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俺と君と人狼と  作者: 明日早工
9/9

偽りの占い Ⅰ

 シャワーを浴び終わると、俺は部屋に置かれた椅子の上にドカッと腰を掛けた。

 ――なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。

 先ほどよりも少し落ち着いたので、虚空を見つめたまま、今日あった出来事を振り返ってみることにした。


 長い一日だった。

 新しい出会いがあったとはいえ、涼子の様子や美波との再会、そしてここのホテルのオーナーへの脅迫。

 考えれば考えるほど、俺はどうすればよいのかわからなかった。

 考えるのも嫌になり、俺は深いため息をついた。

 白いタオルを手に取って髪の毛を乾かしていると、突如、部屋のドアがノックされた。

 ――涼子は鍵を持っていったはずだから・・・・・・もしかして、美波か。

 俺は椅子から立ち上がると、これ以上やっかいごとが増えないことを祈りながら、部屋のドアを開けた。


「夜遅くにすみません。白石さんに相談があってきました」


 訪問者は雑誌記者の本田さんだった。

 意外な訪問者に驚きつつも、涼子の許可などお構いなしに部屋の中へ招きいれた。

 招いたあとで、俺は松岡の言葉を思い出した。

 冷静に考えると、こんな夜遅くに彼女と一緒にホテルに泊まっている男性の部屋を訪問してきたこの女性に対して、俺は違和感しか感じなかった。


「えーっと、俺なんかに一体どんな相談をしたいんですか?」


 先ほどまで俺が座っていた椅子へ彼女を座らせると、俺はベッドに腰掛けて質問を投げかけた。

 女性を部屋に招いた妙な高揚感から心臓の鼓動が徐々に速くなっていく。一方で、彼女もまたオーナーを脅迫している容疑者の一人であるため、いつでも動けるように俺は四肢を強ばらせていた。

 女性だとはいえ、警戒しておくに越したことはない。


「単刀直入に聞きますけど、あなたは昔占い師として活動していたましたよね?」


 俺は一瞬、呆気に取られてしまう。

 旅行先のホテルでこんな話が出てくるとは、夢にも思わなかったからだ。

 

「だったら、何だっていうんです?」

「ふふっ、もう調べはついてるのよ。実は、あなたに占ってもらいたい人がいるのよ」


 彼女は俺の占い師の能力をよく知っていた。当時の俺に非常に興味を持っていたらしく、旅先で会えると思わなかったと感動していた。

 そして、自分の仕事の中に俺の占いの結果をネタとして入れたいというのだ。

 占い師の能力をネタと言われて、俺は少し気落ちしてしまった。


「それで、誰を占えばいいんですか? 沢城さんですか? あいにく俺の占いでわかるのは“人殺し”だけですよ」

「違いますよー! なんで沢城さんを占う必要があるんですか! 占ってほしいのは……オーナーの佐藤さんよ!」

「えっ・・・・・・」


 俺は予想もしなかった占い先の指定に、動揺を隠しきれなかった。

 額からいやな汗がじんわりとにじみ出てくる。

 そんな俺を尻目に、彼女は話を進めだした。


「どう! やってくれる? ちなみにこの話は秘密ってことでよろしくね」


 女はどいつもこいつも好き勝手だな・・・・・・。

 そんな感情を自分の中に押し留めて、俺は何とか“彼女がオーナーを占い先に指定した理由”が知りたかった。

 瞳を閉じて、思考を張り巡らせる。そして、俺はある考えに辿り着いた。


「・・・・・・いいでしょう。それでは、本田様。少々お待ちください」


 急にかしこまった口調でそういうと、俺はもう一度瞳を閉じた。

 そして、オーナーを占う。――いや、正確にはオーナーを占ったフリをした。

 少し時間を掛けて、何かを自分の思考からひねり出しているように苦悶の表情を浮かべる。

 まぶたの向こう側では、彼女はきっと俺がオーナーのことを占っていると信じきっているのだろう。


「・・・・・・占いが終わりました。俺の占い結果では、オーナーは過去に・・・・・・残念ながら、人を殺しています」

「やっぱり、そうなのね」


 彼女も俺と同様に真面目な顔つきになって、深いため息をつくと、テーブルの上に組んだ両手に頭を落とした。

 そんな彼女の頭部を見下げたまま、俺は自分の狙い通りに事が運んだことをほくそ笑んでいた。

 理由を突き止めた俺の完全勝利だった。

 心残りなのは、彼女が美波以外で初めて占いを信じてくれた人であったため、俺に罪悪感も生じていること。

 そして、彼女の反応から察するに・・・・・・。


「あの、占っておいてなんですが、あんなに気さくなオーナーが人殺しだったなんて・・・俺、信じられません。彼に何があったんですか」


 あんなに気さくなオーナーが過去に人を殺している。

 彼女が俺に占いを依頼した段階で、その可能性はあるだろうと思っていた。

 松岡が話さなかったオーナーの過去について知りたい。

 そのシンプルな俺の感情が、もしかしたらパンドラの匣を開けてしまったのかもしれない・・・。

 

 俺の声は先ほどまでフル回転していた思考には、似つかわしくないほど落胆したものだった。

 そして、俺は彼女が次に話す言葉を受け入れる準備しておくほかなかった。

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