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中二病な悪魔  作者: da1
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二つの悪魔

僕は駐輪場へと自転車を取りに来た。ごちゃごちゃに埋め尽くされた自転車たちの中から古びた愛車を見つけ出す。彼女は自転車通学ではないので校門で待っててもらった。

それにしても……

僕はとんでもない女の子を好きになってしまったらしい。世の中には、星の数ほど女の子がいるわけだけれど、あの子のような女の子は滅多にいないであろう。悪魔。そんなものは漫画やアニメだけのキャラだ。そんな事は誰からに教えられるまでもなく皆知っているはずだ。が、それはどうやら間違いだったらしい。悪魔はいる。僕の隣の席に。いた。

もう僕は完全に彼女が悪魔だという事を信じていた。天使のような笑顔。そう思っていたが、なんて事だ。彼女は天使どころか悪魔だったんだ。

だけど、しかし、そんな事で僕の気持ちは変わらなかった。悪魔だろうが、天使だろうが、神様だろうが、人間だろうが関係ない。僕は月詠アンリという存在が好きだ。その気持ちは、変わらなかった。


僕はこんなに人を好きになった事などない。

今日初めて会ったのに何言ってんだ、と思われても仕方ないが、本当に好きなのだ。見た目が可愛いから。という理由も、もちろんあると思うが、何か、口では言い表せない何か。出会った瞬間好きになってしまったのだからしょうがない。どうしようもない。

話は急に変わるが、彼女、見た目悪魔っぽくない。悪魔と言えば角とか生えてたり尻尾生えてたり、なんか黒かったりと色々なイメージがあるわけだが、彼女にそんな要素は見られなかった。なんというか・・・悪魔悪魔してなかった。人間人間してた。

そんな人間人間してる彼女が待ってる校門へと僕は自転車に乗り走り出す。走り出すといってもほんのわずかな距離なわけだけれど。


「もう遅いよー、あんまり好きな女の子を待たせるもんじゃないよ?」


そんな青春っぽい台詞を期待していたが、彼女はあっさり、さっぱりとした様子で、じゃ帰ろうか、と言った。そんな彼女も好きなんだけれど。

考えてみれば、今、この状況は僕が長年夢見てた場面の一つだ。僕は自転車を押して彼女の隣を一緒に歩く。はたから見ればこれはもうカップルにしか見えない。彼氏と彼女。その辺アンリちゃんはわかっているのだろうか。まあ、わかっていてもいなくても僕はこの現状を楽しんでるので問題ない。

ああそうだ。僕から誘ったんだし何か話さないと不味いな。普通の男女だったら、他愛もない、何の実にもならない話を延々しているのだろうけど、僕はそんな幸せな会話よりアンリちゃんに聞きたいことがあった。残念だけど。

─そう、彼女の、アンリちゃんの傷は誰がつけたか、だ。

嫌な予感はしていたが、聞いてみる。


「ねえ、朝の傷、誰につけられたの? まさか転んだとか言わないよね」


「あー、あれね。あれは悪魔にやられたんだ。痛かったなあー」


予感は的中した。当たってほしくなかった予感。彼女の他にも悪魔はいる。


また一つ疑問が出来てしまった。何故悪魔同士で傷つけあったのか。同じ種族なのに。まあ、それを言ったら人間だって人間同士で普通に殺し合いしてるし、同じ種族だからって皆仲良しってわけにもいかないか。そんなの気持ちが悪い。

ただ、傷つけあうにしても何か理由があるはずだ。大それた事でなくとも、ただ単に気に入らなかった、とか。ゲームに負けてむかついたから、とか。そんな小さな事でも理由があるはずだ。僕はその理由を知りたかった。


「アンリちゃん、なんでその悪魔にやられたの?なにか因縁があったり?」


「いやいや、アイツは人間を襲う悪魔だったからやっつけただけだよ」


やっつけた?やっつけたって事は闘って勝ったという事だ。彼女が?俄かに信じがたい事だ。まさか戦闘タイプだったとは。人は見かけによらないな。ああ、この場合は、悪魔は見かけによらない・・・・・・が正しいか。というか人間を襲う悪魔がいるのか。普通に恐いな。


「その悪魔はどうしたの?やっつけたって事は追い払ったって事でいいのかな?」


「アイツは私がちゃんと殺したよ。 安心して。 死体も燃やしたしね♪」


そんな♪マークつけて言う台詞ではない。

僕は彼女の隣を自転車を押し一緒に歩いてる。こんな幸せなことはない。こんなに幸せなのに、何故か足が震えていた。


怖かった。

彼女は殺し合いをして、そして勝って相手を殺した。そんな事を有り触れた会話の様に、世間話の様に、話したことが怖ろしかった。わかっていたことだがこの子は普通じゃない。狂気。中二病ってレベルじゃなかったのだ。


「うっ」


彼女は急に膝をつき、左目を手で押さえ始めた。この光景どこかで見た事がある。

─そう、彼女と初めて会った時と同じ光景。

時間が巻き戻されたかのように、あの時と今の彼女の姿は重なっていた。あの時と同じ。一つ違うのは、ただの中二病として片付けていた彼女の台詞が、今じゃ笑い話になっていないと気付いた、という事だ。

”死ぬかもしれない”

あの時彼女はそう言った。嫌な予感がする。寒気が、恐怖心が僕を襲ってくるのを感じた。


「天麻くん! 安心しちゃダメだった、もうすぐ悪魔がここに来る! 早く私から・・・・・・」


彼女が言い終わる前にソレは現れてしまった。僕たちの目の前に。次元が裂けたかの如く、ソレはいきなり現れたのだ。


男だ。黒い髪に、冷酷そうな顔。それになにより印象的だったのは、赤い、紅い、瞳だ。

ソレが人間ではない事は僕の中のなにかが教えてくれた。それは本能というやつなのかもしれない。

僕たちの目の前にいるのは人間ではない。まぁ悪魔なわけだ。


「女、お前人間じゃないだろ? 何者だ? ああ、やっぱいいわ、そんな事はどうでもいい。」


男はアンリちゃんに向かって話しかけた。話しかけておいて自分からどうでもいいとか言っちゃってるけれど。どうやら礼儀がなっていないらしい。まぁ人間じゃないんだからそこらへんの常識は知らなくてもしょうがないのか?


「そんな事より、うまそうな食料がいるな」


食料?そんなものどこに・・・・・・


「んじゃ、いただきます」


言うとソレは僕に向かって、人間とは思えないスピードで近付いてくる、人間ではないのだけれど。

そして思った。そうか、食料ってのは僕の事か。悪魔は人間を食べるのか。初めて知った。いい勉強になったぜ。・・・・・・とか思ってる場合じゃない。逃げなきゃ、殺される。死ぬ。食われる。

怖い。ただ怖かった。足が動かない。自分の足じゃないみたいだ。生まれて初めての死への恐怖。こんなにも死ぬってのは怖い事なのか。嫌だ。殺されるのは、嫌だ。・・・・・・が、僕は結局動けなかった。変わりに彼女が動いていた。僕の目の前で彼女、月詠アンリは男の両腕ががっしりと掴み、ソレの動きを封じていた。


「私の友達になにしてんだ? 殺す」


その時、彼女の左目がちらりと見えた。紅い、真っ紅な瞳だった。


「なんだ、お前も悪魔なのか? 純粋な悪魔ではないようだが」


純粋の悪魔ではない?アンリちゃんが?なら一体なんだ?純粋じゃないという事は悪魔以外の血が混ざってると。そういう事なのか。だとしたら、悪魔と何だ。人間しかないだろう。

悪魔と人間のハーフ。

彼女が今までどんな気持ちで生きてきたかなんて僕は知らない。けれど、わかる事が一つある。思春期によくある悩み、不安なんてものとは比べられないものを彼女は抱え生きている。それだけはわかった。


「お前の言うとおり私は、完全な悪魔ではない・・・・・・が、それがどうした?」


言うと彼女は悪魔の腹に思い切り、重い蹴りをお見舞いした。

悪魔は後方へ、まるで重力を無視したかのように10mほどぶっ飛ばされ、悶絶していた。

彼女は左目を紅く輝せながら僕を見て言う。


「ちょっと待っててね、すぐ殺ってくるから」


ニコリと笑う彼女の笑顔は、とても・・・・・・


怖かった


10mほど先。悪魔がぶっ飛ばされた所にアンリちゃんはいた。一秒もかからず、そこにいた。どうやって移動したなど、そんな事はただの人間の僕にはわからない。猛スピードで走ったのかもしれないし、いわゆる瞬間移動ってやつをしたのかもしれない。アンリちゃんだったらそんな事も出来そうな気がしたのだ。なんでも・・・・・・出来そうな気がする。

僕はというと、まだ足を震えさせながら立ち尽くしていた。二人は闘っている。二人の悪魔。いや、正確に言えばアンリちゃんは悪魔とは言えないのか? 人間であり悪魔でもある。人間でもないし、悪魔でもない。そんな存在。

ただ、アンリちゃんはそんな存在なのだけれど、悪魔と互角に、いや、互角以上に闘っていた。遠くからなのでよくは見えないが、アンリちゃんが優勢という事はわかった。二人の拳がぶつかるごとに物凄い衝撃音が響き渡るわけだが、時間が経つにつれ悪魔の手数が減っていくのがわかる。ガードするのが精一杯。そんな感じ。比べてアンリちゃんはというと、ガードなど一切せず、悪魔目掛けてひたすら殴りかかっている。溢れる殺気をはなちながら、狂ったように、ただひたすら。彼女は攻撃をやめない。


あれから10分ほど経っただろうか。僕の足はようやく震えが治まりいつものように、自由に動かせるようになっていた。そしてゆっくりアンリちゃんに近付いて。そして。

見てしまった。見えてしまった。そこには悪魔が倒れているわけだが、頭部、首から上は原型を留めてなく、頭蓋骨が粉々に砕かれていたのだ。既に肉片とかした頭部にアンリちゃんは未だ拳を振り下ろしている。楽しそうに、悪魔みたいな笑顔で、だ。返り血を浴びすぎて彼女の全身は赤一色になっているが、紅い瞳をした彼女はその手を止める気配はない。

そんな光景、人が無残に殺されている光景を見ても(人と言っても悪魔なわけだが)、何故か僕は、気持ち悪くなって吐いたとか、生まれてはじめてみた残酷な死体で気絶などはせず、ただ、『助かった』と、それだけだった。それは、悪魔が僕ら人類の敵だから。殺してもいい存在なのだと意識してるからだろう。そんな悪魔を、殺すべく悪魔を、現在進行中で殺してるアンリちゃん、彼女は僕の命の恩人となった。ヒーローのようにも見えた。血なまぐさいヒーローである。


「ふぅ」


アンリちゃんの手が止まった。やっと、やっと気が済んだらしい。彼女は、子供が蟻をいじめて、楽しく殺すように、死んだ蟻にも容赦なく残酷な行為をするように、悪魔を嬲り殺した。彼女の左目は髪で隠れてもう見えない。

「終わった終わった。天麻くん、大丈夫だった?」

全身血だらけの女の子が僕を心配している。第三者がいればツッコミを入れたくなるようなシュールな光景である。


「僕は大丈夫だけど、アンリちゃんの方こそ大丈夫なの? 最初は結構攻撃くらってたよね!?」


そう、彼女はノーダメージでこの勝負に勝ったわけではない。全身血だらけの彼女だが、その血のほとんどは彼女自身の血なのだ。あれ?よく見るとこれ、ほんとにやばくないか?

近くで見るとわかってきた。彼女のダメージの大きさ、悪魔という存在の恐ろしさを。

まず、腹、顔、足、腕、所々肉が抉られていた。骨まで見えている。どんな攻撃されたらこんな有様になるなんて想像もつかない。けれど、驚いたのはこれだけじゃない。治癒。とんでもない治癒力だ。再生されているのだ。ゆっくりだが確実に全身の傷が次々癒えていくのがわかった。僕は知ってしまった。これだけのダメージを与えられる悪魔がいる事を、そして、そのダメージを受け、なお相手を嬲り殺しにし、そのダメージを完全に治癒できる者がいる。月詠アンリの恐ろしさを。


「私は大丈夫だよ、ねっ」


言って、アンリちゃんは既に再生された身体を僕に見せ付ける。確かに、血だらけの事を除けば普通の女の子の身体に戻っている。だけど、だけれど、いくら再生されたって攻撃された時の痛み、痛覚は、僕らと同じようにあるだろう。聞いてみる。


「今は大丈夫ってわかったけどさ、アンリちゃん。いくら君でも殴られた時の痛みとかは感じるんだよね? 普通の人間と同じようにさ」


「まあね、そりゃあ普通に痛いよ。天麻くんみたいな普通の人間に、普通の力で、普通に殴られても痛いよ。痛覚はそこ等へんにいる女の子と変わらないだろうね。それがどうしたのかな」


「なんで・・・・・・」


「ん?」


「なんでアンリちゃんはそんな辛い、痛い思いをしてまで僕たち人間を助けてるの? 僕が転校する前からずっとみんなを守ってたんでしょ? わかるよ、朝傷だらけだったのは、人間を襲おうとした悪魔と殺し合いしてたからなんでしょ? それに対してクラスの皆は、アンリちゃんに感謝するわけでもなく、いつもの事だからとか! 関わらない方がいいとか言っちゃってさ! それっておかしいよ! 文字通り命をかけて助けた相手にする態度じゃない! そんなの絶対おかしい・・・・・・!」


「天麻くん、私はさ・・・・・・感謝されるために人を助けてるわけじゃないんだよ?」


よく聞く台詞だった。漫画やアニメ限定の話しだけれど。

見返りなしに人を助ける人ってのは、まぁそれなりにいると思う。例えば、重い荷物を持って大変そうなおばあちゃんがいたら代わりに持ってあげるとか、そんな日常生活に有り触れた人助けは、珍しいかもしれないが存在しないって事はないだろう。だけど、けれど、アンリちゃんの行っているソレはこれらの人助けとはまるで意味が違う。文字通り人を助けているのだ。命をかけて、他人の命を守っている。そんな行為を見返りなしで、感謝もされないで行える人なんているのだろうか。・・・・・・いないだろう。そんな事出来る『人』はいない。

けど、感謝されるためじゃないなら、他に何か助ける理由があるのかな。少し野暮だが聞いてみる。


「じゃあ、アンリちゃんは何の為に人を助けてるの?」


「人が好きだから」


一言。ただ一言そう言った。

クラスではあんな扱い受けているのに。もしかしたら過去に何かがあったのかもしれない。ただ、だからと言ってそれだけの理由で命をかけられるのか。

アンリちゃんは、僕ら人間より人間が好きなのかもしれない。 


「1人ぐらい人間を助ける悪魔がいたっていいと思わない?」


アンリちゃんは人間が好きだ。だから、命をかけて人間を守る。

僕はアンリちゃんが好きだ。だから、傷だらけなアンリちゃんを黙って見てるなんて、出来ない。

だから・・・・・・

だったら・・・・・・


「だったら僕は、”人間を助ける悪魔”を助ける人間になってやる。」


どうやって守る、なんてもちろん考えてない。考えていないが、好きな子一人守れない男にはなりたくない。そう考えていた。少しカッコつけた台詞になってしまったかもしれないが。


「ふふっ、ありがとう。カッコいいね、天麻くん。ホント、カッコいいよ」


それこそ天使の笑顔でそう言った。悪魔要素なんて欠片もない、可愛いらしい笑顔。やっぱり彼女はこの笑顔が似合う。きっと本物の天使よりも。


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