契約してください!
チョット書いてみたくなった。
「イルーナ王国第三王子シューベルト・A・J・イルーナ。」
私はスッと目線を上げ困惑した表情の青年と目を合わせた。
ガシッと手を掴んで一気に叫んだ。
「私と契約してください!」
「…………………は?」
「ずっと、ずっとこの日を楽しみにしていました!契約してください!いや、契約しましょう!」
惚けた顔をしたシューベルトにさらに詰め寄った。
「…………………いやいや!いや!!ちょっと待ていろいろ突っ込みたいけどさ、今じゃなくてもいいんじゃない!?」
シューベルトは私の後ろを突きつけるように指差した。
グルルルルルルル。
振り返ると私の後ろにはずっと無視されてイラついている様子の
ドラゴンが唸っていた。
「…………………ああ、そういえばいたね。」
「いやいやそういえば、じゃないよ!これを忘れるなんて相当だぞ!?」
思わずシューベルトはツッコミを入れる。
グルルルオォォォ!!
しびれを切らしたドラゴンは牙をむき出し突進して来た。
「………うるさいなぁ。」
今いい所だってわからないのかな。
トンっと地面を蹴ってドラゴンの顎を蹴り上げ、さらされた喉に容赦ない一撃を加えた。
グウウッ!
風を操り私はさらに高く舞い上がると、これまた風で加速をつけドラゴンの頭にかかと落としを食らわせた。
ドンッ!!
グギャ!?
「…………………は?」
それを間近で見ていたシューベルトはもう一度疑問の声を上げてしまった。
☆☆☆☆☆
「ね〜えーお願いー。契約してよ〜。」
「うるさい。」
「いーじゃん〜。」
「だまれ。」
「………ケチ。」
「誰がケチだ。契約して欲しいなら本当の姿を見せろ。」
「え、ムリ。」
「即答かよ。」
シューベルトに出会ってからこうしてずっとつきまとってる。
「いいでしょ?私強いよ?そこら辺のドラゴンなら瞬殺だよ?」
「それは十分に分かっている。だけどそんな強さを持っているならなぜ俺なんだ。俺より強いやつはたくさんいるだろう。」
「え?私がシューちゃんがいいからだよ。」
「なんだ『シューちゃん』って」
「シューベルトは長いからシューちゃん。」
「ミリア、せめてちゃん付けやめろ。」
「………ねえ、シューちゃん。本当に覚えてないの?」
あまりの無反応さに立ち止まりそう尋ねた。
は?
とシューベルトが振り返る。
「本当に私のこと覚えてないの?」
「………なんの話だ?」
「………。」
こんなにヒントを出したのに思い出してくれない。
ミリアという私の名前にも、
シューちゃんという呼び名にも、
シューベルトは反応を示してくれなかった。
「覚えてたのは私だけだったの?シューちゃんは私のことどうも思ってなかったの?」
なんかもう、私だけ会いたくて、第三王子という位に肩をならべられるよう頑張って強くなって。いろんな国を旅して探して、やっと見つけたと思ったら相手は私を覚えて無くて。
バカみたい。私ったら何してたんだろう。
自分が覚えてても相手が覚えてなきゃ意味ないじゃん。
胸を埋め尽くす虚しさで涙がこぼれそうになりシューベルトに背を向けて走り出した。
「ミリア!?」
後ろから呼ぶ声がしたが無視する。
今は顔を見せられない。
☆☆☆☆☆
「クソッ。どこだ。」
シューベルトは自分の部屋を隅から隅までひっくり返して探した。
自分の子供の頃の日記帳を。
「ッッ!あった!!」
棚の奥から擦れてきたなくなった一冊の本を引っ張り出した。
急いで広げパラパラと確認する。
ミリア。シューちゃん。
なんとなく聞き覚えのある単語だった。
「あった!!」
シューベルトは見つけた箇所を読んだ。
☆☆☆☆☆
「ふえっ、にいさーんどこだよぉ。」
そうだ、あの時は旅行先の森で迷子になったのだ。
ガサガサと森の中を進んでいると、
バキィッバキバキバキッ
ドサッ
行きなり頭上の枝がなり何かが落ちてきたのだ。
「「………。」」
黙ってお互いの目を見つめた。
それは子供のドラゴンだった。
漆黒の毛を持ちユニコーンのようなねじれたまっすぐなツノを額に生やし口の先っちょにはくちばし。足には鋭い爪がついている。
「悪魔の…ドラゴン?」
首を傾げるとドラゴンも首を傾げた。
『人間?』
それから何かと仲良くなって旅行の間はずっと遊んでたんだっけ。
「僕の名前はシューベルト。」
『シュー…………ちゃん?』
「ちがう。シューベルト!ほらいってみ?」
『シューちゃん!」
「ちがうってば!シューベルト!!なんでシューちゃんなんて呼ぶの!?」
その日はムッとして帰った。
後日、
「名前、無いの?」
気がついたらいつの間にか仲直りしてて、いつも通り会っていた。
『無いの。』
「うーん。じゃあ名前付けてあげる!」
『本当!?』
それからいろいろな名前を考えて。
「じゃあミリア!これでいい?」
『ミリア、ミリア!』
あの時は本当に嬉しそうだった。
だけどその日の夕方。
「ここか、悪魔のドラゴンがいるのは。」
いつの間にかばれていたのかその日のミリアは兄たちに追跡されていた。
そのことに気がついてシューベルトは走った。
ミリアの巣にたどり着くと兄がミリアの首を掴んでいた。
「やめて!兄さんやめて!ミリアを離して!」
兄に必死ですがりついた。
「そうだ!ミリアを僕の契約獣にするから!だからお願い!離して!!」
「王家の人間が悪魔のドラゴンを契約獣に?悪いがシューベルト。それは無理な話だ。悪魔のドラゴンは見つけたら駆除しなければならない。」
「そんな!」
兄はブンと腕を振って小さな子供のドラゴンを川に投げ捨てた。
シューベルトはそれを追いかけようとしたが兄に羽交い締めにされた。
それからミリアがどうなったかは知らない。
ただ、それから自分のせいでミリアを死なせてしまったとずっと思い込んで罪悪感に苛まれていた。
だがまさか生きていたとは。
おそらくミリアはシューベルトと兄のやりとりを聞いていたのだろう。
だからシューベルトと契約するために生き延びて、強くなり、見つけてくれた。
「なんで忘れてたんだ。」
今ならなぜ本当の姿を見せなかったのかわかる。見せられなかったからだ。
☆☆☆☆☆
「ミリア。」
木の上でうずくまっているミリアに呼びかけた。
「ミリア。」
ミリアがゆっくり顔を上げた。
「イルーナ王国第三王子シューベルト・A・J・イルーナは悪魔のドラゴン、ミリアとの契約を結びます。」
微笑んで、目を見開くミリアに手を差し出した。
今度こそ一緒にいよう。
この後きっとシューベルトは王家と一悶着あるだろうな。ミリアと国外逃亡しちゃうかな。ミリアだったら追ってをバッタンバッタンなぎ倒しそう。