大天使ガブリエル
『主、大変です』
俺等がその忘れ物に気が付いたのは、儀式が始まった直後だった。
ネロが機械的な声で、こっそりそう教えてくれたのだ。
『我々は重大な忘れ物をしてしまったようです』
「わ、忘れ物?」
雄大が天使召喚の輪唱を唱えている傍らで、ネロと小声で話し合う。
いつバレるかと思うとゾクリとするわ。
そんな中でも、ネロは御構い無しにヒソヒソ、しかし何処か焦ったように言った。
『我々は先に主が男性という性別であることを伝えていません。普段は水浴びの姿を天使が見て性別を判断するのですが__』
「え、何それ。ただの覗きじゃん。天使最低だなおい」
意外な天使の一面を知ってしまった。
これを知った俺が天界に消されるなんてことはならないだろうから、何も心配していないが、何処のゼウス神だよ。覗きなんてさ。
『そこは問題ないのです。問題はその先、今回主は湯帷子を着用して水浴びを行いました。それがいけなかったのです!』
「……は?なんで?」
ネロが身体をちゃぷちゃぷいわせながら近寄ってくる。
てか隠れろよ。バレたら儀式やり直しなんだからな。
『私めが見る限り、主は天使、ガブリエルのストライクゾーンを見事に射っておられます』
「………は?」
何を言い出すんだこの化身は。
俺がガブリエルのストライクゾーンに入ってる?俺が?
んな馬鹿な____。
『確証、根拠もございます。以前、雄飛様や沙百合様は現に口説かれました』
「…………」
待ってネロさん。つまりこの儀式は最悪……。
____カッッ。
《あれ?前に儀式やったばっかなのに、また就任しちゃったの?》
俺の心配とは裏腹に、天使召喚は上手くいったようだった。
「お初にお目にかかります。名は優姫。先日、水無の巫女となりました」
《……ふぅーん……》
痛いよ。ガブリエルの視線がなんかすごく痛いよ。なんでガブリエルめっちゃ俺のこと見てるわけ?
ついでに、ガブリエルの外見を教えておこう。
一言で言えば白髪のイケメンだ。
天使に性別はないらしいのだが、明らかにガブリエルの外見は男性よりだった。
銀髪とも言える癖っ毛のない髪を腰まで伸ばし、赤い瞳と白い肌はアルビノのようだった。
服は真っ白で清純そうなロングスーツを着ており、中々似合っている。
なお、背中から生える美しい翼だけが、やはりこの男は人外なのだな、と考えてしまうのだった。
四大天使の一人にして、水を司る大天使。
____ガブリエルだった。