回避、させたかった。
サキエルは、彼らしからぬ姿で全速力で王宮内を駆けていた。いつもは冷静沈着な彼が、慌てた表情を浮かべとある方へ駆けてゆく。
「サキエル様、危のうございます!」
「危ないのは、兄上の方さ!………いや、義姉上か…」
メイド長に叱咤され、サキエルは立ち止まる。
「サリアナ様?」「そう、兄上ってば義姉上が消えたからとんでもない魔法発動するに違いない!」そう言い放ち、サキエルはまた走り出す。メイド長は、「それは、一大事!」
パンパンと、柏手をうつとささっとメイドが現れる。
「皆さん、サリアナ様の一大事です。ラファエル様が暴走しているみたいです」
「それは、なんと一大事!」
そう叫ぶやいなや、一斉に飛び出すメイドたち。
「…叫ぶなど、メイドに相応しくない。戻ったら、こってり絞りませんと」メイド長は、ぽつり呟いた。
「アリシア、サリアナ様の行方は?」
「………」「……その顔は、知らないのですね」
切羽詰まった表情を浮かべ、アリシアはそこに立っていた。「メイド長も、知らないんですね」
「ええ、先程サキエル様より聞きましたばかりです。本当に居ないのですね」
メイド長がたずねると、コクリ頷く。
「サリアナ様が危ないそうよ、アリシア。ラファエル様が暴走しているみたいだわ」
アリシアは、とっさに飛び出した。
****
「兄上、いらっしゃるなら開けてください!」
バンバン、戸をたたくが一向に開きやしない。魔法をぶつけてみたがそれも変わらない。戸が無傷な所を見るに確実にいる、兄上は。
「開けてください!兄上!」
「ああ、サキエルか。入れば」
そう言われると、戸が勝手に開く。その先には、書物に囲まれた兄上。危険な香りがする、兄上は確実に危険な真似にでるはずだ。
「兄上、妙な真似…っ!遅かった」
「うん、遅かったね」
サキエルは、妙な感覚に襲われ座り込む。なんだ、この感覚は…
「陣は展開しちゃったから、もう遅いよ」
「なんの、陣ですか?!」
「え、無効化だけど」
サキエルは、頭を抱えた。そんなことしたら、この国にかけてある魔法も、魔法によって動いているものも全て止まる。それでは、国が成り立たない!そして、大事なのは…規模だ。規模が小さければ、なんら問題ないがしかし兄上の魔力は絶大的。確実にこの国全体囲える陣を形成できる。
しかしなぜ、無効化なのだろうか。いや、まて規模が重要だ。「兄上、規模は…?」「そうだね、隣国までかなぁ…」
隣国まで、巻き込む気ですか?!ちょっとそれは、ある意味戦争を招きます!!
「大丈夫、了解はとってるよ。なにせ、僕を敵に回したくないらしい」
確かに、兄上一人で一国を潰せる魔力を持つ。そんな奴に、言われたら、了解もするか。しかし、さすが兄上だ。無茶な行動にでるがちゃんと手回しはしているのか。しかし、このまま無効化を続けたら支障がでてくる。いくら、攻めても魔法が使えないとはいえそのほかの武具がある。
「すぐ、終わらせるよ。あと、結界魔法もかけるからさ」
「兄上、何をなさるつもりで…?」
「幼女魔法を使うサリアナを見つけるためだよ」
義姉上!んな魔法つかってまで逃げますか?!なんか、可哀想に思えてきた。これで、見つけられたらお終いだ。きっと、抱き潰されるに違いない。
「………見つけた、案外遠くまで行ってないか」
ああ、やっぱり義姉上の危険だった。
無効化陣を形成しながら、探索魔法をも発動。なんたる、執念。恐ろしい、もう少しで僕と義姉上は婚約者になっていたと思うと。婚約者になるかもしれない、という話を兄上と聞いたとき兄上の瞳は僕を殺さんとする獰猛な目つきだった。一種のトラウマだ、いつ出会ってたかは知らないがずっと好きだったらしい。しかし兄上は、魔力の強い人じゃないと結婚出来ない、だから魔力の強いことがわかった後は凄まじかった。早々に契りを交わし、側においてずっと愛でていた。
やりすぎたんだよ、兄上。
ごめん、義姉上。回避、させたかったんだけど無理だったよ。
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