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日だまりの丘  作者: こまこ
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鳥の声が聞こえる。ああ、朝だ。

今何時くらいだろう。瞼を閉じていても明るさを感じるから、日が昇って結構経っているのかもしれない。こうしちゃいられない。学校に遅れちゃう。早く起きて朝ご飯食べなきゃ。でもなんだか体が重い。どうしてだろう。

そよそよと風が頬に当たって気持ちが良い。さわやかな朝の風。・・・あれ、私、窓開けて寝たんだっけ・・・?


「あの、あの」


・・・・・・ん?


「あの、・・・ち、千歳さま、お、おはようございます、あ、朝でございます」


千歳、さま。ええ、確かに私の名前は千歳だけれど、さまなんてつけられるご立派な身分なんかじゃないんですが。

・・・・・・何かおかしい。

起きて状況を確かめなきゃいけない・・・のに、なんだか起きたくない。なんだか嫌な予感がする。ひしひしと。これが噂に聞く第六感?

ううん、でもいつまでも寝てもいられないし・・・し、仕方ない!

意を決してカッと目を開けると、目の前には白い天井があった。うん、やっぱりおかしい。だって、私の部屋って木造立てで茶色だったもの。

視界の端で何かが動いたような気がしたから、そっと目を向けると、これまた真白いカーテンが風に揺れていた。私の部屋のカーテンは水色だ。こんなカーテンじゃない。


ここはどこだっけ。起きがけでまだぼんやりとしている頭をどうにか回転させていると、さっきと同じ声が聞こえた。


「あの、千歳さま、あの、あの、あのっ・・・殿下から、お、お言付けが・・・」


・・・・・・でんか。でんか、でんか。・・・殿下。


がば!ばさっばさばさ!


「・・・ああー・・・ごめん」


はい、目が覚めました。そうでした。思い出しました。ここは王城。私は三日前からここにお世話になっている。そういえば昨日も一昨日も同じ目覚め方だった。

ああもう、そろそろ慣れないと。毎回毎回お布団も落ちちゃうし。


ため息をついたところで横にふと視線を向けるとそこには、目を丸くして立ち尽くす少女が立っていた。名前はリリーティア。

ウェーブのかかった赤い髪が印象的な小柄な女の子。歳は・・・聞いてないけど、多分私よりも少し年下、だと思う。ハの字の眉がいつも困ったような顔に見せていて(実際困っているのかもしれないけれど)、守ってあげなきゃと思わせるような雰囲気を醸し出している。あの王子に、ここでの私の世話役に任命されたらしい。


「おはよう・・・あの王子がどうかしたの?」

「お、おはようございます!殿下より、あの、言付けを頼まれまして」

「言付け?」

「ご、午後に、こちらに、お顔を出されるかもしれない、とのことです」

「・・・・・・ふうん」


あの後。そう、王子の手を握ってから。荷物のように抱えられて、王城に着くとあれよあれよという間にこの部屋に連れてこられ、入り口から部屋にも入らず絨毯の上にぽーんと投げられた。せめてベッドに投げようよ!と思い顔を上げれば、王子は「牢屋に行きたくないのなら大人しくしていろよ」と一言残してすぐに出て行ってしまった。

あまりにあっけない去り方で、すぐに気持ちがついて行けず、ぽかんとしてその閉まる様を見ていることしかできなかった。色々とあって疲れていて、もう追いかける気力もなく、これからどうしたらいいか考えようとしたけれど、絨毯が心地よく、眠くなってきてしまった。何も考えられないし、正直考えたくない。眠いときに動いてもいい結果が生まれるわけもないんだから、これからのことは明日考えようと決めて、もう無理、と絨毯の上にそのまま寝転がった。


そして次の日、朝起きるとなぜかベッドに横たわっていた私。足や腕にはいつの間にか包帯が巻き付けてあって、ベッド横にはこの少女が泣きそうな顔で立っていた。これがリリーティアとの最初の出会い。


「あ、あの、わわ、私、リリーティアと申します!今日から千歳さまの身の回りのことについてお手伝いさせていただくことになりました!よ、よ、よろしくお願いします・・・っ!」


おお、言い切った!すごいね、よく言い切ったね!と思わず拍手をしそうになって、すんでの所で止めた。

別に拍手をするほどのことでもないんだけど、ものすごく勇気をだして頑張って言ったんだろうなあということは伝わってきたから、つい拍手を送りたくなっちゃって。と、いうか。

・・・緊張しすぎじゃないかなあ。もしかして・・・私が怖いのかな。別にとって食うわけじゃないんだから。どうしてそんなに泣きそうになって・・・っていうか本当に泣いてるし!私ってそんなにおびえるほど怖く見える!?ええ、そんなの、むしろ私の方が泣きたくなっちゃう。


・・・ある意味衝撃的な出会いだった。初対面で私何も言ってないのに泣かれるって、ねえ。ちなみに三日たった今も私に対する怯えなのか緊張なのかはなくなっていない。聞いたところによると極度の人見知りらしく、私に対してだけじゃないみたいなので少し安心したけれど。この三日で少しは慣れたみたいだけど、緊張してどもるのは当たり前、たまに泣いちゃう世話係リリーティアとなだめる私、という構図ができあがっている。


最初、そんなのいらないと思った。お世話係、なんて。そんな、私はお嬢さまでも、ましてやお姫さまじゃないんだから。

確かに、一人でずっとここに置いておかれるのも困るから、誰かいるのはありがたいし、ついでにお城のことを教えてもらったりできたらいいなとは思うけど、髪を梳かすにしたって髪を結わえるにしたって着替えるにしたって、身支度なんかは一人でできるのだし。

だから、出会ってすぐに、世話してもらわなくても大丈夫だと言いかけた。でも言い終わらないうちにリリーティアったらぼろぼろと号泣し始めちゃって。

自分はやっぱり必要じゃないですよね、モタモタしていて使えないしむしろご迷惑になりますよねなんて次から次へと後ろ向き発言が途切れることなく続き、そんなひどい落ち込みように聞いても見てもいられなくなって、全身全霊をかけて励ましたり誤解を解いていたりするうちに断るタイミングを逃し、・・・結局そのままリリーティアは私のこの城でのお世話係として定着してしまった。


でも、今となっては、リリーティアにいてもらって助かってる。リリーティアによれば、体のあちこちを軽く打撲していて、足首の腫れはねんざか、もしかしたら骨に異常があるかもしれないとのこと。ひいい!そこまで痛いとは思っていなかったけれど、不思議なもので、怪我の手度を自覚すると痛みが一気に増幅したように感じて、少しでも動かすのが凄く怖くなるんだよね。

そうして今、私はほとんどベッドに張り付け状態。髪結いなんかはできるけれど、着替えや移動をするときには、リリーティアに助けてもらっていて、もし一人だったら何もできなくてとても困った状態だったと思う。


リリーティアはまあ、緊張し過ぎではあるんだけど、それを除けば普通の可愛い女の子だ。お茶の入れ方がとっても上手で、リリーティアの入れるお茶は絶品。美味しいって言ったときの、恐縮しつつも少しはにかんだ顔がとても可愛い。私と同じで甘いものが好きらしく、尋ねれば城下で売られているお菓子のお話もしてくれるし。それに、自分ではモタモタして仕事ができないとか言っていたけれど、私は十分な働きっぷりだと思う。ほら、あんな大きなカーテンもささっとまとめられる。私がやったら、風に吹かれたカーテンに遊ばれてしまいそう。私よりはずっと器用なのは確かだと思うけどなあ。


そう思いながら、目の前でてきぱきと働くリリーティアを見つめる。と、リリーティアがくるりとこちらを振り向いた。視線をあちらこちらにさまよわせて、手をもじもじとさせて。言いたいことがあるんだろう。せかしたい気持ちをぐっと抑えて、リリーティアの言葉を待つ。


「朝食、ですが、今日はてっ・・・天気もよろしいですし、あ、あの・・・」


顔を真っ青にしたり真っ赤にしたり忙しそうに顔色をころころ変えながら口ごもるリリーティア。そんなに緊張しなくても、言いたいこと言っていいと思うんだけどなあ。まあ、そんなところも可愛いなあとは思うけどね。思わず胸がきゅんとしちゃう。やだなあ、女の子相手に。でも可愛いんだもん、仕方ないよね。


「そうだね、じゃあテラスでご飯、食べようかな」

「あ、は、はいっ」


ぱっと顔を笑顔に変えて、元気に返事をしてからパタパタと朝食の準備に取りかかる。妹がいたらこんな感じかなあ、なんて思いながらぼんやりと見ているうちに、さすがリリーティア、あっというまに朝食の準備が終わったようだ。

できました!と珍しくどもらずに笑顔で振り向いたリリーティア。思わず私も笑顔になる。


「ありがとう。テラスまで手を貸してくれる?」

「はい!」


さて、じゃあ青空の下で、優雅にブランチといきますか。

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