21
「違います」
「・・・だが、王家の墓にいたのは事実だ。前も言ったが、あそこは許可なくして入れる場所ではない」
「そ、そんなこと言ったって・・・」
ああ、これじゃあ最初に出会ったときと同じだ。振り出しに戻ってしまう。
もしかしたら、そのまままた牢屋に入れられてしまうかも。それだけは絶対に避けたい。
「そ、そもそも、最初はあそこが本当にお墓かどうかも分からなかったし・・・まあ、石の周りにたくさんお花があったから、もしかしたらお墓なのかなとは思ったけど・・・」
「・・・それなら、どうやってあの場所へと入り込んだんだ」
「どうやってって言われても・・・が、学校に行く途中で、ブランコ、あの、椅子みたいなのに乗って揺らして遊ぶ遊具があるんだけど、それに乗ってて、飛び降りたら・・・あの場所に着いたの」
「学校?」
王子が不思議そうに尋ねてくる。そうか、この世界には学校もないのか。じゃあ、どうやってみんな勉強しているんだろう。
「ええと、みんなが集まって、勉強するところがあるの。小さい子どもから大人まで、学年や学力別に分かれて、基礎的なものから難しいものまで、先生に教えてもらいながら、色々と勉強するの。・・・この国は違うの?」
「・・・この国では、勉強は教師を家に招いて学ぶものだ。・・・そういえば、以前も、こうこう、とよく分からない言葉を使っていたな。この国には、というからには、お前は他国から来たのか」
「他国、というか・・・」
日本から来たこと、話していいんだろうか。エラルドは信じようとしてくれた。けど、この王子は・・・?
話したところで、信じようとしてくれるだろうか。初めて会ったときのように、馬鹿を言うな、と言われるのがオチじゃないのか。
それじゃあ、それっぽい嘘を言えばいい?・・・ううん、嘘はつけない、と思う。きっと嘘をついたところで、きっとこの王子はごまかされないだろうから。
王子を見れば、私の言葉を待っているんだろう、口を開かずにじっとこちらを見つめていた。あまりに真っ直ぐ見つめてくるものだから、なんだか居心地が悪く、視線を落とす。
初めて会ったとき、私の言葉に全く耳を貸さなかった人。もう一度、話そうとしたところで、・・・結局変な奴だと思われて終わりかもしれない。
どうしよう。それよりだったら、何も話さない方が・・・。
そう思った時、ふと、エラルドの言葉が浮かんだ。
『たとえ頭がおかしいって思われたって、その時は信じてもらえるまで話せばいいし』
『千歳にとってそれが嘘でないのなら、堂々と話せばいい。びくびくすることなんかない。相手がどう思うかは相手次第だけど、話さなきゃ何も始まらないよ』
・・・そうだ。牢屋の中で、決めたんだった。否定されたって、繰り返して話せばいい。そう、決めたんじゃない。
今の状況じゃ、逃げることだってできない。
できることは・・・信じてもらえるように願って、話すこと。信じてもらえるまで諦めないで、何度だって伝えること。それだけだ。
先程、つい落としてしまった視線を、もう一度王子の顔へと向ける。
王子は変わらず、こちらを見つめていた。緊張するけれど、今度は、視線は外さない。
話してみよう。日本に帰るために、自分ができることを精一杯しよう。
たとえ結果が伴わなくても、何もしなかったっていう後悔だけはしたくないから。




