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団長と私

天幕に誰かの入ってくる気配を感じ、慌てて目に溜まった涙を拭う。 それでも泣きそうになっていたことを知られたくなくて、顔を上げれずにいると、入ってきた人はベッドを回り込み、私の前までやってきた。


「、、、、、」


すると、ゆっくり私の横に腰を下ろした。

私は、さすがにこのまま何の反応もしないのはマズイと思い、そっと顔を上げ相手を確認する。


(カイルさんか、、、)


相手が先程まで話していた人だと分かると少しホッとして息を抜いた。

しかしカイルさんは目が合った途端にバッと顔を反らし、他の方向を向いてしまった。


(えっ、、、なんで?! 顔を反らす、、、まさか、私が臭うとか?)


理由がわからずあれこれ考えを巡らせていると、カイルがこちらを向き、ニコリと微笑んでくれた。

しかし、私の負の思考ループから導き出された答えは、『顔を背けるほど臭い→しかし大人の対応をすることに決めた→我慢してニコリと微笑む』というものだった。


「っ、、、ご、ごめんなさい!」


私は慌てて謝罪しながら後退る。


「え?」


何故か後退る私を怪訝そうな顔で追いかけるカイルさん。


「いや、、、離れてください」


さらに逃げ腰の私。


「何故ですか?」


そんな私を少し悲しそうに見つめながら、近付こうとするカイルさん。


そんな問答に、『気付けよ、鈍感っ!』と叫びたくなるのを抑え、言い訳をする。


「私、臭いですよね! 今日もたくさん走って汗かいたし、団長さんもさっき顔反らしてたし、、、だから、無理に近付かなくて大丈夫です!」


イケメンさんに面と向かって言わされる羞恥プレイに、少し涙目になりながらそう叫ぶと、キョトンとした目で見つめられた後に、カイルさんが俯き肩を震わせ始めた。


(あ~も~、穴があったら入りたい)


「くっはははっ、、」


とうとう声を出して笑い始めたカイルさんにジト目を向ける。


「いや、すまない。 ふふ、、、でも嫌われた訳ではなく良かったよ」


そう、爽やかな笑顔で言われ、その笑顔にドキリとさせつつも、いつまでも不貞腐れているわけにもいかず、私もカイルさんにつられて少し笑った。


「、、、、、不意打ちは止めてくれ」


少し顔を赤くしたカイルさんに言われ意味がわからずキョトンとしていると、ため息をつきながらまたも意味の分からないことを言われた。


「はぁ、、、無自覚とか勘弁してくれ」




とりあえず落ち着いて話そうと言われ、ベッドの横から簡素な椅子へと移動してきた。

私の前に温かいお茶を出し、カイルさんも向かい側に座った。

ミントのような爽やかな香りに、少し頭がスッキリする。

疲れてはいるが、まだアドレナリン全開の体は休めず、かといって効率的に思考することも出来ず、ただ悶々とする思考の渦に呑まれかけていた私は、漸く一息つけた。


「寝れそうには、なさそうだな」


お茶で少し落ち着いたとはいえ、まだまだ寝ることは出来なさそうな私の心情を分かってか、カイルさんは話し相手になってくれた。


「最初に聞いておきたいことが」


そんな畏まった前置きに、私も緊張しながら見返すと、実に予想外な質問が投げられた。


「君の名は、なんという?」


しばし、目をぱちくりさせながら相手を見つめ、これまでの出来事をざっと振り返り、そこで漸く自分が名なしの権兵衛さんだったことに気付く。

なんせ、目の前にいるイケメンさんの名前すら先程知ったばかりだ。

そう、自分のドジっぷりを状況のせいにして、改めて自己紹介することとなった。


「私は、、、悠利と言います」


この世界に日本のように、姓名があるのか分からなかったため、とりあえず名前だけ名乗っておく。


「ユーリか、綺麗な名だな。 出身はどの辺りだ?」


カイルの問いに黙ってしまう。

この世界とは違う所から来たと言っていいのか、言ったところで信じてもらえるのか、分からないことが多すぎて、そのまま黙りこくってしまった。

カイルさんも話すのをしばらく待ってくれたが、急かしたり、キツく問いただしたりしない姿に、言えることを正直に話した。


「ごめんなさい、今はまだ話せません」


「そうか」


私から帰ってきた残念な返事にも気分を害した風もなく、笑いながら頷いてくれた。

本来なら何も教えない不審者を拘束したり尋問したりして当然の中、カイルさんは起こることもなかったのが不思議で、思わず聞いてしまった。


「、、、怒らないんですか?」


私の問いかけに驚いた顔をしたあと、笑いながら答えてくれた。


「この程度のことで怒らないよ。 でも、聞いていい?」


カイルさんの問いかけに頷くと、


「『今はまだ』ということは、話したくない何かがあるということだね? ならば、その秘密を守るためにつこうと思えば、いくらでも嘘をつくことは出来た。 しかし、そうしなかったのは何故?」


その質問に私は躊躇いながら答えた。


「、、、さっき団長さんが見ず知らずの、名前すらろくに名乗らない非常識極まりない私なんかに、『助けたい、守りたい』って言ってくれたからです。 今まで守られる立場に無かったので一人でなんとかしなきゃって思ってましたけど、頼るツテのない私にこうやって手を差し伸べてくれたって事がすごく嬉しかったんです」


恥ずかしさから、なかなか目を見つめられないけど、精一杯相手の方を見ながら話した。


「本当は裏があるんじゃ、とか疑わないといけないんだろうけど、あまりそういうのが得意じゃないし、何より誠意には誠意で返すっていう私の信条は曲げられないですから」


どれだけ自分が痛い目見ても、そこだけは譲れない。

それが、30年間生きてきた私の軸だから。

そこまで話した私を見て、カイルさんは真っ直ぐ見返してきた。


「なるほど、、、では、俺もユーリ、君の誠意に応え誓おう。 騎士団長として、君にこれ以上の不遇がないよう、最大限の助力をしよう」


カイルさんの言葉を受け、とりあえず捕虜としての人権は認めてもらえそうなことに、安堵した。

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