09
「動いたらダメだよ。動いたら怒るからね、動いたら私落ちるから、今腕ギリギリだから、私が良いって言うまで動かないでね。ねえ、聞いてる?」
「分かった分かった。早く足出しなって」
エラルドの肩を掴んで、足をそろりそろりと少しずつ窓から出す。
足を置くところが見つからなくて、足は宙ぶらりん真っ最中だ。
ようやく足を出し終わり、手を片方ずつエラルドの肩から窓の枠へと移動させる。
足を右に左にそっと動かしてどこかに突起がないか探る。
そうしてようやく、足を引っかけるところが見つかって、つま先を置き、ほうっと息を吐いた。
「大丈夫?」
「な、なんとかね・・・」
そう言いながら下を見下ろす。そしてその行動をすごく後悔した。
高さを改めて実感し、心臓がドクンドクンと速く大きく動き出す。
手の指の先でまで心臓の鼓動に合わせて血液が勢いよく流れるのを感じる。熱い。
落ち着け、落ち着け。そう念じながら、もう一度そろっと下を見る。
着地の目標は、少し先の、形の整った庭木。
あそこに着地できさえすれば。
目を強くつぶる。
気持ちをどうにか落ち着かせようと、肩を上下させて深呼吸を大きく二回。
ここから大きく壁を蹴り出してジャンプすれば、大丈夫。大丈夫。大丈夫。
よし。
「行ってくる」
「気をつけて。すぐ俺も行くよ」
「うん、待ってる。それ、じゃっ?」
体が浮いた。
あれ、私まだ手を離してないんだけど。
慌てて見た視線の先には、石を掴んだままの私の手。
「い・・・っ!」
石が取れた!
反射的に窓を見ると、目を大きく開いたエラルドの顔。
ああ、髪は白とか金とかそんな感じなのに瞳は黒いんだね。なんて逃避思考に一瞬走って。
体が落ち始めるのを、頬に当たる風で感じた。
「ひっ・・・」
それでも悲鳴をこらえたのは、よくやったと自分を全力で褒めてあげたい。
落ちるのはどうしたって止められない。
もうどうしようもない。
腹をくくり、目をつぶって、次の瞬間に来るだろう衝撃に備えて体に力を入れた。