃりと撫でた。


「義理堅いんだな、ユーリは。 だがその誠実さ、俺は好きだな」


不意に誉められ、元の世界じゃされないことをされ、心臓がドキドキと騒がしくなる。

赤くなった顔を隠すように俯いていた私に、団長さんが続けた。


「しかし、精霊に礼をとなると、それなりの対価が必要になるが、、、」


「対価、、、? それだ! さすが、団長さん!」


団長さんの言葉に、私はあることを思い出した。


「えっ? ユーリ!?」


そのままもう少し森に近付くように部隊から少し離れた位置に移動する。


「魔獣だって生息しているんだ。 一人で離れるのは危険だ」


「すみません。 でも、精霊達にお礼が出来る方法を思いついたので、居てもたってもいられず、、、」


申し訳なさそうに言う私に、団長さん自ら護衛を買って出てくれて、団長さんの傍を離れない事を条件に許してくれた。

そして、様子を見にきたシュヴァルツも傍にいてくれるということで、これ以上ない安全地帯が出来上がったのである。


「それで、お礼の方法とは?」


団長さんの質問に、私は少し躊躇ってから口を開いた。


「精霊達に助けられたという話はしましたよね? その時に、たまたま私の歌った歌を気に入ってくれたらしく、喜んでくれたんです」


「なるほど、歌えばそれが礼になると」


シュヴァルツの考察に頷き、森の方へ体を向ける。

目を閉じて深呼吸をしながら、森で出会った彼らを思い浮かべる。


(届け、みんなに)


ゆっくり歌い始める。


(届け、森の奥まで、、、)


森の奥の湖と、アルマース達、そこで遊んだ時のことを思い出す。


(助けてくれて、ありがとう。 守ってくれて、ありがとう)


そう想いを込めて、精一杯出せる声で歌った。




××××××××××




精霊に礼をするなど、予想外すぎる発言には本当に驚かされたが、本気で言っている様子の彼女の姿に好感を覚える。

そして思わず想いを素直に言葉に出してしまったが、顔を赤らめて俯くなど、行動がいちいち俺の理性を持っていかれそうになるが、嫌がられてはいなさそうだったのでホッとしつつ、彼女の希望を叶える方法を考える。

すると、俺の言葉に策を見出だしたらしい彼女が大喜びで森の方へ走っていく。

慌てて追いかけて危険な行動を注意し、傍を離れない事を約束させ、様子を見ることにした。

合流してきたシュヴァルツと話し、歌のお礼をすることになりシュヴァルツと俺は邪魔にならないよう、数歩下がる。

すると、森の中で聞いたのと同じ歌声が、ユーリの口から紡がれ始めた。


「これは、、、」


あの時聞いた、忘れられない歌声はやはりユーリのものだったかと納得した。


(あの美しい歌声は、やはり美しい心根の者から紡ぎ出されていたんだな)


俺が感慨深く聞き入っていると、歌声に惹かれ他の者達も集まってきた。

それぞれに「心地いい歌声だ」、「心が洗われるようだ」など褒め称えながら、みなが浸っていると、同じように浸っていたシュヴァルツが驚きの声を上げた。


「まさか、、、」


その言葉に森の前に立つユーリに目を向けると、無数の光の粒に囲まれ歌っていた。

あまりに神秘的なその光景を目の当たりにし、誰も言葉が出てこなかった。

歌い終ると彼女も光の粒に気付き、何故か話しかけ始めた。


「みんな、無事だったの? 、、、そう、良かった~」


笑顔で光の粒に話し掛ける様子は現実離れしていて、どこか遠い世界に彼女が行ってしまったようで、俺をひどく動揺させた。

すると、俺のすぐ後ろから、ルーファがポツリと言葉を発した。


「精霊術士、、」


ハッとして、俺とシュヴァルツがルーファを見る。


「学生時代に読んだ文献に書いてあった通りの光景ですね。 『その者、眩い光の渦に包まれ、世界に息づく全てを操る。 その者の声を聞き光は、剣となりその者に仇なすものを屠り、盾となりその者にかかる全ての厄災をはね除ける。 そを精霊術士といふ』」


正にその通りの光景に、思わず息を呑む。

礼を言い終わったユーリは笑顔で光達に手を振ると、光は森へと消えていった。


「お待たせしました。 無事にお礼を言うことができました! ありがとうございます」


いつの間にか集まってきていた他の人たちにビックリしながらもお礼を言うユーリに、これから訪れるであろう大きな試練を思い、俺は今一度、彼女を守る意志を固めた。

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