表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日だまりの丘  作者: こまこ
21/34

21

「違います」

「・・・だが、王家の墓にいたのは事実だ。前も言ったが、あそこは許可なくして入れる場所ではない」

「そ、そんなこと言ったって・・・」


ああ、これじゃあ最初に出会ったときと同じだ。振り出しに戻ってしまう。

もしかしたら、そのまままた牢屋に入れられてしまうかも。それだけは絶対に避けたい。


「そ、そもそも、最初はあそこが本当にお墓かどうかも分からなかったし・・・まあ、石の周りにたくさんお花があったから、もしかしたらお墓なのかなとは思ったけど・・・」

「・・・それなら、どうやってあの場所へと入り込んだんだ」

「どうやってって言われても・・・が、学校に行く途中で、ブランコ、あの、椅子みたいなのに乗って揺らして遊ぶ遊具があるんだけど、それに乗ってて、飛び降りたら・・・あの場所に着いたの」

「学校?」


王子が不思議そうに尋ねてくる。そうか、この世界には学校もないのか。じゃあ、どうやってみんな勉強しているんだろう。


「ええと、みんなが集まって、勉強するところがあるの。小さい子どもから大人まで、学年や学力別に分かれて、基礎的なものから難しいものまで、先生に教えてもらいながら、色々と勉強するの。・・・この国は違うの?」

「・・・この国では、勉強は教師を家に招いて学ぶものだ。・・・そういえば、以前も、こうこう、とよく分からない言葉を使っていたな。この国には、というからには、お前は他国から来たのか」

「他国、というか・・・」


日本から来たこと、話していいんだろうか。エラルドは信じようとしてくれた。けど、この王子は・・・?

話したところで、信じようとしてくれるだろうか。初めて会ったときのように、馬鹿を言うな、と言われるのがオチじゃないのか。

それじゃあ、それっぽい嘘を言えばいい?・・・ううん、嘘はつけない、と思う。きっと嘘をついたところで、きっとこの王子はごまかされないだろうから。

王子を見れば、私の言葉を待っているんだろう、口を開かずにじっとこちらを見つめていた。あまりに真っ直ぐ見つめてくるものだから、なんだか居心地が悪く、視線を落とす。

初めて会ったとき、私の言葉に全く耳を貸さなかった人。もう一度、話そうとしたところで、・・・結局変な奴だと思われて終わりかもしれない。

どうしよう。それよりだったら、何も話さない方が・・・。

そう思った時、ふと、エラルドの言葉が浮かんだ。



『たとえ頭がおかしいって思われたって、その時は信じてもらえるまで話せばいいし』


『千歳にとってそれが嘘でないのなら、堂々と話せばいい。びくびくすることなんかない。相手がどう思うかは相手次第だけど、話さなきゃ何も始まらないよ』



・・・そうだ。牢屋の中で、決めたんだった。否定されたって、繰り返して話せばいい。そう、決めたんじゃない。


今の状況じゃ、逃げることだってできない。

できることは・・・信じてもらえるように願って、話すこと。信じてもらえるまで諦めないで、何度だって伝えること。それだけだ。


先程、つい落としてしまった視線を、もう一度王子の顔へと向ける。

王子は変わらず、こちらを見つめていた。緊張するけれど、今度は、視線は外さない。


話してみよう。日本に帰るために、自分ができることを精一杯しよう。

たとえ結果が伴わなくても、何もしなかったっていう後悔だけはしたくないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ