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合流

陣の中でもとりわけ大きい天幕へたどり着くと、中へ入った。

中には、一人で寝るには少し大きなベッド、簡単なテーブルと椅子が4脚、それに装備品を置くであろう棚が置いてあるだけのシンプルな作りだった。

私はそのままベッドへそっと下ろされた。

団長さんは私と目線を合わせるためか、私の前に膝まずき、顔を見上げる形で話し掛けてきた。


「私の名は、カイル・フォン・ルベウス。 ここ、コランダム王国の王国近衛騎士団の団長をしている。 、、、ここまで大丈夫かな?」


目まぐるしく変わる環境に付いていけてないのを気遣ってか、優しく確認してくれた。

私がコクンと頷くと、


「っ、、、」


カイルさんは目を見開き、下を向くと何やら呟いた。

私が不安になってオロオロしていると、何事もなかったように顔を上げニコリと微笑んで続けた。


「我々はとある任務でこの地を訪れたんだ。 そして偶然、あの森で君に出会った」


あの森での出来事、、、特にあの化け物の事を思い出し、今更ながら死んでたかもしれないことと、目の前で消えていった精霊達を思い出し、私は身震いした。

そんな私の手をそっと握り、「もう大丈夫」と優しく繰り返し、落ち着くのを待ってくれ、大丈夫そうな頃合いを見計らい、また話始めた。


「君はあそこにいるには、少し不審すぎる。 見たところ、冒険者でも、近くの村の人間でもなさそうだ。 そうなると、保護した以上、素性を明らかにするために尋問をしないといけない」


この世界で見たこともない服装や持ち物、武器も持たずにあの森にいた事、アルマースが言ってた『常識』に当てはめると、確かに怪しいだろう。

しかし、尋問という穏やかではない言葉に表情は固くなる。


(尋問、、、この世界には捕虜に対する人権は認められるのかな? せめて、痛い事はしないでほしいな)


さすがに30過ぎのオバさんが、顔に傷が、、、とかは気にしないが、そっち系の趣味も無いため、痛いのは嫌だな~などと考えている私に、


「先程みたいに嫌なことを思い出すかもしれない。 それでも、私は君を助けたい。 守りたい。 だから、知っていること、分かっていることを出来る限り話してほしい」


真摯な姿勢で、真っ直ぐに見つめられ、これがプロポーズだったら、世の女性方は黄色い悲鳴をあげるだろうな~など、くだらないことを考えていると、天幕の入口から声が掛かった。


「団長、衛生兵を連れてきました」


団長はそっと手を離し立ち上がると「入れ」と許可を出した。

その手の温もりが、少しだけ名残惜しかったのは、これまでの激しすぎる環境の変化のせいだと思うことにした。


「失礼します」


応急バッグのようなものをもった男の人が入ってきて、私のそばまで来て、処置の準備にかかった。

その様子を私の横で見ていた団長に、衛生兵の人が声をかけた。


「団長、この方は女性のようですが、自分だけで処置した方が、、、?」


確かに衛生兵なら男女の別なく治療できるよう訓練されているだろうし、医者が性別など気にしてたら治療出来ないだろうが、、、そこで、カイルさんははっとした後に、慌てて天幕の外に出ていった。




しばらくして治療が終わると、衛生兵さんは外に声をかけた。

すると外でずっと待っていたのか、すぐにカイルさんが入ってきた。


「どうだ?」


「全身打撲に、右腕はおそらく骨にヒビが、、、。 足の火傷のようなものも、ちゃんと医者に見せた方が良いかと。 とりあえずゆっくり休んで、事情聴取は明日以降にすることをお勧めします」


「そうか、、、ご苦労。 下がってくれて構わない」


少し顔をしかめながら部下に指示すると、衛生兵さんが敬礼をして出ていった。

入れ違いに別の人が入ってきて、副団長が呼んでいる旨を伝えて去ると、カイルさんも「少し席をはずす」と心配そうに声をかけて天幕を出ていった。


ようやく一人になり、折っているらしい腕や足の怪我は痛むが、改めて生きていることに安堵する。

落ち着かないベッドの上からズルズルと地べたに降りて、ちょうど入り口からも死角になるスペースに、落ち着くと昨日からの出来事に思いを馳せた。


(ホント、色々あったな~、、、)


今までの日常から一変した世界へ独りでやってきたこと。

生まれて初めて出会い、そして、この世界で初めて仲良くなった精霊達(ともだち)

まさに魔法の世界だと実感できた、精霊達の不思議な力。

一方的な暴力で蹂躙してきた化け物。

私を守ったせいで死んでしまった精霊達、、、。

もう死ぬかもって思ったときに助けてくれた、カイル、ナントカさんとその仲間達(長い横文字は日本人は苦手なので、覚えられなくても仕方ない、仕方ない)。

気が付けば、この世界で初めての人類との遭遇、、、それを上回る首だけの化け物の意味不明発言の数々

あまりの出来事の数々に、私はショート寸前だった。


「まじキャパオーバーだし、、、三十路だって、長い人生からしたらまだまだヒヨッコですよ。 それなのに、全部受け止めきれるかっての」


森で精霊達と話してた時は、30歳をなめんなくらいに言ってたが、今では全部棚上げで愚痴っている始末。

でも、これからの未来も真っ暗な現状、少しだけ、今だけは弱音を吐いても良いだろう。

そう自分に言って、痛む体を自分の手で抱き締めた。


(アルマース、みんなに会いたい、、、)


あの森で、精霊達(みんな)という存在にどれだけ守られ、安心感を貰ってたのか改めて実感し、これからの捕虜生活を乗り切れるのかなど、とてつもない不安に周りの地面が崩れていくような、何とも言えない感覚を味わいながら、


(大丈夫、大丈夫、、、)


とひたすら呪文のように唱えていた。

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