俺の罪
Η αμαρτία της μου
「七つの……大罪」
昔、本で読んだことはある。
神が定めた、人を罪へ導く負の感情。
それが何故、神子に?
『神子はそれぞれの罪を自ら背負い、世界に散らばる、負の感情の制御を行っていたのです』
「そんなの………」
ただの独裁者じゃないか。
『……世界を管理するもの、《ビルヒリスティーズ》』
ウンディーネの呟きが、空間に響き渡る。
青い炎が淡く揺れ、水面をキラキラと輝かせる。
『彼女達の別名です』
「ビルヒ………リスティーズ」
『それぞれの巫女が背負いし罪は違う。その巫女の中で最も罪の数が多いのは_____』
『貴方ですよ。水無の巫女よ』
ウンディーネの真っ直ぐな言葉に、心の中で全てのピース、辻褄が合わさった。
脳内で、過去への扉が紐解かれて行く。
『罪の数は3つ。内容は___』
「憤怒、嫉妬、そして強欲……」
『…!?』
「思い出したよ、やっと」
驚くウンディーネをジッと見つめる。
ウンディーネの顔が恐怖で歪むのがわかった。
無理もないだろう。
自分でもわかる。
今、俺はとても冷めた目をしているのだから。
「俺が最初に犯した罪は、『嫉妬』だ」
俺が、母さんを殺したんだ。
昔から、俺は一人だった。
誰も俺にはかまってくれない。
確かに、無理を言えば使いの者が構ってはくれるだろう。
だが、それはただの『命令』でしかない。
そんなの、嫌だった。
だから嫉妬したんだ。
皆に。
皆に慕われていた母さんに、俺は嫉妬した。
自分のことは何も見てはくれないのに、何故、皆は見るの?
何故自分はいつも……一人なの?
魔が差した。
俺の心の中で、魔が蠢き始めた。
「母さんは俺の中の魔から、皆を護る為に死んだ。死んじゃえばいいと思っていた奴らを庇って死んだ!俺は!俺は!………母さんを独り占めしたかった!!……愛情を注いで欲しかったんだ……」
目の前が真っ暗になってくる。
俺の中を蠢く『何か』が、外に出たいと仕切りに騒いでいる。
壊したい。
壊したい。
こんな世界。
全部壊したい。
……俺は……ただ……。
『それが、次の罪……【強欲】』
ウンディーネの言葉とともに、泉の水が俺を縛り上げた。
首を掴み、両手を掴み、身動きが取れなくなる。
【罪の数を数えろ】
『その後、母が死んだ後、貴方は怒りを覚えた。……自分に対してもそうですし、母に庇われて生き延びた人間が、今も母に感謝を述べずただ飄々と生きていることに……それが、【憤怒】』
【お前の罪は3つだ!】
「俺が知るべきだった、罪……」
俺を縛っていた水の鎖が、重力に引きつけられるかのように、泉へ落ちて行った。
バチャリと大きな音立てて、辺りの水を盛大に散らせる。
立ってるのもやっとの状態だった。
一変にこんな膨大な数の真実を知らされ、正気でいられる方がおかしかった。
『私は言った……真実を知れば後戻りはできないと……』
「わかってる……俺は全てを背負って生きるよ」
ウンディーネの憂いを帯びた瞳を真っ直ぐ見つめ返すと、ウンディーネは安心したように笑った。
『よかった……貴方は強い……この話を聞いて、正気を失わなかったのは貴方だけよ』
「……?じゃあ、母さんも?」
『えぇ……』
ウンディーネは懐かしそうに目を細めてから、俺を見た。
『貴方の母も、ここで真実を知り、暫くは放心状態だったもの』
母さんの意外な一面。
少し、安心した。