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第4話 イラニエの都に行こう

「ふぅわあぁ…。」


良い朝だ。爽やか上等、天下一品。

…いや、意味分からん。顔でも洗おう。


「アディ、おは…。」


よう。と言いかけてまた大きなあくび。

アディは既に朝食を食卓に並べていた。


「おはようございますユーイチ様。」


「様はいらんよ…。」


椅子に座り二人で朝食を食う。今朝のメシは摘みたてブルーベリーとお粥っぽい何かだった。どっちもうまい。


これが休日の昼ならテレビをウキウキウォッチンしちゃうところだが、ここにテレビなどない。

アディのニコニコとした四角い顔しかない。てか四角いな。顔。余計なお世話か。


「それで、どうするんですか?」


「なにが?」


「今後のことですよ。まさかこの村に永住するわけではないでしょう?」


「まあなあ。」


アディ。俺もそれは考えてたのだよ。でもな。


…よく分からん。どうすりゃいいの俺。

いきあたりばったりなの。無計画なの。とりあえずもう少し大きな都市にでも行こうかな。くらいしか考えてないの俺。


「…もし目指すならイラニエ市国にあるイラニエの都ですかね。」


「どこだって?」


「内地の主要国の一つですよ。マナビヤ国とパーメルン連邦2つの国家と仲が良いんです。」


そうか。俺はそういうのを覚えるのは全く得意ではないぞ。学生時代なら世界史も日本史も赤点ギリギリの男だぞ。もう少しイラ…ナントカの都について詳しく聞こう。


「で、イライラの都ってどんなとこなんだ?」


「イラニエです。イラニエ。小さい国なので、首都も他の国に比べると米粒ほどの規模ですが、内地唯一の修道院があるんです。」


「修道院ねぇ。」


「異人様の歴史について詳しく教えてもらえると思うんです。」


なるほど。それならイラ…なんとかの都を目指すのも良いかもしれない。


「よし…。」


立ち上がり、拳を高く突き出す。


「いくぞ!イラ…なんとかの都!」


「はい!このアディ、ユーイチ様に忠誠を誓いどこまでもついて行きます!」


「なに!?」


「ユーイチ様に仕え、ユーイチ様に尽くし、ユーイチ様をお守りします!」


「待てアディ!いつからそんな事になった!」


「我ら一族、先祖代々異人様に忠義を尽くし、心臓を捧げよという家訓があります!」


「60、70年前からか!」


「いえ!800年前からです!」


………。


なーっがいね。


「そうか!」


「はい!」


顔の四角い仲間ができたのであった。


アディが荷造りを終え、町人たちに別れの挨拶をしに行っているころ、俺は昨日案内してもらった坂の上に来ていた。


町を一望して、目を細めてみる。


「フッ、もうここから旅立たなければならないんだな…。」


なんか今の俺カッコイイんじゃないかと思う。

ここに女性が来て、俺にキュンと片思いしてくれれば最高である。

実際に来たのは家畜のニワトリであるが。


「ここ、こけっ。」


「なんだ。俺に一目惚れか。」


「こけっ!」


力いっぱい突付かれた。多分怒っている。


「今日は鶏肉料理の気分だ。」


「こけっ!?」


「何してるんですか。」


聞き覚えのある声に振り向くと、アディが呆れ顔で立っていた。もう挨拶は済んだらしい。餞別に渡されたのであろうか、小包を持っている。


「いや、フライドチキンが食べたいなと。」


「なんですかそれ。」


「こけ、こっここ…。」


「あれ、鳥丸こんなとこにいたの。」


アディがニワトリを抱き上げた。


「こけ〜。」


「え?」


「こけっこ。」


「だめだよ鳥丸。僕はユーイチ様とイラニエの都に行くんだ。君の世話はモッズさんに頼んだよ。」


「こけ…。」


なにやら家畜と会話している。


「えーと、アディ?」


「なんですか?」


「そのニワトリとずいぶん仲良しなようだが、あとで食いづらくならないか?」


「え?」


途端に眉を下げて悲しそうな表情をするアディ。


「たっ、食べませんよ!鳥丸は僕の友達なんです!」


「家畜じゃないのか。」


「家畜じゃないです!野生です!」


「や、野生なのか。それならいつか誰かに捕まって食われちまうんじゃ…。」


「鳥丸は強いです。捕まえようとすれば大怪我します。」


えらい真面目な顔だった。


「で、そんな危険なニワトリを近所の人に預けていいのか。」


「…うーん。たぶん。」


おいおい適当だな。俺はニワトリを一瞥した。仲間になりたそうな目で見られている気がする。


「おい、ニワトリ。」


「こけ。」


「一緒に来るか?」


「えっ、ユーイチ様!?」


「こけこ!」


「俺はいいぞ。非常食にもなるし。」


「こけ!?」


ドリルのようなクチバシで突付かれた。


「ぎゃっ、じょ、冗談冗談…。」


「本当に良いんですか?」


「おう。構わん。」


「あ、ありがとうございます!」


ニワトリが仲間になった。


「鳥丸、ほらユーイチ様にお礼。」


「コケコッコー。」


あいにく鳥語はわからん。


俺達は町を出て街道を北へ向かって歩くことにした。


「アディ。」


「なんです?」


「そのイラなんとかの都ってのはどれくらい遠いんだ?」


「それなりですかねぇ。」


「いやいや、何時間でつくとかさ。」


「1ヶ月で着けると嬉しいですね。」


「は?い、1ヶ月!?」


驚きすぎてのけぞった。たまげた。長い旅になりそうだ…。こういう時に車があればと思う。


「エルグモの町がイラニエ市国の端っこに位置してますから、仕方ないですよ。」


「エルグモの町って。」


「あ、僕が住んでるとこですよ。」


「なるほい。」


俺が一泊したあの町の名前だったようだ。覚える気はほぼ無い。すぐ忘れてしまうからな。


休憩もはさみつつ体感にして20キロほど進んだところで、野営の準備を始めることにした。ニワトリは土をつついてミミズを掘り当てている。のんきなもんだ。

枯れ木を集め終わると、アディがそこへ手をかざした。


まだ火のついていない枯れ木に、手を。


まさか…。俺はわくわくした。


「じゃ、火つけますよ。」


アディの手から飛び出す炎。

一直線に枯れ木にヒットした!!!


「………。」


ただ…炎がめちゃめちゃに細い。しょぼい。

ひょろひょろ〜っと出てきて枯れ木を炙って、少しずつ大きな炎になっていく。

少しがっかりした。火は確保できた。


「さて、ご飯にしましょう。」


俺の心象などいざ知らず、アディはいそいそと小包の中身を取り出した。

肉だ。ブロック状に切り落とされた贅沢な感じの肉だった。俺は元気を取り戻した。


「べニラさん夫婦が持たせてくれたんですよ。痛まないうちに消費してしまいましょう。」


賛成だ。


肉を焼きながら、オレンジに照らされるアディの四角い顔を見た。

するとアディも俺を見た。


「ユーイチ様。」


「ん?」


「なにか物語を聞かせてくれませんか。」


「物語?」


「昔話でもいいんです。童話とか…昔の異人様は珍しい話をこの世界にたくさん持ち込みました。ユーイチ様も知ってるんじゃないですか?胸踊るような物語…。」


キラキラとした目だ。少年のピュアな目だ。

俺とは違うな。その真っ直ぐな視線はわりと痛い。

でも期待されたら答えにゃいかんと思う。


「じゃあ、むかーしむかし。」


「あ、桃太郎なら知ってますよ。」


「なに?」


「有名ですからねぇ。」


いきなり出鼻をくじかれた。

桃太郎か…確かに俺の世界でもメジャーだ。

前に来た異人ってやつも安直な考えで桃太郎を選んだに違いない。うーんブーメラン。


それならば、と思う。


ないなら作ってしまえ。

俺は俺自身の人生を、誇張に誇張を重ねて素晴らしい冒険譚にしてアディに語り始めた。


焼き上がった肉を食いながら、夜更けまで語り明かした…。


ニワトリはまだその辺でミミズをつついてた。

たくましい奴だ。


「そして、今に至る。」


「なんて素晴らしいんでしょうかっ…!」


聞き終わるやいなやアディは顔を真っ赤にして拍手をした。どうやら俺を尊敬の眼差しで見ているようだ。ふ、思惑通り。


「いやいやそんな。」


「やはりユーイチ様は誇り高く気品に満ちていて…ああ改めてこのアディ、ユーイチ様にお仕えすることができて光栄の極みでございます…!」


「褒めすぎ褒めすぎ。」


内心まんざらでもなかった。


それからもアディから尊敬ビームを食らい続けたが、いつまでも天狗になっているわけにもいかないので、早々に寝ることにした。


魔物が出ると危ないということで見張りを交代しながら夜を明かすことになった。


しかし朝になっても魔物は出なかった。

魔物ってどんなのだろう。


ゲームとかみたいな、すっごいのいるかな。

俺たちは歩き始める準備を始めた。

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