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7人間失格

 7



――しかし、ああ、学校!

  自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです。尊敬されるという概念もまた、はなはだ自分を、おびえさせました。ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、ある一人の全知全能の者に見破られ、木っ端みじんにやられて、死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが「尊敬される」という状態の自分の定義でありました。


 太宰治の「人間失格」、その割と冒頭の部分である。

 通学途中にある古本屋で百八円の値段シールがついていたもの。それが半額セールになった時を見計らって購入した本たちを、こうしてせっせと休み時間のうちに消費しているのであった。

 人間失格は中学校の時に国語の資料集に一部分とはいえ載っていた。そのためすっかり読んだ気になって、今まで一度も目を通したことがなかったのである。

 一時間目が始まるまでの休み時間から、七時間目前の休み時間のうちに一冊、夜、家に帰ってから二冊か三冊読むくらいでないと、三桁を超える未読の本の山が一向に減らない。いや、むしろそれどころか増えていく計算なのだが、今日はどうにもそのノルマを達成できそうにはなかった。また読んでいない本の山が増える、と嘆いても仕方がない。本を次から次へと買ってきてしまうのはもうどうにもならないと諦めてしまっているので、それなら買うより読む速度を上げねばならないのは自明の理だ。

 だから昼休みの間だって、本当は一秒たりとも無駄にできないわけなのだが。


「何か用なら話だけ聞いてやるぞ」


 本を読むこと以外に思考を費やすとなると、当然読む速度は遅くなる。だが、なにをするでもなくただずっと机の前に立たれるのもそれはそれで気が散る。それゆえの妥協であった。本を読むのはやめない。しかし用事は片づけたい。


「まず、本を置いて欲しいんだけど」

「拒否する。お前なんかのために使う時間はこちらにはない。そうだな、今月の三一日まで待ってくれたらお前のために時間を割いてやろう」


 ちなみに今日は六月八日、月曜日だ。


「いや、無いから。三一日無いから今月」

「お前のために本を置くことなどこの先一生無いという意味だったのだが、通じなかったのか」

「は、ら、立つ……けど、いいから聞けよ。先週木曜日のこと」


 そう言ってそいつは何やら話し始めたが、自分は話半分よりも下、なぜか表紙に小畑健のイラストが使われている集英社版「人間失格」を読むBGM程度にしか聞いていなかった。それで十分だと思っていたし、実際――目の前で熱弁をふるう芳賀山の話なんてそれくらいで聞いていても損することなんてない。


 そのはずだった。


――――もはや、自分は、完全に、人間でなくなりました。

 痺れますね。

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