9引用なし
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「おいジロー」
「なんだ、ムラマサか」
「なんだとはなんだ。……いや、まあいいか」
またしてもじゃんけんに負け、ゴミ袋をゴミ置き場まで運ぶ途中、先週と同じようにムラマサに声をかけられた。ちょうど曜日も同じ水曜日である。
「お前、また面倒事に首を突っ込んでるんだって?」
「そんな言い方は心外だし、そもそも面倒事に首を突っ込んだつもりはないんだが」
ムラマサもじゃんけんに負けたのだろうか。ごみ置き場にゴミ袋を放り込みながら、こちらに問いを投げかけてきた。それに対し、憮然として答えを返す。
「赤沢とか芳賀山とかと喧嘩になったみたいな」
「それは事実ではない。というか話に尾ひれがつきすぎだろ」
「尾ひれが、ってことは何かはあったんだな?」
わたしゃお前のそういう鋭いところは嫌いだよ――この有名なセリフの元ネタは一体なんだったか、今はちょっと思い出せないが、それはさておき。
「まあ、何もなかったというのは嘘になるな」
先週の水曜日。
ごみ置き場に明らかな悪意を持って置き去りにされていた篠目の体操服を見つけた日だ。
そしてその翌日、拾った体操服を篠目に返却してやったことをムラマサにかいつまんで話す。
「お前……赤沢の父親の職業、知ってる?」
「は? ヤクザとかか?」
全部話し終えたとき、開口一番ムラマサはそう言った。どういう意味だ? 親がヤバいから手ェ出すのはやめておけとか、そういう類の話か?
「まあ似たようなもんだ。政治家だよ」
「あんまりクリーンな奴じゃないってことか?」
「噂によると、中学校の時に赤沢とトラブったクラスメイトが路頭に迷ったらしい。他にも色々聞くけど、有るような無いような噂ばかりで信憑性はあまり無いな。クラスメイトが一人、家族ごと路頭に迷うことになった、ってことだけは事実らしいが」
くだらない――そう返すと、ムラマサが切り返してきた。
「お前、噛み付く相手はちゃんと考えた方がいいぜ。本当に」
「余計なお世話だっての。それに、俺が好き好んで赤沢に噛み付いているみたいな言い方は心外だ」
じゃあ、俺は部活だからこっちだけど――と、ムラマサは言って行きかけ、立ち止まった。
こちらに振り向いて言う。
「中学校の時みたいな無茶はもうするなよ」
その表情から読み取れるのは真面目一色であり、無駄口を叩く気すら起きなかったので、
「……しねーよ」
ただ一言、それだけ返しておいた。
しねーよは別に「死ねよ」って言ったわけじゃありませんので!