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第2話 わりと適当に生きること

ウサギのような動物をなでようとして噛みつかれ、ネコをなでようとしたら引っかかれ、泣きそうになりながらやっと町についた。

住んでる人々は麻のような質感の服を着て家畜の世話や、農作物の世話に励んでいた。

のどかな風景だ。異世界的で、少し胸が踊る。


俺は町人に声をかけようとして、すんでのところで踏みとどまった。

この人たちに、俺の言葉は通じるのか…?

もちろんのこと、俺は日本語で話している。英語はあまり得意ではない。そもそもこの人々をナニ人とするべきなのかも俺には分からない。

顔立ちを見るからに日本人らしくはない。


そんな俺を不審に思ったのか、町人の方から俺に声をかけてきた。


「旅の人、どうされました。そんな所で」


なんとその言葉が俺には理解できた。よかった。俺は心底安心した。

見れば浅黒い肌の四角い顔をしたデカイ兄ちゃんだ。いかにも人の良さそうな笑顔の下には「お前何しとるん。怪しいやろ。」という心が見え隠れ。

敵意はなさそうだと感じて、俺もフレンドリーに答える。


「いや、声をかけようと思ったらタイミングを逃してしまって。情けない。ははは。」


何言ってんだろ俺。もっとなんか上手いこと言えんのか。ばかたれ。

俺のいかにも平和ボケした様子に毒気を抜かれたのか、デカイ兄ちゃんも釣られて笑う。

笑ってもらえたし緊張も解けたから結果オーライ。


笑いは世界共通の仲良しへの近道。俺の持論だ。


デカイ兄ちゃんが笑ってしまってすまないと律儀に謝ってきたので、いやいや良いんですよ〜なんてニコニコしながら胸元で両手を振る。これアレね。電話口でもやっちゃうやつね。


「それで、旅の方この町は初めてですか?」


「ああ、そうなんですよ。」


「案内しましょうか。」


「助かります!ぜひお願いしたいですね。」


見た目の通り親切な兄ちゃんでよかった。俺は顔の四角い兄ちゃんを、心の中で親しみを込めパルタと名づけた。よろしくパルタ。


「僕、アディっていいます。旅の方は?」


さよならパルタ。こんにちはアディ。


「俺は高山優一。優一が名前ね。」


「へぇ、良い名前をお持ちですね。ユーイチ…どことなく優しそうな雰囲気をかもしています。」


なかなか鋭いねアディ。そうさ。一番優しいと書いて優一さ。

気に入ってるぜハッハァ。

…とは言わず、俺は爽やかな頷きでありがとうを表現してみた。クールな俺。


「案内といっても小さな町ですからね。ここから町の全体が見えます。」


ほんの少し坂を登ると、そこから町を展望できた。“展望できた”なんて言うほど立派な町ではないから、感想としては「やったー、めっちゃ見える。」ってな具合だが。


「青い屋根は防具屋、赤い屋根は武器屋、黄色は道具屋です。あとは宿屋がなく民家のみなのですが…。」


じゃあ、泊まるところないのか。なんて思ったのもつかの間、俺はこの世界どころか現実世界の硬貨すらびた一文も持っちゃいなかった。

宿屋なんてあってもなくても変わんねぇや。俺はいかにも残念そうに肩をすくめて残念です…と言っておいた。


「で、その代わりにと言ってはなんですが、ここの町では旅人を民家に泊める決まりになっているんですよ。」


「へぇ、そうなんですか!でも、手持ちがないのでどちらにしろ野宿ですね。」


苦笑してみせると、思いのほか気安い感じでアディが俺の肩をポンポンと叩いた。


「代金は取りませんから、僕の家に来ませんか。歓迎しますよ。」


「そんな。見ず知らずの人間ですよ?」


「いいんですよ。僕一人暮らしなんです。いい加減家畜と取る食事も飽き飽きですよ。」


アディが白い歯を見せて笑った。

今の俺には願ったり叶ったりな申し出だが、ここで俺は躊躇した。見ず知らずの人間というのは俺の立場からも言える。

そうは見えなくても、アディに何か下心があるのではないか。詐欺や殺人、犯罪の香りがする単語が頭をかすめる。


「おっと…警戒しないでください。何もとって食おうという訳じゃありませんから。」


苦笑している。ふむ。あくどい感じはしない。

なんとなくアディの態度からは誠意が感じられた。

だから信じるという単純な話ではないが、人を見る目はそれなりにあるつもりだ。

個人の持つ考え方から人柄、言葉遣いから気品、所作から育ち、色々なことが分かる。

それぞれを毎度意識してるわけではないが、悪巧みしてる人間のオーラくらいは俺にも分かる。


俺は、よしっと気分を切り替え、アディを信じることにした。裏切られたらこう、ぴゅーっと逃げちゃおう。そんくらい割り切っとけばダメージも少ない。


俺が頷きつつ泊まらせてくれと頼むとアディは嬉しそうに了承して、自宅まで案内してくれた。

なんにせよ異世界にて初めての夜。飯と宿が見つかるなんてすごく幸運なことだろう。


ソシャゲでは発揮されない俺の幸運。日頃から土壇場には強いと自負していたが、やはり俺は恵まれている。そう信じたい。

楽観的なのは俺の取り柄だ。ポジティブシンキングばんざい。


こんな意味分からんとこで、こんなくだらんこと考えてるなんて、やっぱ俺ってサイコパス?とか考えたが、実家のことを思い出して俺正常だわ。と意味もなく我に返った。俺の世界に残してきた家族のことをそれほど心配してるわけじゃないが、向こうで騒ぎになってんのかどうかくらいは気になる。


今俺は行方不明になってたりすんのかな。


そしたら心配されるのは俺の方だろうな。

俺って昔から無駄に両親の寿命を縮める、悪い息子だよな。


でもな、好奇心には勝てねぇんだ。


ホームシックになってきたら、帰る方法をちゃんと探そう。


家族の中でこの気持ちを共有できるのは、きっと冒険野郎マク爺ちゃんだけだ。

もちろんコレがリアルなただの夢なら考えるだけ無駄なんだけど。


俺は金魚のフンよろしくアディに連れられながら、そんな事を思っていた。

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