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その7

要森を出たのは日暮前だった。

私達が出た森の出入り口には、逢坂学園の教師以外誰もいなかった。

最後だからなのか、この出入口からの生存者は私達しかいないのか、判断はつかないが各自クラスと名前を告げ、Bクラスのスタート地点であった石の門を通り抜ける。

門とはいっても馬鹿でかい岩を左右に並べただけのものだけども。

なにやら、文言が刻んであったり、縄がかけてあるが詳しいことは私にはわからない。

ぼんやりと門を眺めていると元臣がちらりとこちらを見た。

「124代目御三家筆頭の結界石だ。間違っても、壊すなよ」

「は? ちょっと触っただけで壊れるんなら、そっちの方が問題だろーが」

「お前は……ほんの少しでいい、自分の力を把握してくれ。面白半分で結界石を叩き割れば、お前はともかく学園の人間がどうなるかぐらいわかるだろう」

「人を野性のゴリラか何かのように言うのはやめろ。私は人間だっての。つか、壊す気ないし」

「ああ、そうだな。信じているとも」

こいつ……!

その手にある麻酔銃は?

一体、どこに隠してたんだよ!

まさか私に、向けて使うつもりじゃねーだろうな。

向けたら最後、その無駄に整った顔に左ストレートをぶち込んでやる!

「……あの、なっさん」

生まれたての小鹿のように足を震わせながら、凡庸男子が睨み合う私と元臣の間に割り込む。

「んー? 」

「怪我したくなければ、犬は下がってろ」

「い、いや、あの、逢坂さんが……」

月子の名前に私と元臣は同時に振り向く。

月子は血の気の引いた真っ青な顔で今にも倒れそうにふらついていた。

どろりと粘つく黒い靄が白く細い手足に絡みついている。

靄を振り払おうと一歩前に出ると、先に元臣が何かの文言をぶつぶつと呟いて月子の額を指先で軽く押した。

途端に、黒い靄がふわりと空気に溶けるように霧散する。

「本当は形無しが祓った方が長く持つんだが、お前が殴ると月子の骨が折れてしまう」

悩ましい溜息を吐きながら、真面目な顔でそんなことを言う元臣。

こいつマジで私のことをグリズリーか何かだと思ってるんじゃないだろうか。

ほんのりと血の気が戻ってきた月子の頭を撫でると月子はにっこりと微笑んだ。

「背伸びしているなっちゃんも可愛い。癒し系ね」

月子は私よりも背が高いので髪を撫でようと思ったら背伸びしないと届かない。

やっぱりもう少し身長欲しいな。

「なんだ。殴らなくても祓えるんだな」

人を小ばかにした笑みを浮かべている元臣に、私もにんまりと笑い返す。

「安心しろ。バカ臣を祓うときは思い切り殴ってやる」

「遠慮するよ。第一、祓う必要がなくとも殴るだろうお前は」

人を小ばかにしたようにふん、と鼻を鳴らす元臣。

何だったら今すぐ殴ってやっても構わないんだけど、月子の体調も悪いしできるだけ暴力は控えよう。

ただし言わせっぱなしは面白くないので、私も肩をすくめて、あからさまに元臣を見下すように言葉をつづける。

「元臣は私を怒らせる天才だから。仕方ないね」

びきり、と元臣の涼しげな白い眉間に青筋が浮き上がる。

わぁお、人ってマジで怒ると青筋が浮き出るんだね!

つい顔がゆるんでにやにやしてしまう。

元臣は顔が整っているので、怒っている顔にも凄味があって見ごたえがある。

以前、本気で怒っている元臣を見たことがあるが―――つりあがった眦と爛々と輝く双黒の瞳、はっとするほど白い頬は上気し、朱を引いたように紅い唇は硬質に引き結ばれ―――本家の関係者の一人が、背筋が凍るほど美しいと評したのも頷けるほどだ。

まぁ、昨今ではなかなかそこまで怒ってくれないが。

今だって、「お前と話すのは時間の無駄だ」と言わんばかりに、扇で顔を隠しそっぽを向いている。

お互いにそっぽを向いている私と元臣の沈黙を気まずく思ったのか、月子が私と元臣の腕抱きかかえるようにして小さく笑った。

「ふふ。見鬼様となっちゃんが仲睦まじくて嬉しいです」

いやいや、今の会話を聞いててどうしてそうなる?!

「月子さんってマジ大物ですね。僕は授業で習った東西冷戦ってやつを思い出しましたよ。婚約者とかってもっとラブラブ~な感じじゃないんっすか」

そうそう、名ばかりの婚約者だからね。仕方ないね。

突っ込みを入れる凡庸男子をさっと振り返って、月子は意味深な笑みを浮かべる。

「愛の形は人それぞれなのよ。只人君」

「マジっすか。SとかMとかってやつですか。勉強になります。いやでも、待てよ……なっさんと式巫さんってどう見てもS極同士なんっすけど……」

「なっちゃんはね、そういう人たちを跪かせるのがとても得意なのよ」

凡庸男子の容赦ない突込みにムキになったのか、とんでもない誤解を招く発言とともに月子は凡庸男子の反論を笑顔で封じ込め、勝利を勝ち誇る子供のようなドヤ顔を披露した。

「ま、マジっすか……なっさん、マジパネェ……」

お蔭で何も知らない凡庸男子はすっかり信じ込んでしまったようである。

ひとこと言わせてほしいのだけど、私にそっちの趣味はない!

声を大にして反論したかったんだけども……月子もいつの間にか元気になったようだし、まぁ、いいか。

くくく、と扇の奥でこらえ切れない笑いをもらした元臣のお腹に裏拳を一発ぶち込んで、私たちはのんびりと寮に戻った。

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