ひとたびの休息
Μια φορά το υπόλοιπο του
長い話をしていたら、いつの間にか夜が明け、朝日が天井から射し込んで来た。
『……夜が明けたようですね。これ以上こちらにいると、屋敷の者が貴方を探し始めますよ?』
「うん。そうなんだけどさ、肝心なとこ、知ってないから、そこだけ教えてもらったら屋敷に帰るよ」
『肝心なところ?』
ウンディーネは心当たりがなさそうだが、俺は知りたくて仕方が無い。
今回の罪にも、杖にも関係はないが…。
「龍神様の祠……竜門の祠はどこだ?」
『………は?』
「だってそうじゃん!!」
身を固くしていたウンディーネが明らかに脱力したのが感じられた。
「ここは昔から伝承によって龍神様が祀られているってなってるんだよ!?なのに龍神様じゃなくていたのはウンディーネだったじゃん!じゃああの伝承は?嘘?」
『はい、嘘です』
身振り手振りで必死に話す俺に向かって、ウンディーネは何の躊躇いもなく、きっぱりと言い切った。
あまりのきっぱりさに、こちらが拍子抜けをしてしまう。
『ここは水の巫女が代々罪と真実の伝承を受けてきた聖地……人が簡単に入れないよう、このような仕掛けを作り、偽りの伝承によって人が寄らないようにしたのです』
「……まるで水の神殿だな……」
呆れたように呟く俺に、ウンディーネは『その言葉がぴったりですね』と笑った。
『でも、どの聖地もそのようなものですよ。人が寄り付かないよう、守護する元素に合わせたつくりになっていますもの』
「あ、だからここは『水』なのか」
『はい。疑問は解けましたか?』
ウンディーネの言葉にコクリと頷き、感謝の礼を述べると、ウンディーネは出口を教えてくれた。
そこからやっとこさ外に出てから、屋敷に戻ると、案の定遥と家の者が俺を探し回っていた。
「どこいってたのよ!どんだけ心配したと思ってんの!?どっか行くなら一言言ってから行きなさいよ!」
「いや、伝承してもらいに行ったんだって……」
証拠のカップを見せるが、遥は元々神様を信じていない為、「は?何この無駄に豪華なカップ。どこで拾って来たのよ?」と、取り扱ってくれなかった。
しかも危うく捨てられるところだった。
そこは、どこからともなく現れた分家の長が、自分の娘を必死に食い止めていたが。
「お前!罰当たりだぞ!?四精霊の一人、ウンディーネ様から頂いたサブキーを捨てかけるなんて!」
「はぁ?知ったこっちゃないのよ!第一お父様には関係のないことでしょ!?」
遥の反論に、長はカチンと来たのか、遥を凄い形相で睨みつけながら、俺をチラリと見た後、娘に向かって凄い勢いで言葉を浴びせて行った。
「自分の娘が本家の現当主に指図してたら分家の当主として止めるだろうが!いい加減お前は失礼過ぎるんだ!!もう優姫様とお前との関係は主従なんだぞ!身をわきまえろ!!」
流石に堪えたのか、遥が押し黙る。
しかし、長は言い足りないのか、また口を開きかけた時だった。
『いい加減になさい!!』
突然声が降って来たと思うど、ネロが水を散らせながら現れた。
『貴方達こそ、身をわきまえなさい。今は言い争っている場合ではないはずです。第一、主の前で行うことではないでしょう』
「ね、ネロ様……」
ネロの突然の来訪に、近くにいた者は全員驚いている。
その中でも特に驚いているのは、分家の長、雄大だった。
『雄大、貴方の言葉は言い過ぎです。水無家分家として恥を知りなさい』
「も、申し訳ございません……」
ネロに叱咤され、小さくなる。
次に、ネロは遥の方を見た。
遥は小さくなったまま、びくりと方を震わせる。
『次に、遥。貴方は先ほど、水無家の人間としてあるまじき言動をしました。……自分でもわかりますね?』
「……はい」
知ったこっちゃない。
それは、神に仕える水無家としては、神を信じていないという言動になり、言ってはいけない言葉だった。
『神に仕える身として……残念です』
「ネロ、そのくらいにしたら?」
『しかし……』
見兼ねて俺が口を出すと、ネロは躊躇ったように顔を歪める。
「今回、こんな親子喧嘩が発生したのは、俺が朝に帰って来たことが悪い。そして、泉に行くべきだと言ったネロ、君も悪い」
『………主がそう言うのならば……』
ネロが口籠ったところで二人を見る。
「二人も言い過ぎた。遥はいつまで立っても俺は幼馴染として見るし、少し神への忠誠を誓え!雄大は感情に任せて怒るな。以上!」
2人とも気まずそうな顔をしていたが、放っておいて大丈夫だろう。
俺は再度ネロを見た。
「ネロ、話がある。こい」
『かしこまりました』
ネロとともに部屋を出て、本殿の最深部へと向かった。