隠されたチカラ
それから僕は、彼女に携帯の電話番号、メールアドレスを教えてもらい(危ない時はいつでも呼んでいいからね、すぐ助けに行くから・・・・・・的な事を言ってしまったが、後悔はない、恥ずかしくもない。本当だよ)それぞれの家へと帰った。本当は、アンリちゃんを家まで送っていきたかったが、彼女が頑なにそれを拒んだので、諦めることにした。ここで僕という人間は寒い事言って嫌われたのではないか、とか、家をつきとめて何する気!?キモい!!とか思われてないだろうか・・・・・・等と絶賛被害妄想中なのである。
そういえば、彼女の親、アンリちゃんの両親はどっちかが悪魔なんだよな。母親と父親どっちが悪魔なんだろうか。というか、何がどうなって悪魔と一緒になろうと思ったのかがちょっと気になる。まぁでも、悪魔とか人間とかは関係ないか。現に僕は悪魔でも人間とも言い切れない月詠アンリを好きになっているのだから。
「はぁ・・・・・・」
家に着いた僕は、真っ先に自分の部屋のベッドへと寝転んだ。狭い天井を見ながら、今日起きた事を少しずつ思い出していた。今日はホント、色々あったな・・・・・・
さて、ヒロインが出てきて、悪魔という人間の敵も出てきて、いよいよ物語が動き出す・・・・・・というわけではなく、くだらない日常パートが始まります。はい。
「ん・・・・・・」
僕はメールの着信音で目が覚めた。昨日、転校初日の昨日、家に着いた僕は、自分のベッドで一時間ほど横になった後、軽く風呂に入り、そのまま部屋に戻り、ご飯も食べず寝てしまった。色々と疲れていたのだと思う。身体がというよりも、精神が。
「誰だよこんな時間に・・・・・・」
ふと時計を見るとまだ朝の六時だ。いつもだったらまだ寝ている。重たい目を擦りながら作業的にメールを開く。瞬間、僕は一気に目が覚める。目覚めた。そのメールの送り主は月詠アンリ。本文にはこのように書かれていた。
朝早くにごめんなさい。
もしよかったら一緒に学校行かない?
迷惑だったら別にいいんだけどさ。
もし大丈夫なら返事下さい。待ってます。
これは・・・・・・
「とうとう僕の時代きやがったか・・・・・・っ!」
僕は女子高生並みの速さで彼女に返信するのであった。
こうして、好きな子と一緒に登校する事になったわけだけれど、どうなんだろう。アンリちゃんってもしかして、もしかすると僕の事好きなのか。という事は両想いなわけだ。今日にでも告白してもよさそうだな。
なんて妄想をしているともう家を出る時間だ。相変わらず、というか説明していなかったけれど、ウチの親は二人とも共働きで朝が早い。僕は一番遅く家を出るわけだ。いわゆる鍵っ子。一人っきりの家を後にして、僕は彼女との待ち合わせ場所に愛車に跨り移動した。待ち合わせ場所・・・・・・というのは、昨日僕らが別れた場所の事だ。もしかしてこれから毎日彼女と登校出来たりするのだろうか。この彼女という表現の仕方ですらドキドキしてしまう。彼女はいずれ彼女になるなんて事にならないだろうか。そういう意味のドキドキだ。
やはり僕はスタミナがまるで無い。待ち合わせ場所に着く頃にはもう息が上がっており、歩いたほうが早いんじゃないか、と思うほどゆっくり、力無く、愛車を漕いでいた。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
息を切らして到着すると、そこには可愛らしい美少女が立っていた。まぁ、もちろんアンリちゃんだ。
「おはよう、天麻くん」
「おはよう、今日も可愛いね」
あれ? 僕ってこんな事言うキャラだっけ? いやいや、絶対違う。僕はこういう事言うキャラとは正反対な存在であるはずだ。なのに、なんでこんな事に、アンリちゃんが可愛すぎると言う現実から目を背けられない、そういう事なのか。恐るべし、アンリちゃんの可愛さ。
あまりにスムーズにあんな言葉が飛び出たため、アンリちゃんは困惑している。あーあ、やっちゃったよ、やっちまったよ。良好な関係が築けそうだったのに、築く前から崩壊する音が・・・・・・
「あ、えーと、ありがとう?」
頬を赤らめて、彼女はそう言った。なんだこの可愛さは。こちらこそありがとうとお礼をしておこう。
「それにしても・・・・・・」
ゆっくりと学校へと歩みだした時、彼女が僕に話しかける。
「よく、私と一緒にいられるね。正直、ダメ元で一緒に登校するの誘ったんだよ?」
え? なんでダメ元? 僕からしたらこんな美少女と一緒に登校するなんて夢のまた夢の夢のまた夢ぐらいに僕は彼女に夢中なのに。