表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/31

16引用なし

 16



「いいか、沙前。俺だってな、お前たちのことを信じたいよ。だが、こうして、芳賀山が被害に遭ったと言っている上、一般人二人も同じ証言をしているし、名前は出せないが生徒からも幾つか目撃証言が上がってんだ。それに、俺だって現場にはいたわけだしな――ほとんど収拾がついた後だったが」


 真顔が腹立たしいが、今少しの辛抱である。俯いた芳賀山の表情は見えない。


「芳賀山。本当のことを話してくれるんだよな」


 問いかける。確かに頷きが返る。

 告げた。


「おい、セクハラ教師。お前こそ、生徒に手ェ出してるってPTAにチクるぞ」

「やってみろよ。証拠もないのに、生徒(ガキ)の戯言を、大人がどこまで本気で聞くと思う?」


 返事は当然予想済み。


「ところで先生、僕が写真部ってご存知でしたか?」


 ポケットからカメラを取り出し、これ見よがしに振って見せる。


「もちろん先生は僕の担任ですから、ご存知でしょうけど」

「馬ァ鹿、はったりだろ。俺はこれで、よく人を見てる方なんだよ。お前が入ってきてから今まで、写真なんて取ってる暇は無かったろ」

「本当にそう言い切れますか?」


 実際そんな暇なんて無かったし、もちろん写真もない。しかし、今この場において、平江が「写真を取られていない」ということを証明するすべはないのだ。無いことを証明することはできない――悪魔の証明である。

 平江がついに立ち上がった。芳賀山のスカートから右手が引き抜かれる。


「学校に要らないものを持ってくるのは悪いことだぞ。先生が預かっておいてやろう」

「そんな理屈がまかり通るとでも?」


 自分が写真部である――もちろん嘘だ。このカメラだって、たまたま友達のを預かったままになっていただけであり、だからここで平江に奪われてしまうわけにもいかない。安い挑発のためのキーアイテムとして一役買ってくれたカメラを、尚更取り上げられるわけにはいかなかった。


「中学生だからって手加減しねーぞ……? これは愛の鞭だから――な!」


 見極める。飛んで来るのは右の拳。さすが先生でなければレスラーになっていそうな先生である。中学生相手の拳とはわけが違った。成人男性と中学生での体格の違いもある。

 迫る右拳、当たるのは左の頬だ。痣が残るかもしれないことなど全く考えていない、強烈な一撃。それに対し、自分は、顔を動かした。向かいくる拳に頭突きを加える形で、だ。額に衝撃が走り、苦悶の声が漏れる。しかし衝撃の方向は逸らした。こちらに向かってくる拳の甲に頭突きをぶつけ、ベクトルをこちらに向くそれから地面へと変えたのである。

 額付近の頭皮が切れたのか、血が頬を伝った。大したダメージではない。大丈夫。このまま逃げ出してしまえば、まさに生徒にセクハラを指摘され、激情してその生徒に殴りかかった先生の図が生まれるわけだが――当時の自分は、それでは腹の虫がおさまらなかった。すなわち、平江に向かって、反撃したのだ。床に向かう己の右拳に引っ張られる形で少しバランスを崩した平江の左肩を突き、両足を右から払う。

 馬乗りになる。

 そしてあとは殴るだけである。

 筋書きはこうだ。無実の罪で生徒に土下座を強要していた先生が、信じられないことにその場で堂々と行っていた女生徒へのセクハラ行為を咎められ逆上。生徒に殴りかかり、そして生徒は必死に抵抗する……

 状況証拠では実際に何が起こっているかは判別しづらいだろう。だからそこで、芳賀山の証言が生きる。被害者である彼女がすべてを話せば、この事件は暴力教師の暴走という決着を迎えるだろう。

 そして。


 芳賀山は。

 「二名の生徒による教師暴行事件」についての真相を。

 校長やほかの先生、警察官に、語ることをしなかった。


 土壇場での裏切りは、沙前健次朗と村江弘雅を、前科持ちにしたのだ。


 沙前の回想ですから、すっきり平江はぼこぼこにされましたけど。

 当時はもっと必死だったはず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ