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第三話『異世界来たー! ……のは良いが』

 本日二本目。

 《魔王》。

 人大陸、あるいは魔大陸出身の者で、その名前を知らないのであれば、その者はせいぜい赤子か相当な田舎に住んでいた者に限られるであろう。

  

 彼の伝説の量は計り知れない。驚異的な戦闘能力を誇り、わずか二年足らずで、有史以来初となる、人大陸と魔大陸の両方を支配する超巨大国家を成立させることに成功した人物。彼の建国した超国家は、現在の人魔両大陸の礎にもなっているほどだ。


 彼がこの世界の出身ではないことは、多くの者が知っている事だと推測する。筆者は家系の都合上、そう言った『転移者(トリッパー)』の存在に詳しいが、そうで無くても有名な出来事だ。


 神歴4890年の春。当時魔大陸を本拠地に構える《魔族》…現在では差別用語であるので決して使わないように…と交戦中であった、当時の人大陸を支配していた巨大国家、《人帝国》は、劣勢を解消するために、異世界から強大な力を持つ勇者の一団を召喚した。

 総勢三十九名とも三十八名とも言われるその規模自体は、長きこの世界の歴史を見ればさほど珍しいモノでもない。


 だがこの召喚は、後の世で『大英雄降臨の儀』として非常に有名な出来事として語られる。なぜならばこの召喚によって、後の世に大きくその名を知れ渡らせることになる多数の人間がこの世界に召喚され、そして彼らと共に歩むことになる人物たちが出会うのだ。


 もちろん後の《魔王》もその一人であり――――


                    ~アモン・アンブロジウス著:『列王記・魔王編』より抜粋~



 ***



「す、すっげぇ……本当に異世界に来ちまったのか……!」


 興奮が隠せない、というような調子で、荒々しい声が響く。声を発したのはもはやお馴染みとなった来谷将也だった。

 だった、のだが……俺は、彼の容姿が変わっている事に気が付いた。

 髪の毛の色が、赤い。確かに来谷は髪を脱色し、なおかつ染めていたらしいが、しかし先ほどまでの薄汚い金髪ではない。燃えるような赤色だ。


「これは……凄いな……」


 目を見開いて呟く白銀善人の髪も、艶やかな漆黒から、目を見張るような金髪へと変わっていた。それだけではない。彼に関しては、更に目の色まで水色に変わっていた。


 見渡してみれば、クラスメイトの大半にそれら容姿変更は引き起こされていた。二次元でしか見たことがないような色の髪や目を見て、お互いに騒ぎ合っている生徒たちもいる。


 ――俺のぼさぼさに伸ばした髪の色も変わっているのだろうか。


 そう思って前髪をつまんでみる。あまり変わりはないが、確かに少し紫色になっている気がする。


「そうだ、カナメ……!」


 そこではっ、と、俺は気が付き、親友の姿を探した。恐らく彼も髪の毛の色が変わっているだろうが、あの特徴的な容姿だ。直に見分けがつくに違いない――――


 ……と思っていた時期が俺にもありました。


「……あれ……?」


 しかし広場のどこを見ても、カナメの姿は見たらない。あの中性的な容姿を持った俺の友人は、こつ然と姿を消していた。


「カナメ……?」

 

 俺が不思議そうに首をかしげていると、不意に、部屋の角から声が響いた。魔術師たちの一団、その一人が放った叫びだった。何やら拡声の魔法(?)でも使っているのか、生徒たちのざわつく声の中でも非常に良く響く。


「勇者の皆様方! 大変失礼いたしますが、これより我らが《人帝国》をお治めに相成られていらっしゃる、皇帝陛下とそのご家族が入場なされます! どうか、どうか御失礼の無きよう、宜しくお願いします!」


 魔術師の声は必死を通り越して、むしろ悲痛そうでもあった。もしや、これからやってくる皇帝とやらは相当な暴君なのか――――


 そんな事を俺が考えていると、ゴォン、という荘厳な音と共に、部屋と外とをつなぐ巨大な扉が、両側に開き始めた。そしてその中から、ゆったりと、豪奢な一団が姿を現す。


 先払いの者もなく先頭に立っているのは、黄金の王冠を被った、金髪の精悍な男。年のころは三十代後半か。思ったよりも若い。切れ長の目。瞳の色は青。厳しい表情を浮かべて、こちらに近づいてくる。

 その後ろに追従する、茶髪の女性。長い髪を複雑な形に編んで、ティアラを被っている。やはり三十代か。非常に美しく、男子生徒の何人かが息を呑んだ。しずしずと王冠の男の後ろに付き従っている。

 さらにその後ろに、二人の少女。姉妹なのだろうか、顔がよく似ている。姉と思しき方は柔和な、妹と推定される方は厳しめな表情をこちらに向けている。


 一番後ろの少女が完全に室内に入ると、先頭の男は、まるで後ろに目が付いているかのようにぴたり、と立ち止まった。


「ようこそ、勇者諸君。我らの召喚に応じてくれたこと、誠に感謝する」


 彼が開いたその口から、重々しい声が漏れ出でる。生徒たちが緊張するのが分かる。俺だってヤバイ。あの来谷ですら、息をのんで固まっていた。

 それほどまでに、彼の放出する重圧は凄まじかった。


「我は人帝国が第六十五代皇帝、ヴォルフガング・ヴァン・テオドール・グレイス・エノクである。この度、貴殿らの召喚をこの召喚魔導士団に命じ、神へとその願いを届けさせた者……つまりは、貴殿らの招来を依頼した者だ」

 

 やはり、彼が皇帝。

 そして彼こそが、アマミヤに勇者召喚を願った人物だというのか。


「そしてこれが妻のマチルダ」

「お会いできてうれしいですわ、勇者の皆様方。どうか、よろしくお願いしますね」

 

 微笑ながら、茶髪の女性が深々と礼をする。


「背の高い方が第一皇女のシェヘラザ、背の低い方が第二皇女のエリーゼだ」

「初めまして、勇者の皆様」

 

 シェヘラザ、と紹介された姉の方が、にこり、とほほ笑んでから、優雅にお辞儀をした。それだけで男子

生徒の大半がふらり、と傾く。


「ちょっとパパ! その紹介の仕方は……ああ、もうっ!」


 逆にエリーゼの方は、ニコリともせずに素早くお辞儀をしただけだった。何というか、微笑ましい。


「ご紹介に預かり光栄です、皇帝陛下」


 生徒を代表して、金髪碧眼となったことで余計に勇者度が増した白銀が礼をする。なかなか堂に入った騎士礼だ。というかアイツあんなのどこで習ったんだろうな。


 ともかく、その姿に皇帝は満足したようで、「うむ」と呟くと一つ頷いた。皇帝はそのまま、次なる言葉を俺達にかける。


「貴殿らを使わしてくださった神より、使命を授かっている。貴殿らに【ステータスウィンドウ】の使用方法を説明せよ、とのことであった」


 生徒たちがざわついた。俺にも緊張が走る。


 そう……ついに、お楽しみの『チート能力公開タイム』が始まるのだ!


 大概、こういう所で何の能力ももって居ない輩が出てきたら、そいつが主人公だ。自分がそうだ、と自惚れるつもりはないし、逆に強力な能力を授かればそれはそれで万々歳。

 とにかく、色々な意味でこれから始まるステータスウィンドウ初開示は、お楽しみのイベント、というワケなのである。


「ステータスウィンドウは本来、マザーギルドの支部などの特殊な場所でしか見ることは出来ない。しかし貴殿らは、独自に見ることが出来るそうだ……『ステータスオープン』と念じるだけでいいと聞いた」


 早速、脳裏で『ステータスオープン』、と唱えてみる。するとなんということだろうか。半透明のプレートが、俺の視界に表示されたではないか!

 その情報を端的にまとめるとこうなる。



 ▽ ▽ ▽


 名前:アシズ・カミノリ

 Lv:1

 種族:人間種(ヒューマノイド)/人間(ヒューマン)

 クラス:なし

 性別:男

 年齢:17

 HP:3000/3000

 MP:10/10

 筋力:20

 耐久:10

 敏捷:30

 精神:30

 特殊耐久:10

 固有能力(アビリティ):【ディヴァイン・スレイヴ】:対象をテイミングする。テイミングされた者は種族に応じてクラスが変わる。

 スキル:なし

 称号:なし

 その他:【言語理解(聴)】【言語理解(読)】


 △ △ △



 ……ってクッソ弱えぇ!?


 ステータスはHP以外全て30以下。

 固有能力もせいぜい強力なテイミング能力と言った所だが、それだけ、と言えばそれだけだ。おまけにスキルも称号も何一つない。言語理解があるのは助かるが……

 というか何だ『ディヴァイン・スレイヴ』って。『聖なる奴隷』……?


 いや待て、これはこれでなかなか強くて、平均ラインなのかもしれないし……。 

 そう思いつつ、取りあえず近くの奴の正面に表示されているステータスウィンドウを覗き見する。

 そこに表示されていた情報曰く、



 ▽▽▽


 HP:14000/14000

 MP:1000/1000

 筋力:800

 耐久:600

 敏捷:700

 精神:1200

 特殊耐久:600

 固有能力:【マジックキャノン】:砲撃系魔法を放つ際、その威力が五倍に跳ね上がる。また、再詠唱時間(リキャストタイム)の長さが二分の一になる。複数の砲撃系魔法の同時詠唱が最大二十まで可能。

 スキル:【魔力回復速度増加Lv5】【魔法詠唱時間短縮Lv5】……


 △△△



 アカァァァァンッ!!


 間違いない。俺のステータスは最底辺レベルだ。固有能力がないとか、全ステータスが1とかそう言う最悪の事態は避けられたものの、かなりマズイ数値であることは確かだと推測された。


「おい、見ろよ、善人のステータス、マジすげぇぞ!」

「何だよ筋力50000って! 俺1000しかねぇよ!?」

「しかも何だこの固有能力(アビリティ)聖剣の勇者(シャイニングブレイヴ)】って。チート過ぎんだろ……」

 

 白銀のあたりではかなりの人だかりが出来て、当の本人がもみくちゃにされていた。既に誰かが言った事ではあるが、何だ筋力50000って。一体俺の何倍になれば気が済むんだ。


「ほう、さすがは伝説の勇者達か。この我ですら筋力は333……それをやすやすと上回って来るとは……」

 

 というか皇帝より低いのかよ俺のステータス。一般人を超えてるんじゃなかったのかよ。つーか皇帝の筋力値333ってなんだその神の数字。


「そ、そんな……パパのステータスは人帝国で最強だったのに……」


 このラインが最強なんですか第二皇女様!? 

 小柄な体を驚愕と怒り(と思われる)でぷるぷると振るわせて、エリーゼは悔しそうに声を漏らす。


「この世界の平均は100……凄まじい力ですね」


 王妃様の言葉がさらなる追い打ちを俺にかける。くっそ、平均ラインの5分の1だとは……。何ということだ……。


 ともかく、俺のステータスが大分ヤバいほど低い、ということは既に明らかだ。これはかなり危険なことだ。もし来谷あたりに目を付けられたりでもしたら……


「オィカミノリぃ。お前のステータスどうなんだよ」

「見せろよ!」


 はい詰んだー。

 カラフルに髪の色の変色した、来谷率いる不良集団に囲まれ、ウィンドウを奪われる。そしてそこに表示されているデータを読んで行くうちに、来谷の顔が愉悦とそのほかもろもろでどんどん崩れていく。

 そして終いには――


「ぎゃっはははははッ! よ、弱えぇ! 弱すぎるぞコイツ! HP以外全部40にも届いてねぇ!」

「マジかよ! よえー!」

「しかもHPも3000しかねぇぜ!」

「キモオタには相応しい雑魚ステータスだな!」

「見ろよ、スキルも称号もないぜ! 俺にだってあるのに!」


 一団ともども爆笑し始めた。


「こんな弱えぇ奴、居る必要ねぇよな」

「ガッ!?」

 

 ゴッ! と音を立てて、来谷のつま先が俺の腹に打ち込まれた。凄まじい痛みが駆け抜ける。地球でも何回かコイツに蹴られたことはあるが、その何十倍も痛い。どうなってやがる。


「ぎゃははっ! すげぇな、筋力が30000もありゃぁ、かるーく蹴っただけでこれだぜ」

「マジかよ。おい、本気で蹴ったらどうなるんだろうな」

「よぅし、やってみようぜ」


 不良たちが倒れた俺を取り囲み、蹴りの姿勢をとり始める。彼らの脚に力が集約していくのが分かる。マズイ、多分あれが全部ヒットしたら、俺、死ぬかもしれない。

 十分に力をため込んだのか、来谷がその足を俺へと叩き付け――――


「おい、やめないか!」


 その直前、割り込んできた白銀に弾き飛ばされた。


「ぐっ!?」

 

 体制を崩す来谷。白銀はその手に、光で構成された半透明の剣を握っていた。


「白銀、テメェ……」

「この剣は【光剣作製Lv5】っていうスキルで作ったものだけど……多分、本当に切れるよ」


 白銀の表情は硬かった。彼はこの世界に俺達がいく事を決めた時、アマミヤに何度も俺達の安全が保障されているのか聞いていたほどだ。かなりその辺には気を使っているのだろう。仲間たちが、同じクラスメイトを暴行するという状況が許せないかったのか。


「白銀だけじゃない。俺もいる」

「私だって」


 両手に眩いオーラを纏わせた東堂や、深紅の弓に光の矢を装填した林道も、白銀に並ぶ。


「……チッ」


 その光景を見た来谷は舌打ちを一つすると、部屋の隅に引っ込んだ。腰ぎんちゃくたちもそれに続く。

 ふぅ、と息を吐き、剣を消滅させる白銀。


「大丈夫かい、上式君」

「あ、ああ……」


 とは言ったものの、ダメージはかなりきつかった。白銀の差し出した手を掴み、何とか立ち上がることができたほどだ。そんな無様な姿をさらした俺に、東堂が厳しい言葉をかける。


「気を付けろ。ステータスが低いならなおさらだ」

「ちょっと陣矢……」

「俺は事実を言ったまでだぞ」


 林道は東堂に反論したが、しかし東堂の言い分が正しいのは俺にも分かっていた。

 

 正直な話、かなり厳しい。

 周囲の反応を見るに、俺よりもステータスの低い奴は存在し無いように見える。つまり、俺が最弱。

 俺の固有能力がどれほどの力を持っているのかは分からないが、何か嫌な予感しかしない。


「調和はそれなりに保たれているようだな……」


 皇帝がそんなことを呟く。そんなわけねー、と反論したくなるが、そうもいかない。


「よし、勇者諸君を案内しろ。晩餐会だ」

 本作を読んで下さってありがとうございます。

 次回更新は明日の予定です。

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