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知性がなしたものを見よ  作者: 宮沢弘
第二章: 書ハ悪魔ノ囁キナリ
8/23

2−3: 大学課長と科学者

 昨夜は眠れたからだろうか、幾分ではあっても体が動くように思う。医師から聞いているところだと、かなり強い睡眠導入剤を処方しているという。それも数剤のカクテル剤とのことだ。それでも眠れるかどうかは、その時しだいというところだが。

「普通なら、別の薬をもう一つくらいは出せるんですが」

 医師はそう言っていた

 それでも今日は座って若者の人々に向けての話を聞いていられる。

「さて、いいかげんあなたがたの本も処分したいのですが」

 その声に私は顔を上げた。二人組ととりまきが話を聞いている人々の向こうに立っていた。

「ちょっと中断しよう」

 そう言い、私は若者から本を取り上げ、またノートも拾い、鞄に押し込んだ。

 二人ととりまきが話を聞いていた人々を蹴りながら近付いてくる。私は鞄に覆い被さった。

「いいかげん、渡してくれませんか?」

 大学課長という男の声が聞こえた。

「そうでないと、力に訴えることになりますが?」

 その声が終るかどうかのうちに、左の脇腹に痛みを感じた。背中にも。

「それがあんたの言う秩序か?」

 どうにかそれだけを言った。

「過渡期、ですね。そのあとには律法により正しい世界が来る」

 打ち据えられながらも、その声は聞こえた。

 ふいに背中に重みがかかり、打ち据えられ蹴られる痛みがなくなった。代わりに、あの若者と思える呻き声が聞こえる。

「どきなさい。君が殴られる理由はない」

「先生のお世話をすると決めたのですから」

 そう答えながらも呻き声が漏れた。

「もういい」

 さっきの男の声が聞こえた。

「どうだ! これが知識を狂信する連中だ! ニュースを見てみろ! 掲示板を見てみろ! 知識を狂信する連中がもたらしたことだ!」

 その男はそこで笑った。

「自分たちの頭で考えるんだ!! 自分たちの頭で!! 私たちは知性による革命を行なう! こいつらが盲信する知識などではなく! 知性の結晶たる律法による! 正しい世界を作る!」

 いくつもの足音が聞こえた。早足の、重い足音が。

「世界はそんなに単純なものではないぞ!?」

 やっと、私は大きな声で言えた。

「人類の英知たる律法が単純だと? あぁ、そう言いたければ言えばいい。私たちは単純だとも。そうだ、私たちは単純だ! それの何が悪い!」

「そこ! 離れなさい!」

 別の声が響いた

 いくつかの足音が離れていった。覆い被さっていた若者も離れた。

「先生、大丈夫ですか?」

 若者とは違う声が聞こえ、顔のすぐ横に手が差し延べられた。

「いや、私は先生ではないよ」

 そう答えながら、手を取った。その手は力強く、私の上半身を引き起こした。

「まぁ、お会いしたことはありませんでしたから。先生の小説、記事、啓蒙書のファンです」

「そうか。ありがとう」

「護衛をつけましょうか?」

 私は周囲を見た。おそらくは好奇の目で、人々は眺めていた。

「いや、それはやめておこう。何を言われるかわかったもんじゃない」

「確かに。ですが周りから見ているようにはしましょう」

 私はうなずいた。

「それと君」

 兵は若者を見た。

「無茶をするんじゃない」

「だけど……」

「あぁ、確かに『だけど』だ。だがな、君も連中の明らかな標的になったのかもしれないんだぞ」

 若者は私と兵の顔を見た。

「先生から連中の注意が逸れるなら」

「ちがう、ちがう」

 私は若者に言った。

「君も標的になったかもしれないということだ」

 兵は私の言ったことにうなずいていた。

 若者は言葉を探していたようだが、見付かった言葉はないようだった。

「いいか? これから話をするときには、まず軍の人間に一言言いなさい。誰か一人はいつも近くにいるようにしておくから」

 兵は若者の左肩を右手で叩いた。

 若者はそれにうなずいて答えた。


「私たちは単純だ」のあたりは「黙示録3174年」より。

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