一夜明けて
久々の更新、、、出来て良かった~
朝日が顔を出す少し前、私は昨夜、あのまま借りた天幕から顔を出した。
「朝の澄んだ空気が気持ちいいな」
う~んと痛む体を出来るだけ伸ばしながら、肺いっぱいに空気を吸い込む。
そして昨夜の事を少し思い出し、頬を緩めた。
あの後暫くは、騎士団や王都の話などとりとめのない話をして私の気分も落ち着いて来た頃に、
「女性の寝所にこのような時間まで、、、団長も隅に置けませんね」
と、苦笑まじりで入ってきた副団長こと、ルーファ・ミルニカさんにからかわれ、団長は「特権だ」とニヤリと笑ってから、私に就寝の挨拶をして、二人とも出ていった。
それまでいた人の気配が無くなると、途端に寂しさが込み上げてきたが、団長の気遣いでだいぶ緊張もほぐれ、使っていいと言われたベッドに入るとすぐに睡魔が襲ってきた。
昔から朝までぐっすり寝たことがないため、途中何度か起きたが、それでも体を休めることができた。
「体を動かしたいけど、、、誰かいないかな?」
普段のルーティンである朝の筋トレをしたくて、行動の許可取りと場所提供のため、騎士団の人を探す。
しかし、まだ夜明け前ということもありなかなか人が見つからず、諦めて戻ろうとしていたとき、横切った天幕から出てきた人とぶつかってしまった。
「ふぎっ、、、すみません」
変な声を上げてしまった恥ずかしさに顔を見れなかったが、とりあえずぶつかった謝罪をした、、、が、いつまでも無言の相手に、不安になって顔を上げると、そこにいたのは昨日のお助け隊その3のお兄さんだった。
しかし、森の中や最後に陣の入り口でかけられた厳しい言葉と眼差しを思い出し、少し体を固くする。
「ここで何をしている」
冷たい氷のような言葉をかけられ身を竦めるが、このままではマズイと分かるので、ここにいた目的を伝えた。
「捕虜の身分で勝手に出歩き、すみませんでした。 朝の筋トレ、、、鍛練をしたく、その許可を取りたかったのですが、天幕の周りやこの辺りまで来る間に誰にも会えず、さ迷っていた次第です」
厳しい視線にも、ここで怯んでは女が廃ると己を奮い立たせ、相手をしっかり見返した。
「捕虜、、、? 鍛練というのは具体的に何をしたい」
捕虜という言葉に何か引っ掛かりはあったようだが、筋トレの許可が下りそうなので、そちらを優先する。
「何キロか走ったり、全身の筋肉を鍛える運動をしたいです」
「野営地のため、走ることは出来ない。 あまり広くないが訓練場なら好きに使って構わない」
「やった! ありがとうございます!」
ダメ元だったので、体を動かせる嬉しさにニヤけながらお礼を言ってしまい、相手が固まっていることに気付いて慌てて居住いを正す。
「、、、、、」
(マズイ、気持ち悪がられたかな? やっぱりダメって言われたらどうしよう)
少しして、そのまま無言で立ち去ろうとしたお兄さんを慌てて引き留めた。
「あの、訓練場って何処ですか?」
私の質問に、少し目を見開きながら振り向き目と目が合うと、しばらく見つめ合った後、案内するような手振りをして歩き出した。
××××××××××
陣の森に一番近い端に馬を留めておく場所があり、その横に訓練場を設けていた。
特に何もない草っぱらだが、その方がいろいろしやすい。
朝起きて身支度を整えていると、天幕の周りをウロウロする気配を感じた俺は、確認のため天幕から出た。
すると、みぞおち辺りにポスッと何かがぶつかり、それは変な悲鳴を上げた。 目線を下に下ろすと、そこには件の彼女がいた。
初めて見たときから異質なものを感じ、あまり騎士団や団長に良くない結果をもたらしそうだったので、厳しい姿勢で接してしまったが、間近で見るとただの幼い少女に見えた。
取り立てて綺麗な訳ではないが、愛らしい大きな瞳に華奢な体は、あまり苦労せずに育ったように感じられた。
(孤児や貧困とは無縁の世界で生きてきたんだろうな)
今は団員の着る長袖長ズボンを着ているが、昨日着ていた服はボロボロだったが仕立ては良さそうだった。
鍛練をしたいという申し出に許可すると、嬉しそうに微笑み、思わず見惚れてしまった。
(ルーファに知れたら何を言われる事か、、、)
心の中で嘆息していると、
「ありがとうございます、お兄さん」
とお礼を言われた。 名前を教えてない事に気付き、
「、、、シュヴァルツだ」
と名前を教えると、改めてお礼を言われる。
「ありがとうございます、シュヴァルツさん。 私はユーリです」
名前を教えてくれた事に驚いていると、彼女は体を解し始めた。
ゆっくり、自分の可動域を確かめるように筋を伸ばし、それからおそらく筋肉を鍛えているのであろう、見たことない動きをしていた。
珍しさから暫く眺めていると、苦悶の表情を見せた。
「くっ、、、」
少し苦しそうに呻く姿を見て傍まで寄ると抑える腕の袖から白い包帯が見えており、そこで昨日の状態に思い至る。
「怪我が痛むのか?」
そう聞くと、ハッとした顔を上げ、慌てて痛みを隠すかのように笑顔になった。
「だ、いじょうぶですよ? 少し動かしづらいだけですから」
明らかなやせ我慢に、彼女の足元に座り怪我をしていたはずの足を軽く掴む。
「にぎゃっ!」
到底、女性が出すような声ではない声を出し、咄嗟に俺の腕を掴む。
そして、涙目になりながら恨めしそうに見上げられ、俺は固まった。
先程までのひ弱な少女に見えた顔は、涙に濡れた漆黒の瞳、艶っぽく少しだけ開いた唇から漏れる苦しそうな吐息が、彼女との艶かしい情事を想像させ、俺は己のあり得ない思考に驚愕した。
(こんな劣情にかられるなんて、あり得ない)
すぐに思考を切り替えようと大きく頭を振った。
だが、どんなに否定したところで、目の前の自分より幼いであろ女性に、口には出せない思いを抱いたのも真実。
今まで、己の強さを極める事と、自分の遥か高みをいく団長にしか興味の湧かなかった自分の変化に戸惑いながら、掴まれた手を見下ろし、気持ちを落ち着かせるために静かに深呼吸した。
「、、、大丈夫ですか?」
黙って動かなくなった俺を心配してか、怪我している足を握られたにも関わらず、気遣う声をかけてきた。
「全身怪我だらけの人間に言われたくない」
漸く自分のペースを取り戻した俺は、要らぬ心配だと告げ、ユーリを抱き上げた。
「ふぇっ?」
突然の出来事に目を白黒させているユーリの姿を愛らしく思いながら、
「怪我人を悪化させたとなれば、怒られるのは俺だ。 治るまで大人しくしてろ」
そう言われショボンとしている姿は子犬のようだ。
(先程から何を考えてるんだ、俺は、、、)
焼きが回ったとしか思えない思考に呆れながら、彼女の使っていた団長の天幕まで歩いていった。