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俺と君と人狼と  作者: 明日早工
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狩人との誓い Ⅱ

「どういうことですか? よく意味が分からないんですが」

 松岡は真剣だった表情を少し崩して、人差し指で鼻先をかきながらうーんと唸っていた。

 どうやら何か言いたいことがあるようだが、話すかどうかを決めかねているようだった。

 そして、一瞬の沈黙の後で彼は口を開いた。

「実はですね……先ほど、オーナーの佐藤が殺されたんです」

「えぇっ!? オーナーが…殺されたんですか…?」

 さっきまで料理を作ってくれてたオーナーが死んだ…。

 彼が何を言っているのか、即座に理解ができなかった。

 鈍器で後頭部を殴られたかのように、頭のなかが真っ白になっていく。全身から一気に汗が噴き出した。

 そんな俺の顔をまじまじと見ながら、彼は口を開いた。

「…白石さん、申し訳ありません。大変失礼なことなんですが、実は今のはあなたを試す冗談でした」

「えっ! 冗談っ!?」

 急に告げられたオーナーの死が嘘であると知り、俺はほっと胸を撫で下ろした。

 その一方で、俺の頭に一気に血が上り、この質の悪い嘘を言った人物を糾弾せずにはいられなかった。

「あ、あなたって人は、何がしたいんですか!! 冗談にも限度ってものがありますよ!」

 こんなやりとりをして、一体何になるのか。

 俺をからかうような松岡の発言の意図が掴めず、俺は苛立ちを隠せなかった。

 彼の冗談は酔っぱらいのそれにしては、やけに不謹慎でリアリティーがあったのだ。

「本当にすみませんでした。ここからは、真面目な話をします。反応を見る限り、白石さんは犯人ではなさそうですから」

「犯人…って、どういうことですか?」

「…ひとまず、移動しましょうか。人に聞かれるとまずい話なんで」

 松岡は動揺している俺を人気のないロッカールームまで誘導した。

 そして俺が落ち着いたのを見計らって、彼はさらに坦々と冷静に話をし始めた。


 松岡によると、先日、オーナーの元に一通の脅迫状が届いたそうだ。

 彼が見せてくれた脅迫状には、オーナーの過去の罪を裁くという内容が書かれていた。

 文字は差出人の怒りや憎しみを表現したように荒れていて、誰が書いたものかを特定するのは難しそうだった。

 今回、松岡がこのホテルを訪れた理由は、脅迫状に怯えたオーナーを護衛するためらしい。脅迫状の主について心当たりやオーナーの過去の罪について、彼に尋ねても口を閉ざすばかりだった。

「なぜ、俺に部屋から出るなと言ったんですか?」

「夜の間、お二人が部屋の外に出なければ、少なくとも、お二人は犯人候補から除外できますから」

 二人で来た宿泊客には、片方にだけ状況を説明して、もう一人を見張らせることで夜の行動を制限させてるのか。

 ただ、その二人が共犯の場合はどうするのだろうか。犯人は一人だという確証があるのだろうか。

 …それとも、オーナーの過去に何か関係があるのか。

 彼の話が進むにつれて、俺の脳内はさっきまでアルコールを摂取していたとは思えないほど、クリアになっていった。

 俺は一瞬、警察に連絡するなどもっと良いやり方があるのではないかと思ってしまった。きっと松岡も警察への連絡を考えたはずだ。だが、警察の介入はオーナーの過去の罪にも踏み込まざるを得ないことになる。彼の過去の罪が何かわからない以上、俺がとやかく口出しできる問題ではない。それに松岡の話し方や真剣な表情を見ていると、松岡があえて犯人をホテルにおびき出そうとしている節があった。彼とオーナーの間にどんな絆があるかは見当もつかないが、松岡の眼からは自ら犠牲になってでもオーナーを守ろうとしているような強い意志を感じた。何より無理にすべてを聞いてしまえば、俺たちの身にも危険が迫るのではないかという恐怖もあった。

 では、夜のうちに全員でホテルから逃げ出すのはどうだろうか。この案も俺の脳内で即座に破棄された。現在、外は暗闇に包まれている上、道路は大雨で濡れていることだろう。あの細く長い道をこんな時間から帰るのは愚行としか思えなかった。それに松岡も言っていたが、今回の宿泊客の中に犯人がいるかどうかはわからない。雑誌記者の本田さんもいるわけだから、度が過ぎた対応をとって、ホテルの評判を落としてしまうのも迷惑な話になってしまう。

 考えれば考えるほどネガティブな情報ばかりで、先ほどまでの淡い桃色をしていた俺の心を黒い何かが少しずつ塗りつぶそうとしていた。

 この感覚は俺が占い師の能力を有しているから感じているものかもしれない。

 ――今夜何かが起ころうとしているのではないかという予感。

 俺は松岡に色々な考えを話してみたが、最終的には結局松岡の提案に従わざるをえなかった。

 俺達は夜の間、部屋から出ない。その間に彼は犯人からオーナーを守る。なんだ、簡単な事じゃないか。

 ふと目線を移すと、近くにあった小窓は雨粒が叩きつけられガタガタと音を立てていた。

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